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じっくり味わう楽しさ。誰かと一緒の楽しさ

2023年7月1日(土)に、山梨県立美術館の特別展示会である『ミレーと4人の現代作家たち-種にはじまる世界のかたち-開館45周年記念』を見学しました。わずか2時間程の見学でしたが、様々な体験をすることができました。

ジャン=フランソワ・ミレー(1814〜1875)は、産業革命以降、近代化が急速に進展する19世紀のフランスで、自然と共に生きる農民の営みを描いた画家です。山梨県立美術館では、ミレーの代表作である『種をまく人』を収蔵してからも、ミレー作品の収集と展示を続けています。

今回の展示会は、ミレーは勿論のこと、私たちと同じ時代を生きる4人の現代作家の作品を鑑賞することで、多様な解釈をすることができるように工夫されていた。

展示会を見ていて、気づいたことがあります。それはミレーが様々なジャンルの作品を描いていることです。ミレーの作品というと、『種をまく人』以外にも『落ち穂拾い』や『シャイイの粉挽小屋を背景にした女羊飼いと羊の群れ』など、農民の生活を描いている作品が多いように感じます。しかし、実際に展示を見ていくと、ミレーは肖像画、神話画、宗教画、風景画など様々なジャンルの作品を生み出していることがわかりました。

今回の展示で、特に興味深く感じたものが2つありました。1つ目は、「第1章 移動、創造/山縣良和」です。一歩、足を踏み入れると、たくさんの展示物がありました。人間(展示されていたのは勿論生身の人間ではなく、藁人形の人間です)が何かをデザインしていたり、色彩についての本を読んでいたり、服が置いてあったりしました。初め、私はなぜこのようなものが置いてあるのかわかりませんでした。そこで、何となく入り口にあった山縣良和についての説明を読みました。

山縣良和は、writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)を手掛けるファッションデザイナーであり、ファッション表現の実験と学びの場であるcoconogacco(ここのがっこう)を主宰する教育者という2つの顔を持つ作家です。色彩やデザインに関する展示が多かったことに、とても納得がいきました。また、山縣の作品は自然をモチーフにして作られているものが多く、ミレーの影響を大きく受けているのではないかと感じました。

2つ目は、「第2章 大地/淺井裕介」です。淺井の作品はミレーと同様「大地」が重要な役割を果たしています。ミレーの代表作である『種をまく人』は人々から「土で描かれているようだ」と称されます。そして、画業が後半に差し掛かっていくにつれ、彼の作品は大地が画面の大半を占める特徴的な構図を持ち合わせていき、風景表現が豊かになっていきました。「大地」がミレーを象徴する重要なシンボルになっていったのです。

では、淺井の作品は一体どのようなものなのでしょうか。私は実際に彼の作品を「見る」だけでなく、「体験する」ことができました。彼の作品の一つである『5億年の贈り物』は、県立美術館の広い床一面を使って展示されていました。しかも、作品の上を歩くことができました。何も知らない第三者がそれを聞いたら驚きを隠せないと思います。私も初め、「作品の上を歩いてよい」と言われて、とても驚きました。でも、よく見ると、作品の上に人が歩けるようになっている白線が作品の中央にありました。一方通行で1人しか通れず、そのうえ白線を少しでもはみ出てしまうと作品を踏んでしまうことになるため、少しの緊張感と「作品の上を歩くことができる」という普通はできない体験の高揚感を抱えて歩きました。自分が歩いているところを、一緒に県立美術館を訪れた友人に撮ってもらったり、私も友人の歩いている姿を撮ったりしてよい思い出になっただけでなく、本当に自分が「淺井の作品の一部」になったような気持ちになりました。それ以外にも、淺井の作品が大地をイメージしていることも作品や色合いから読み取ることができました。

今回の展示では、山梨県内の神社、農地、そして美術館の敷地内で採取された土を用いて新たに作られた作品もありました。その中で私が特に興味を持ったのは、制作に使用した土の採取場所とそこで発見された実際の土の展示です。1つの作品に山梨県内の20箇所からそれぞれ違う土を1つの作品に全部織り交ぜるというアイデアに「普通ではなかなか思い付かない」と感銘を受けました。さらに、この展示で、私はモノが完成している状態ではなく、モノを作っている途中の過程のほうが興味深く感じるのだと気づきました。勿論、完成したものを見ることも色々な発見ができて楽しめます。でも、作っている途中の過程で使われたもの(ここでは土)を見ると、「これを使ってどのような作品ができるだろう」「自分だったらどう使うか」などと様々な想像をすることができ、とても興味深く感じました。たくさんのモノを鑑賞したことが自分の「興味の向く方向」について知ることにもつながったため、改めて見学をしてよかったと感じました。

私はこれまで山梨県立美術館に何度も行ったことがあるが、それらは全て自分が書いた書道作品の展示を見に行くことが目的でした。率直に言うと、美術館で美術作品をじっくり見たことがありませんでした。今回のミレー展が楽しめるかどうかも少し不安でした。いざ入ってみると、自分が見たことないものばかりでしたが、どこか親しみを感じるものが多かったように感じ、楽しんで見学することができました。なぜ楽しめたのか。おそらくはミレーや現代作家たちが自然や人など、私たちの身の回りにあるものをモチーフにしている作品が多くて見やすかったからだと思います。

端から端まで2時間じっくり見学したミレー展であるが、またもう一度見学し直したら新たな視点で作品たちを見ることができると感じました。また、よりミレー展を楽しむためには1人で見学するよりも誰かと一緒に見学したほうがよいと感じました。お互いに気付いたことや興味深く感じたことをすぐその場で共有できる楽しさがあるからです。また時間のあるときに、山梨県立美術館を訪れ、ミレー展で様々な作品を鑑賞し、何よりそれを誰かと一緒に楽しめるようにしたいです。

文:小林優日(山梨県立大学国際政策学部1年)

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