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訪れる非日常

こんにちは。山梨県立大学に通っている、ごくごく普通の大学生です。このたび、ご縁がありまして、山梨県立美術館で開催されている特別展『米倉壽仁展 透明ナ歳月 詩情(ポエジイ)のシュルレアリスム画家』の取材に伺いました(本展示会は一部の作品の撮影が可能です)。

とはいっても、自分は美術に関しては全くの素人、というよりこれまでの人生で関わってきたことがほとんどないほどです。知っている画家もゴッホやフェルメール、レオナルドダヴィンチなど、有名も有名な画家しかいません。そんな自分でも、今回の展示会はとても楽しむことができました。

今回の展示会に訪れることが決まり、最初に思ったことが、「シュルレアリスムって何ですか...?」でした。先生からは、予備知識は必要ないとは言われたものの、気になってしまい調べてしまいました。なるほど確かにこれはシュールです。さすがに自分でも見たことがある、ダリの『柔らかい時計』や、マグリットの『ピレネーの城』などが並んでいます。取材の前に、シュルレアリスムは言葉には表すことは難しいけれど、なんかシュールなものなんだ、というざっくりとした予備知識を得ることができました。

さて、12月10日、美術館に訪れました。半年ほど前に開催されていた『フランソワポンポン展』以来の来館です。あの時はシロクマの迫力がすごく、今でも覚えています。さらに、美術館に併設されているカフェには、フランソワポンポンのシロクマがモチーフになっているパフェがありました。かわいらしく、とても美味しかった記憶がよみがえります。

閑話休題。今回の特別展のメインは、山梨県出身の画家である米倉壽仁です。その彼が得意としてきた画風こそ、シュルレアリスムなのです。美術館に到着すると、このように大々的に宣伝されていました。

それでは早速、お邪魔してみましょう。展示会場では、彼の作品、そして彼と関係のある作品がストーリーに沿って並んでありました。すべては紹介できないので、自分が気になった作品をいくつかピックアップしていきたいと思います。

まずは、こちらです。

米倉壽仁 《ヨーロッパの危機》1936年 山梨県立美術館蔵

この作品が描かれたのは、1936年のこと。日中戦争が始まり、第二次世界大戦がいつ始まってもおかしくない、というよりも、世界が第二次世界大戦に向かっている。そんな時勢でした。作品の解説には「米倉の不安感や焦燥感、戦争に対する批判が込められている」と書かれていましたが、個人的な感想では《ヨーロッパの危機》というタイトルの割に、やけに明るいなと感じました。作品上部には、雲一つない青い空が広がっており、卵のようなものが割れそうで、新たなものが生まれようとしている、なんて素人目に考えていました。

続いて、こちらの作品です。

米倉壽仁 《黒い太陽》1954年 山梨県立美術館蔵

この作品は1954年に描かれ、同年に起こった第五福竜丸事件に対する批判が込められているそうです。第五福竜丸事件とは、アメリカがビキニ環礁で行った水爆実験により、放射性降下物を浴びた日本のマグロ漁船が被ばくした事件のことです。確かにこの作品の左側に何かが爆発したような衝撃が見られます。また作品名である黒い太陽と思われる球体から、黒い光線のようなものが右側にいる人のようなものに向かって伸びています。

この作品を見た時の第一印象は「怖い」でした。真ん中と右側にいる、生命力のない人間のようなもの、そして隙間から垣間見える目玉。もし仮にこの作品を自分が小学生の時に見てしまったら、怖くて眠ることが難しかったでしょう。しかしそれでも、「怖い」だけでなく、名状しがたいのですが、なにかひきつけられるようなものもこの作品にはあると思います。

最後に紹介する作品がこちらです。

米倉壽仁 《イロハ唄》1966年 山梨県立美術館蔵

いろは歌が描かれた壁に「メメントモリ」と書かれたポスターが貼ってあります。「メメントモリ」とは、ラテン語で「死を忘れることなかれ」という意味だそうです。17世紀ごろのヨーロッパでは、人生のむなしさを表す「ヴァニタス」の意味が込められた作品が多かったそうです。この作品はその「ヴァニタス」と日本の「いろは歌」が表す時の移ろいや、儚さを重ね合わせて表現されたと考えられているそうです。

個人的には、この作品が最も印象に残りました。素人ながらにメッセージ性があるなあ、なんて感じました。「死を思え」なんて、よほどのことがない限り、自分の「死」について考えないので、簡単なように見えて難しいです。

これらの作品のほかにも、目を引かれる作品が多くありました。正直、自分は美術に関して全くの素人ですので、楽しめるか不安でしたが、そんな自分でも美術館で様々な芸術に触れ合ている時間は、とても充実した楽しい時間でした。この記事を読んでいる方も、ぜひ美術館に足を運んでみてはいかがでしょうか。

『米倉壽仁展 透明ナ歳月 詩情(ポエジイ)のシュルレアリスム画家』は2023年1月22日まで開催されています。

取材をさせていただいた山梨県立美術館の関係者のみなさま、ありがとうございました。

文・写真:小野耀介(山梨県立大学国際政策学部3年)

 

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