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国民が安心できる持続可能な医療・介護の実現、質が高く効率的な医療提供体制の構築(令和3年版 厚生労働白書より)

本日は、「第2部 現下の政策課題への対応」の「第7章 国民が安心できる持続可能な医療・介護の実現」、「第2節 安心で質の高い医療提供体制の構築」、「1 質が高く効率的な医療提供体制の構築」を紹介します。
以下、「令和3年版 厚生労働白書」から引用します(以下特記なければ、画面キャプチャ含めて同じ)。
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第7章 国民が安心できる持続可能な医療・介護の実現
第2節 安心で質の高い医療提供体制の構築
1 質が高く効率的な医療提供体制の構築

我が国の医療提供体制は、国民皆保険制度とフリーアクセスの下で、国民が必要な医療を受けることができるよう整備が進められ、国民の健康を確保するための重要な基盤となっている。
しかし、急速な少子高齢化に伴う疾病構造の多様化、医療技術の進歩、国民の医療に対する意識の変化等、医療を取り巻く環境が変化する中で、将来を見据え、どのような医療提供体制を構築するかという中長期的な課題にも取り組む必要がある。また、現在、都道府県間及び都道府県内の医師の地域的な偏在、及び診療科間の偏在の問題や救急患者の受入れの問題等に直面しており、これらの問題に対する緊急の対策を講じる必要がある。

(1)地域医療構想の策定と医療機能の分化・連携の推進
医療・介護サービスの需要の増大・多様化に対応していくためには、患者それぞれの状態にふさわしい良質かつ適切な医療を効果的かつ効率的に提供する体制を構築する必要がある。このため、2014(平成26)年6月に成立した医療介護総合確保推進法では、病床の機能の分化・連携を進めるとともに、地域医療として一体的に地域包括ケアシステムを構成する在宅医療・介護サービスの充実を図るための制度改正を行った。
具体的には、長期的に継続する人口構造の変化を見据えつつ、将来の医療需要に見合ったバランスのとれた医療機能の分化・連携の議論・取組みを進めるため、まずは、団塊の世代が75歳以上となり、高齢者が急増する2025(令和 7)年の医療需要と病床の必要量について地域医療構想として策定し、医療計画に盛り込むこととした。
各都道府県においては、2014年度末に国が示したガイドラインに沿って検討が進められ、2016(平成28)年度末までに、全ての都道府県において地域医療構想の策定が完了した。その後、都道府県に対し、公立・公的・民間を問わず、各医療機関において、地域医療構想を踏まえた具体的対応方針を定めるとともに、医療関係者や自治体など幅広い関係者が参画する地域医療構想調整会議において議論するよう求め、特に、2017(平成29)年度と2018(平成30)年度の2年間の集中的な議論を要請した。
こうした中、公立・公的医療機関等については、民間医療機関では担えない機能に重点化する方向で検討を求めてきたが、2018年度末において公立・公的医療機関等の具体的対応方針の策定について、病床の機能分化・連携に向けた実質的な議論が行われていないことが懸念されるとの指摘がなされたため、2020(令和2)年1月に、国において診療実績を分析した上で、都道府県を通じ、公立・公的医療機関等に対し、具体的対応方針の再検証等について要請した。
このように地域医療構想を進めていく中、2020年1月から発生した新型コロナウイルス感染症への対応を契機に、同年10月から、「医療計画の見直し等に関する検討会」及び「地域医療構想に関するワーキンググループ」において、新型コロナウイルス感染症対応を踏まえた今後の医療提供体制の構築に向けた議論が重ねられ、同年12月に同検討会で取りまとめられた報告書では、中長期的な視点に立った地域医療構想については、その基本的な枠組み(病床の必要量の推計・考え方など)を維持しつつ、引き続き、着実に取組
みを進めていく必要があるとされた。
また、同報告書において、今後、地域医療構想の実現に向けた取組みとして、公立・公的医療機関等において具体的対応方針の再検証等を踏まえ、着実に議論・取組みを実施するとともに、民間医療機関においても、改めて対応方針の策定を進め、地域医療構想調整会議の議論を活性化していく必要があるとされた。
さらに、病床機能の分化・連携に関する地域での議論が進められている医療機関・地域に対しては、国において技術的・財政的支援を進めていく必要があるとされたところであり、こうした議論を踏まえ、厚生労働省では、以下のような支援を行うこととしており、②及び③については、法的に措置するための医療法改正法案を2021(令和3)年2月2日に第204回通常国会へ提出し、5月21日に成立した(令和3年法律第49号)。
①国による助言や集中的な支援を行う「重点支援区域」を選定し、積極的に支援
②2020年度に、病床機能の再編や統合を進める際に生じうる、雇用や債務承継などの課題を支援するため、「病床機能再編支援事業」を新たに措置。当該事業について2021年度以降も、消費税財源を活用した地域医療介護総合確保基金の中に位置付け、全額国庫負担の事業として実施
③複数医療機関の再編・統合に関する計画(再編計画)について、厚生労働大臣が認定する制度を創設(租税特別措置法改正により、認定を受けた再編計画に基づき取得した不動産に関する登録免許税を優遇)

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また、外来機能の明確化・連携について、2020年2月から、「医療計画の見直し等に関する検討会」で議論が行われ、同年12月に報告書が取りまとめられた。同報告書では、患者の医療機関の選択に当たり、外来機能の情報が十分得られず、また、患者にいわゆる大病院志向がある中、一部の医療機関に外来患者が集中し、患者の待ち時間や勤務医の外来負担等の課題が生じていることが指摘され、人口減少や高齢化、外来医療の高度化等が進む中、かかりつけ医機能の強化とともに、外来機能の明確化・連携を進めていく必要があるとされた。これを踏まえ、取組の第一歩として、医療機関が都道府県に外来医療の実施状況を報告し、地域の協議の場で外来機能の明確化・連携に向けて必要な協議を行うことにより、「医療資源を重点的に活用する外来」を地域で基幹的に担う医療機関(紹介患者への外来を基本とする医療機関)を明確化すること等を内容とする医療法改正法案を2021年2月2日に第204回通常国会へ提出し、5月21日に成立した(令和3年法律第49号)。

(2)都道府県医療計画におけるPDCAサイクル推進
都道府県は、当該都道府県における医療提供体制の確保を図るために、国の定める基本方針に即し、地域の実情を踏まえつつ、「医療計画」を策定している。
医療計画においては、五疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞*1、糖尿病、精神疾患)・五事業(救急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療、小児医療(小児救急医療を含む。))及び在宅医療のそれぞれについて、医療資源・医療連携等に関する現状を把握し、課題の抽出、数値目標の設定、医療連携体制の構築のための具体的な施策等の策定を行い、その進捗状況等を評価し、見直しを行うことでPDCAサイクルを推進することとしている。
*1 第7次医療計画では、「心筋梗塞等の心血管疾患」という表現に変更

2020(令和2)年1月から発生した新型コロナウイルス感染症への対応において、感染症患者の入院体制の確保等を進めるに当たり、広く一般の医療提供体制に大きな影響が生じた。こうした状況を受けて、同年10月から、「医療計画の見直し等に関する検討会」において、新型コロナウイルス感染症対応を踏まえた今後の医療提供体制の構築に向けた議論が重ねられ、同年12月に同検討会で取りまとめられた報告書では、新興感染症等の感染拡大時に、対応可能な医療機関や病床の確保等、医療提供体制に関して必要な対策が機動的に講じられるよう、基本的な事項について、あらかじめ地域の行政・医療関係者の間で議論し、必要な準備を行うことが重要であるとの観点から、医療計画の記載事項に「新興感染症等の感染拡大時における医療」を追加することが適当とされたところであり、これに対応するための医療法改正法案を2021(令和3)年2月2日に第204回通常国会へ提出し、5月21日に成立した(令和3年法律第49号)。

(3)地域医療連携推進法人の認定状況
「『日本再興戦略』改訂2014」(平成26年6月24日閣議決定)等を受けて、「医療法人の事業展開等に関する検討会」(2013(平成25)年11月~2015(平成27)年2月)において、地域医療連携推進法人制度の創設について議論され、2015年2月に取りまとめが行われた。これらの議論を踏まえて、「医療法の一部を改正する法律案」が同年4月に国会に提出され、同年9月に成立し公布された。
地域医療連携推進法人制度は、医療機関相互間の機能の分担や業務の連携を推進することを目的とし、地域医療構想を達成するための一つの選択肢として創設されたものである。統一的な医療連携推進方針(病院等の連携推進の方針。以下「方針」という。)を決定し、医療連携推進業務等を実施する一般社団法人のうち医療法上の非営利性の確保等の基準を満たすものを都道府県知事が認定する。方針はホームページで公表することとされているほか、方針に記載された内容の実施状況について、法人内に設置する、地域の関係
者で構成される地域医療連携推進評議会において評価することとなっており、地域の関係者の意見が法人の運営に反映される仕組みとなっている。2017(平成29)年4月から制度が施行され、2021(令和3)年4月1日現在、全国で25法人が認定を受けている*2。
*2 認定された地域医療連携推進法人に関する各都道府県のホームページへのリンク

地方公共団体等の公的主体が中心となっているものや、大学病院や医療法人等の民間主体が中心となっているものなど地域により様々であるが、医療従事者の共同研修の実施や医薬品等の共同購入の調整等といった業務が多くの法人で実施されているなど、それぞれの地域事情に応じた連携の推進が図られている。

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(4)地域医療体制の整備
1 救急医療
救急医療は、国民が安心して暮らしていく上で欠かすことのできないものである。このため、1977(昭和52)年度から、初期救急、入院を要する救急
(二次救急)、救命救急(三次救急)の救急医療体制を体系的に整備してきた。
しかし、救急利用の増加に救急医療体制が十分に対応できず、救急患者が円滑に受け入れられない事案が発生している。このような状況を改善するため、2020(令和2)年度予算において、①重篤な救急患者を24時間体制で受け入れる救命救急センターに対する支援、②地域に設置されているメディカルコントロール協議会に医師を配置するとともに、長時間搬送先が決まらない救急患者を一時的であっても受け入れる二次救急医療機関の確保に対する支援、③急性期を脱した救急患者の円滑な転床・転院を促進するためのコーディネーターの配置に対する支援等を行った。

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また、消防と医療の連携を強化し、救急患者の搬送・受入れがより円滑に行われるよう、各都道府県において、救急患者の搬送及び医療機関による当該救急患者の受入れを迅速かつ適切に実施するための基準を策定し、これに基づいて救急患者の搬送・受入れが行われているところである。さらに、ドクターヘリを用いた救急医療提供体制を全国的に整備するため、補助事業を行っており、2021(令和3)年3月末現在、43道府県で53機のドクターヘリが運用されている。

2 小児医療

小児医療は、少子化が進行する中で、子どもたちの生命を守り、また保護者の育児面における安心の確保を図る観点から、その体制の整備が重要である。
このため、休日・夜間における小児の症状等に関する保護者等の不安解消等のため、小児の保護者等に対し小児科医等が、全国同一の短縮番号#8000により、電話で助言等を行う「子ども医療電話相談事業(#8000事業)」を全47都道府県で実施しており、引き続き地域医療介護総合確保基金を活用して支援を行うこととしている。

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また、小児初期救急センター、小児救急医療拠点病院、小児救命救急センター等の小児の救急医療を担う医療機関等の体制整備に対する支援等を行っている。

3 周産期医療
周産期医療については、国民が安心して子どもを産み育てることができる環境の実現に向け、各都道府県において、地域の実情に応じた周産期医療体制を計画的に整備している*3。
*3 これまで医療計画と周産期医療体制整備計画をそれぞれ策定してきたが、2018(平成30)年度からは、両計画の整合性をはかるため一体化することとしている。

リスクの高い妊産婦や新生児等に高度な医療が適切に提供されるよう、周産期医療の中核となる総合周産期母子医療センター及び地域周産期母子医療センターを整備し、地域の分娩施設との連携を確保すること等により、周産期医療体制の充実・強化を進めている。これに対し、厚生労働省においては、①周産期母子医療センターの母体・胎児集中治療室(MFICU*4)、新生児集中治療室(NICU*5)に対する支援、②NICU等の長期入院児の在宅移行へのトレーニング等を行う地域療育支援施設を設置する医療機関に対する支援、③在宅に移行した小児をいつでも一時的に受け入れる医療機関に対する支援を行っているほか、④2016(平成28)年度から、災害時に都道府県が小児・周産期医療に係る保健医療活動の総合調整を適切かつ円滑に行えるよう支援する「災害時小児周産期リエゾン」の養成を目的とした研修を実施している。
*4 MFICU:「Maternal Fetal Intensive Care Unit」の略。
*5 NICU:「Neonatal Intensive Care Unit」の略。

また、2018年度には、災害時小児周産期リエゾンの運用、活動内容等の基本的な事項について定めた「災害時小児周産期リエゾン活動要領」を作成し、周知した。さらに、2016年度から、分娩取扱施設が少ない地域において、
新規に分娩取扱施設を開設する場合等への施設整備費用支援事業、2017(平成29)年度から、設備整備費用支援事業及び、地域の医療機関に産科医を派遣する病院等への支援事業を実施している。加えて、2020年度からは、妊婦が安心安全に受診できる医療提供体制を整備するため、産科及び産婦人科以外の診療科の医師に対する研修の実施や医師が妊婦の診療について必要な情報を得られる相談窓口の設置に対する財政支援を行っている。

4 災害医療
地震等の災害時における医療対策として、阪神・淡路大震災の教訓をいかし、災害発生時の医療拠点となる災害拠点病院の整備(2021年4月1日現在
759か所)、災害派遣医療チーム(DMAT*6)の養成等を進めてきた(2021年4月1日現在1,747チームが研修修了)。
*6 DMAT:「Disaster Medical Assistance Team」の略。災害拠点病院等において、原則4名の医師・看護師等により構成され、災害発生後直ちに被災地に入り、被災地内におけるトリアージや救命処置、被災地内の病院の支援等を行うもの。出動の際には、独立行政法人国立病院機構本部DMAT事務局が、DMAT派遣の要請等について厚生労働省の本部機能を果たし、活動全般についての取組みを行うとともに、被災地域の各都道府県下に、DMAT都道府県調整本部が設置され、管内等で活動する全てのDMATの指揮及び調整、消防等関連機関との連携及び調整等を行う。その際、一定の研修を修了したDMAT隊員である統括DMATが、責任者としてDMATの指揮、調整等を行う。

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また、東日本大震災や平成28年熊本地震の経験を踏まえ、災害発生時に必
要となる都道府県の総合調整機能やコーディネート機能の確保等の整備に取り組んできた。また、災害拠点病院においては、DMATの保有をはじめ、施設の耐震化や自家発電機、衛星(携帯)電話の保有、3日分の食料、水、医薬品等及び3日分程度の自家発電機用燃料の備蓄等の整備に加え、被災後、早期に診療機能を回復できるよう業務継続計画(BCP)の策定及び当該計画に基づく研修・訓練を実施すること等の取り組みについても災害拠点病院の指定要件として含めるよう、改正を行ってきた。また、「日本DMAT活動要領」に基づき、2014(平成26)年度より、統括DMATをサポートする要員を確保する観点から、DMAT事務局、DMAT都道府県調整本部等での本部業務や、病院支援、情報収集等を担うサポートを専門とするロジスティック担当者からなる専属チームの養成を行っている。
令和2年7月豪雨においては、熊本県内外からDMATが約1か月の間に117チーム派遣され、被災者に迅速な医療提供を行うとともに、浸水により搬送が必要となった患者等(約180名)について搬送調整等を行った。また、DMATロジスティックチームとして74名が派遣され、熊本県保健医療調整本部等において本部業務などを行うなどの支援を行った。
東日本大震災時に多数の心のケアチームが被災地に派遣された経験を踏まえ、集団災害発生時における精神保健医療への需要拡大に対応するため、災害派遣精神医療チーム(DPAT*7)の養成を進めてきた。
*7 DPAT:「Disaster Psychiatric Assistance Team」の略。自然災害や犯罪事件・航空機・列車事故等の集団災害が発生した場合、被災地域の精神保健医療機能が一時的に低下し、さらに災害ストレス等により新たに精神的問題が生じる等、精神保健医療への需要が拡大する。このような場合に、被災地域の精神保健医療ニーズの把握、他の保健医療体制との連携、各種関係機関等とのマネージメント、専門性の高い精神科医療の提供と精神保健活動の支援活動を行うために、都道府県及び政令指定都市(以下「都道府県等」という。)によって組織される、専門的な研修・訓練を受けた災害派遣精神医療チームがDPATである。

2018(平成30)年3月に一部改正された「災害派遣精神医療チーム(DPAT)活動要領」に基づき、効率的な派遣システムの構築・運用のため、DPAT事務局の整備や、専門的な研修・訓練によるDPATの全国における養成等を行っている。加えて、東日本大震災や平成28年熊本地震において、被災した精神科病院からの患者受入や精神症状の安定化等について、災害拠点病院のみでは対応が困難であったことを踏まえ、災害時における精神科医療を提供する上で中心的な役割を担う災害拠点精神科病院の整備を進めている。
近年、被災後、早期に診療機能を回復するために業務継続計画(BCP)の考え方に基づいた災害対策マニュアルの策定の重要性が改めて指摘されており、これらを踏まえて2017年度からBCP策定の促進を目的とした研修を実施し、これまでに770医療機関、1,397名が受講している(2021年4月1日現在)。
また、災害時に様々な救護班の派遣調整業務等を行う地域の医師等(災害医療コーディネーター)の養成については、災害時に地域単位の細やかな医療ニーズ等に対応するため、都道府県単位に加えて、地域単位で実施する研修を支援している。

5 へき地・離島医療対策
へき地や離島における医療の確保は、2017年度まで「へき地保健医療計画」に基づき対策を実施していたが、2018年度から実施する第7次医療計画と一体的に検討を行い、対策を実施することとなった。このため、へき地の医療体制については、都道府県において他事業も含めた総合的な企画・調整を行いつつ、へき地医療支援機構と地域医療支援センターの統合を視野に入れた連携や一本化を進め、へき地診療所における住民への医療の提供、へき地医療拠点病院等による巡回診療や代診医派遣等の対策を充実させることでへ
き地保健医療体制の構築に取り組むこととしている。

(5)在宅医療の推進
多くの国民が自宅など住み慣れた環境での療養を望んでおり、高齢になっても病気になっても自分らしい生活を送ることができるように支援する在宅医療・介護の環境整備が望まれている。また、急速に少子高齢化が進む中で、高齢者の増加による医療・介護ニーズの急増に対応できる医療・介護提供体制の整備は喫緊の課題であり、病床機能の分化・連携を進めるとともに、在宅医療の充実を図ることが重要である。
こうした観点から、厚生労働省としては、2013(平成25)年度から、医療計画に在宅医療に関する事項について盛り込むこととした。具体的には都道府県において在宅医療の取組状況等のデータ分析を行い、地域の実情を踏まえながら、在宅医療を提供する医療機関等の数値目標とその達成に向けた施策、医療連携体制、人材確保等について記載し取組みを進めることとしている。2018(平成30)年度からの第7次医療計画においては地域医療構想や介護保険事業計画と整合性を確保しつつ、在宅医療のより実効的な整備目標を
設定し取組みを推進している。
在宅医療の体制整備に対しては、2014(平成26)年度に、都道府県に地域医療介護総合確保基金を設置し、都道府県における研修や人材育成、新規参入の推進等、在宅医療の提供体制の構築に必要な事業に対し財政的な支援を実施している。また、在宅医療の担い手となる人材確保は必要不可欠であり、2015(平成27)年度から、在宅医療に関する専門知識や経験を豊富に備え、地域の人材育成事業を中心となって推進することができる講師人材の育成研修を実施し、国としても人材育成に取り組んでいる。

(6)東日本大震災による被災地の医療提供体制の再構築
東日本大震災による被災地の医療提供体制の再構築を図るため、2011(平成23)年度第三次補正予算、2012(平成24)年度予備費及び2015(平成27)年度予算において、被災3県(岩手県、宮城県、福島県)及び茨城県を対象に地域医療再生基金の積み増しを行い、被災3県が2015年度までの5年間を計画期間として策定した医療の復興計画及び茨城県が策定した地域医療再生計画に基づく取組みを支援した(被災3県及び茨城県の地域医療再生基金(2011~2015年度における予算総額)1,272億円)。
さらに、原子力災害からの復興が長期化する福島県に対しては、避難指示解除区域等における医療提供体制の再構築を図るため、2017(平成29)年度予算において、復興・創生期間である2020(令和2)年度までの4年間の取組みを支援するため、236億円の積み増しを行った。また、2021(令和3)年度予算においては、当該基金の計画期間を2021年度まで延長するとともに、更に54億円を追加で積み増すことで、医療関連の復興に向けた取組みを引き続き支援している。(福島県の地域医療再生基金(2017~2021年度における予算総額)291億円)。

(7)医療安全の確保
1 医療の安全の確保
①医療安全支援センターにおける医療安全の確保
2003(平成15)年より、患者・家族等の苦情・相談などへの迅速な対応や、医療機関への情報提供を行う体制を構築するため、都道府県、保健所設置市等における医療安全支援センター(以下「センター」という。)の設置を推進しており、現在全ての都道府県で395か所(2020(令和2)年12月1日現在)設置されている。センターの業務の質の向上のため、職員を対象とする研修や、相談事例を収集、分析するなどの取組みを支援している*8。
*8 医療安全支援センター総合支援事業を紹介したホームページ https://www.anzen-shien.jp/

②医療機関における安全確保の体制整備
一方で、医療事故を未然に防ぎ、安全に医療が提供される体制を確保するため、病院などに対して、医療に関する安全管理のための指針の整備や職員研修の実施などを義務づけている。また、院内感染対策のための体制の確保や医薬品・医療機器の安全管理、安全使用のため体制の確保についても実施すべきものとし、個々の病院などにおける医療の安全を確保するための取組みを推進している。

③医療事故情報収集等事業*9
*9 医療事故情報収集等事業を紹介したホームページ

https://www.med-safe.jp/

医療事故の原因を分析し、再発を防止するため、2004(平成16)年10月から医療事故情報収集等事業を実施している。医療機関からの報告を基に、定量的、定性的な分析を行い、その結果を3か月ごとに報告書として公表している。また、同事業では、個別の医療行為のリスク低減を目的とした医療安全情報を作成し、事業参加医療機関等に対し、情報提供を行っている。2010(平成22)年からは、医療事故の予防や再発防止に役立つ情報を増やすため、Web上に報告事例のデータベースを構築し、運用を開始している。登
録分析機関は、公益財団法人日本医療機能評価機構である。
④特定機能病院のガバナンス改革
大学附属病院等において医療安全に関する重大事案が相次いで発生したことから、2015(平成27)年4月に厚生労働省に「大学附属病院等の医療安全確保に関するタスクフォース」を設置し、医療安全確保のための改善策を中心に、同年11月に「特定機能病院に対する集中検査の結果及び当該結果を踏まえた対応について」として報告を取りまとめた。これを踏まえ、2016(平成28)年6月10日に医療法施行規則を改正し、特定機能病院の承認要件に医療安全管理責任者の配置、専従の医師・薬剤師・看護師の医療安全管理部門への配置、医療安全に関する監査委員会による外部監査等の項目を加えた。
さらに、特定機能病院のガバナンス改革に関して、2016年2月に「大学附属病院等のガバナンスに関する検討会」を開催し、当該検討会等での議論を踏まえ、特定機能病院の医療安全管理体制の確保及びガバナンス体制の強化を図るため、以下の内容を含む「医療法等の一部を改正する法律案」を第193回通常国会に提出し、2017(平成29)年6月に成立し、2018(平成30)年6月に施行された。
①特定機能病院は、高度かつ先端的な医療を提供する使命を有しており、患者がそうした医療を安全に受けられるよう、より一層高度な医療安全管理体制の確保が必要であることを法的に位置付け
②特定機能病院の管理者は、病院の管理運営の重要事項を合議体の決議に基づき行うことを義務付け
③特定機能病院の開設者は、管理者が病院の管理運営業務を適切に遂行できるよう、管理者権限の明確化、管理者の選任方法の透明化、監査委員会の設置などの措置を講ずることを義務付け

2 医療事故調査制度の施行
医療の安全の向上のため、医療事故が発生した際に、その原因を究明し、再発防止に役立てていくことを目的とした医療事故調査制度は、2014(平成26)年に公布された第6次改正医療法に基づいて2015年10月に開始した。
この制度は、医療事故の再発防止に繋げ、医療の安全を確保することを目的とし、
①医療事故(医療機関に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該医療機関の管理者が死亡又は死産を予期しなかったもの)が発生した医療機関(病院、診療所又は助産所)が、医療事故調査・支援センターへの報告、医療事故調査の実施、医療事故調査結果の遺族への説明及び医療事故調査・支援センターへの報告を行うこと
②その上で、医療機関や遺族からの依頼に応じて、医療機関からも患者側からも中立的な立場である医療事故調査・支援センターにおいて調査を行うこと
③さらに、こうした調査結果を、医療事故調査・支援センターが整理・分析し、再発防止に係る普及啓発を行うこと
とされている。
その後、法附則に基づいて制度見直しのための検討が行われ、2016年6月24日付けで、医療法施行規則の一部改正や、関連通知の発出を行った。具体的には、
①病院等の管理者は、医療事故の報告を適切に行うため、当該病院における死亡及び死産の確実な把握のための体制を確保すること
②支援団体は、支援を行うに当たり必要な対策を推進するため、共同で協議会を組織することができること、また、協議会において、支援団体が行う支援等の状況の情報の共有及び必要な意見の交換を行い、その結果に基づき、支援団体が行う支援の円滑な実施のための研修の実施や病院等の管理者に対する支援団体の紹介を行うこと
③遺族等からの相談に対する対応の改善を図るため、また、当該相談は医療機関が行う院内調査等の重要な資料となることから、医療事故調査・支援センターは、遺族等から相談があった場合、医療安全支援センターを紹介するほか、遺族等からの求めに応じて、相談の内容等を医療機関に伝達する
④院内調査の改善・充実を図るため、支援団体や医療機関に対する研修の充実、優良事例の共有を行う
⑤院内調査報告書の分析等に基づく再発防止策の検討に資するため、医療機関の同意を得て、必要に応じて、医療事故調査・支援センターから院内調査報告書の内容に関する確認・照会等を行う
ことなどを示している。

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2021(令和3)年3月末現在までに、医療事故報告件数2,018件、院内調査結果報告件数1,717件、医療事故調査・支援センターへの調査依頼件数148件となっており、医療事故調査・支援センターの調査は60件終了している。また、「中心静脈穿刺合併症」「急性肺血栓塞栓症」「注射剤によるアナフィラキシー」等13のテーマについて、医療事故再発防止策の提言をとりまとめ、公表をした。

3 産科医療補償制度*10
*10 産科医療補償制度の詳細を紹介したホームページ http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/index.html

安心して産科医療を受けられる環境整備の一環として、2009(平成21)年1月から、産科医療補償制度が開始されている。産科医療補償制度は、お産に関連して発症した重度脳性麻痺児とその家族の経済的負担を速やかに補償するとともに、事故原因の分析を行い、将来の同種事故の防止に資する情報を提供することにより、紛争の防止・早期解決及び産科医療の質の向上を図ることを目的としている。なお、この制度の補償の対象は、分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児であり、その申請期限は、満5歳の誕生日までとなっている。
また、補償対象基準について医学的な見地から見直しを求める意見があり、有識者からなる検討会等で議論のうえ、2022(令和4)年1月以降に出生した児については、低酸素状況を要件としている個別審査を廃止し、一般審査に統合して、「在胎週数が28週以上であること」が基準とする見直しが行われた。

4 閣僚級世界患者安全サミット
閣僚級世界患者安全サミットは英国とドイツのイニシアチブにより医療安全の世界的な推進を目的に2016年に創設された。
その後、2018年4月に東京で開催された第3回サミットでは、避けられる全ての有害事象やリスクを低減することを目指し、患者安全の向上のためのグローバルな行動を呼びかける『東京宣言』が発表され、2019(平成31)年3月にサウジアラビアで開催された第4回サミットでは、世界的に重要な患者安全の課題に取り組むための、国際標準、ガイドライン、行動を推奨することを主旨とする『ジェッダ宣言』が発表された。
また、『東京宣言』でも言及されていた「患者安全に関するグローバルアクション」が2019年5月のWHO総会において採択され、9月17日を世界患者安全の日とすることが定められた。

(8)医療に関する適切な情報提供の推進
医療に関する十分な情報をもとに、患者・国民が適切な医療を選択できるよう支援するため、①都道府県が医療機関に関する情報を集約し、わかりやすく住民に情報提供する制度(医療機能情報提供制度*11)を2007(平成19)年4月より開始するとともに、②医療広告として広告できる事項について大幅な緩和を行った。
*11 各都道府県の医療機能情報提供制度へのリンク集
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/teikyouseido/index.html

2013(平成25)年度においては、医療広告ガイドラインにおいて、バナー広告等にリンクした医療機関のウェブサイトに関する取扱いを明確化するなど必要な改正を加えた。また、2016(平成28)年3月よ
り「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」を開催し、同年9月に取りまとめがなされた。この取りまとめを踏まえ、医療機関のウェブサイト等についても、虚偽・誇大等の不適切な表示を禁止し、中止・是正命令及び罰則を課すことができるよう措置する内容を含めた医療法等の一部を改正する法律が第193回通常国会において成立した。2018(平成30)年5月に関係する省令・告示を公布し、新たな医療広告ガイドラインの発出を行い、同年6月に施行された。

(9)医療の質の向上に向けた取組み
根拠に基づく医療(EBM)の浸透や、患者・国民による医療の質への関心の高まりなどの現状を踏まえ、厚生労働省では、2010(平成22)年度から「医療の質の評価・公表等推進事業」を開始した。本事業では、患者満足度や、診療内容、診療後の患者の健康状態に関する指標等を用いて医療の質を評価・公表し、公表等に当たっての問題点を分析する取組みを助成している。

(10)人生の最終段階における医療・ケア
人生の最終段階における医療・ケアについては、全ての方が自分らしい暮らしを人生の最期まで続けられるようにするため、医師等の医療従事者から患者・家族に適切な情報の提供と説明がなされた上で、本人による意思決定を基本として行われることが重要である。厚生労働省としては、2017(平成29)年度より「人生の最終段階における医療の普及・啓発の在り方に関する検討会」を開催し、2018(平成30)年3月に「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」にACP*12の概念を盛り込むとと
もに、地域包括ケアシステムの構築に向けた内容に改訂した(「人生の最終段階における医療」から「人生の最終段階における医療・ケア」へ名称も変更)。
*12 ACP:「Advance Care Planning」の略。人生の最終段階の医療・ケアについて、本人が家族等や医療・ケアチームと事前に繰り
返し話し合うプロセス

また、当該検討会報告書に基づき、ACPの愛称を一般公募し「人生会議」に選定、11月30日(いい看取り・看取られ)を「人生会議の日」と設定し、人生の最終段階における医療・ケアについて考える日とする等の普及・啓発の取組みを実施している。
また、2014(平成26)年度から、ガイドラインに沿って本人の意思決定を支援する医療・ケアチームの育成研修を実施し、2017(平成29)年度からは、健康な時から人生の最期に備えられるよう国民向けの普及・啓発の強化を図っている。加えて、本人の意思に反した救急搬送や医療処置が行われないよう、救急医療や在宅医療関係者間における患者情報の共有や連携ルールの策定を支援する取組みを進めている。
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コロナ禍では、地域による医療体制の違いもクローズアップされました。
先日も展示会で五島列島の方とお会いしたのですが、重症病床が少なく、万一の際には長崎県本土にヘリコプターで移動しなければならないということで、羽田空港でPCR検査を受けてから帰る、ということでした。
大都市圏でもエリアによって病床使用率に差があるようです。
地域での救急医療、小児医療、周産期医療、災害医療、僻地・離島医療など、対策が必要なことがたくさんありますね。






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