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2年半ぶりに連載を始める漫画家の贖罪と報告

こんにちは。ヤマモトマナブと申します。北海道で漫画家をしています。
2024年初旬より、月刊誌ヤングキングアワーズにて新連載を始めさせていただく運びとなりました!

ヤングキングアワーズ2024年1月号巻末より

同誌2024年1月号に↑こちら↑の告知が掲載されているのですが、以前から応援してくださっていた読者の方は「あれ?」と思われたかもしれません。
「あれ? 聞いてたやつと違うぞ?」と。

結論から申しますと、もともと予定していた連載案はボツになりました。

もともとの案というのは、高校の放送局を舞台にした物語です。
前作『キューナナハチヨン』最終巻には、その予告となるおまけ漫画を収録しましたし、告知が書かれた帯まで付けていただきました。

『キューナナハチヨン』最終巻の帯

にもかかわらず、この企画は「お蔵入り」することになりました。
取材に関わってくださった多くの方々、作品に期待してくださっていた読者の方々には、このような結果になってしまったことを大変申し訳なく思っています。この場を借りてお詫びさせてください。

このnoteで第一にお話ししたいのは、前作の連載終了から現在に至るまでの経緯についてです。それと、蛇足ですがこの間の僕自身の環境変化なども少しお話できたらと思っています。
長くなりますが、お付き合いいただけるとありがたいです。



「放送局漫画」が描きたくて

『キューナナハチヨン』の連載終了にあたって、次回作のアイデアを探していたところ、偶然「放送局」の活動が目に留まりました。

※一般的には「放送部」の方が聞きなじみがあるかもしれません。wiki調べですが「放送局」呼びは北海道の高校に多いそう。「新聞局」「吹奏楽局」「図書局」など、学校の運営サイドに携わる組織は「生徒会外局」扱いで、「部」ではなく「局」と呼ばれるようです。

それまでの僕が抱いていた「放送局」のイメージといえば「お昼休みの時間に校内放送をする人」。恥ずかしながらそれくらいの解像度でした。
でも、実は彼らの活動はもっと多岐に渡っていて、さらには全国規模の大会まで存在しているというのです。熱い。熱いぞ放送局。

それで、よりリアルな情報を集めたいと思っていたところ…

これまた偶然、身近に放送局経験者の知り合いが複数おりまして、直接OBOGから経験談を聞くことができたんです。また、高校時代の恩師にご協力いただき、地元(旭川市)の高校にも取材に行かせていただきました。
さらにさらに、先述した「全国規模の大会」も見学できました!
NHK放送コンテスト、通称Nコン。「放送部の甲子園」とも呼ばれています。

見学させていただいたのは、石狩地区の地区大会と、道内各地区から勝ち上がった高校生が集まり全国出場を賭けて戦う北海道大会。

こうして様々な人の協力を得、生で高校生たちの熱量を感じ、顧問の先生方の想いも伺って、一層「放送局の漫画を描きたい!」という気持ちは高まりました。

商業的な観点では「競合他社が少ない」ことも後押しとなりました。
描きたいネタを思いついてとりあえずやることは「既に似た漫画が存在していないか」です。
調べてみると、放送局を題材にした作品は想像以上に少なかったです。
漫画に限らず小説を含めても数えるほどしか見つけられなかったので、スキマ産業を狙う観点からは十分魅力的な題材だと感じました。

同時に「勿体ない!」とも思いました。
「こんなに面白い題材なのに、全然取り上げられてないなんて!」と。
僕自身調べるまで実態を知らなかった身なのでお恥ずかしいのですが、放送局という存在の認知に一役買いたい!という(偉そうで申し訳ないですが)使命感にも駆られました。


お蔵入り

…と、意気込んで制作に打ち込みましたが、結果的にはお伝えした通り「お蔵入り」となってしまいました。原因は他でもなく、僕の力不足です。

約1年間にわたり試行錯誤しながら打ち合わせを重ねてきましたが、「これなら連載いける!」と担当編集さんが納得できるレベルまで、クオリティを高めることができませんでした。
細かい設定のあれこれや、僕と担当さんとの考え方の違い、何より読者を楽しませるための土台づくり…。うまく課題を消化できず活路が見出せないまま、気づけば告知した新連載開始時期「2022.Spring」も過ぎてゆき……

見かねた担当編集さんから「一旦他の話を考えてみてはどうか」と提案されたのが2022年の初夏のことです。

その時の心境としては、それはそれはもう不本意でした。笑
なにせ予告漫画描いちゃってますし、取材などで多くの方に協力していただきました。「やっぱりやめます」なんて、申し訳ないし情けないです。

それでも舵を切ることにした決め手は、担当編集さんに言われた
「棚上げすることは、捨てることではない」という言葉。

今描かない選択をしても、そのアイデアを無かったことにする必要はなくて、その時が来るまで寝かせておけばいい。漫画家としてさらに経験を積み、いつか掘り起こして自分の手でしっかり描ける時が来るまで。

期待を裏切る罪悪感の一方、いつまでも先が見えず足踏みしている状況への焦燥感も大きく、とにかく現状を打破したい。少しでも前に進みたい。そんなプレッシャーがありました。

めちゃくちゃ悩んで、悶えて、躊躇って…今回は「別の話を考える」という選択をさせてもらうことにしました。

そういうわけで、一旦気持ちを切り替えて、新連載に向けた活動は再出発となりました。これが2022年初夏の出来事で、それ以降、では別のアイデアを…と、出してはボツ、出してはボツを繰り返す日々。
その末どうにかこうにか、新連載に漕ぎつけることができて、こうしてnoteをしたためている次第です。

依然として皆様への申し訳ない気持ちはありますが、「絶対に放送局漫画を描くんだ!」という強い決意は揺らいでいません。
今回の連載の次になるのか、もっと先になるのか、ともすると掲載誌も違うかもしれませんが、作品を世に出したい。そのために一層力をつけたい。僕の漫画家人生における目標がひとつ増えました。

まずは、これから紡ぐ目の前の物語をより多くの人に届けられるよう、精一杯頑張りたいと思います!


新連載について

試行錯誤の末に辿り着いた新連載『嘘から出た真琴』についても少しだけお話させてください。

実はこれ、今回の放送局の件と一緒で「寝かせていたネタ」だったんです。
商業誌デビュー作『リピートアフターミー』終了後のことなので、発案は2014年頃。かれこれ10年前になります。

当時思い付いて「めっちゃ面白いじゃん!」と自画自賛し、ネットを調べても似たような作品は出てこない。ことわざをモジったタイトルも既に使われているのではと危惧したけれど、おそらく被ってない。BLの漫画は出てきたけど漢字じゃなくて片仮名だし中身も違うから……いける!(デジャブ)

しかし、これも結局はうまく話が進まずに座礁してしまいました。
「今はダメでも、いつか必ず描きたい!」と思って、頭の片隅に大切に仕舞っていたアイデア。それを引っ張り出してきて綺麗に磨き上げたのが今回の新連載です。
最初の構想から10年経ってますので、中身はかなり手を加えています。1話目のネームも、決定稿まで8回くらい作り直しました。1話目の差分だけで単行本出せます。笑

こうやって時を超えて夢が叶えられることがとても嬉しいですし、大切にとっておいて良かったなぁとしみじみ思います。連載開始はゴールではなくスタートですから、最後に「良い漫画が描けて良かった」と思えるように頑張りたいです。
今回の連載がそうであったように、放送局の漫画もいずれ絶対に世に出してやるぞと自分を鼓舞しながら…。


著者近影

ここからは個人的な蛇足なので、暇な方だけお付き合いください。

2年半もありますと人の営みもだいぶん変わるものですよね。
小学生も高校生になりそうでならないくらいには成長する2年半です。
連載空白期間中ではありますが、僕の暮らしにも変化がありました。
簡潔にお伝えしますと、家族が増えて、引っ越しました

まず家族の話ですが、昨年11月に我が家に新しい家族が誕生しました。女の子です。
え? 昨年11月…? そうなんです、もう1歳なんです…。笑

子どものことを知らせていたのはお互いの親族と、職場の同僚、ごくわずかな友人のみです。特に隠していたわけではなく、年賀状や電話など、たまたま連絡を取る機会のあった人にはついでに伝えとくか…くらいの感じで。
SNSでは「新連載も進んでないのに子供の話とか暢気ですねぇ!」と煽られるのが怖くて報告できませんでした。ネット怖い。

出産報告も兼ねた今年の年賀状イラスト。親バカ100%

我が子はおかげさまですくすく元気に成長中です。やばいです。可愛さが限界突破してます。
絵描きらしく育児漫画とかSNSに投稿したらバズるかなとも思いましたが、「新連載も進んでないのに(略

さて、子どもがやってきて、我が家はぐっちゃぐちゃです。ミルクにおむつにお風呂や寝かしつけ…。この1年、世の中の全てのパパママを尊敬しっぱなしでした。
僕が在宅勤務なので、一般的な家庭よりかは夫婦で協力して家事育児がしやすい環境なのは良い点。ただまぁ仕事には集中できません。笑
1LDKの賃貸マンションは妻と2人で暮らすには十分でしたが、子育て+執筆活動には少し手狭になりました。

なので、思い切って戸建住宅を購入しました!
新連載が始まる前、雪が降る前のタイミングに間に合い、仕事部屋もできてパパ満足、収納だらけの広いキッチンにママ満足、リビングを永遠に走り回れて娘大満足!
え? 連載空白期間中の低所得フリーランスに住宅ローンが組めるのかって!? 無理無理!
…妻に感謝です。

この2年半、新連載を掴むためにもがき苦しんでいたのも事実なんですが、
出産、育児、引っ越しなどのライフイベントもあったことで予定が延びに延びてしまいました。初めてのことだらけで死ぬほど大変な日々でしたが、同時に掛け替えのない幸せな日々でもありました。
これからもそんな日々を続けていくために、家庭にも、漫画にも、全力で向き合っていきます。

ちなみに僕は(自己開示により)勤務地が割れている「会いに行ける書店員漫画家」として一部界隈で有名ですが、引っ越したらバイトはどうなるんだ? という話。現状、もうしばらくは文教堂札幌ルーシー店にご厄介になる予定です。
新居探しの条件にはバイト先への通勤は入れておらず、もし遠い所に引っ越すことになれば辞めさせていただこうかと考えていました。が、ギリギリ通えそうな所に落ち着いてしまったので(笑)頑張って通勤してみることにしました。

『キューナナハチヨン』の時はコロナでサイン会が開催できませんでしたし、今度こそ…という想いもあります。

連載準備のためシフトを大幅に減らしていただいての勤務となっていますので、ご来店の際はメタルスライムとかケセランパサランとか、トキワの森のピカチュウみたいなもんだと思って探してみてください。見つけられたらその日は良いことがあるかもしれませんよ!


最後に、ちょっとだけ心の内を吐き出させてください。

この2年半、特に『嘘から出た真琴』に辿り着くまでの期間は本当に精神的にキツかったです。
「ボツになったことを告白するタイミングがない」「新連載の糸口が掴めない」という中で、趣味でイラストを描くことや何気ないつぶやきさえも憚られてしまい、もともと頻繁ではなかったSNSへの投稿は一層減りました。
漫画も、買いはするけれど読む気になれず、「他の人の本読んでる暇あったら新連載のネタ考えろよ」とどこかから声が聞こえてくるようで、積読書が増えていくばかりでした。

ですが、『嘘から出た真琴』でいってみようかと舵を切ってから、少し心境が変わり、溜まっていた漫画や映画をまた消化するようになりました。
そこで改めて「インプットの大切さ」に気づきました。漫画面白い、映画面白い、小説面白い。この表現恰好良い。こんな話描きたい。
やっぱり漫画って楽しいな、描くのも読むのも好きだな。と、基本に立ち返られた気がします。

心と身体の健康を保ちながら、また楽しい漫画をお届けします!
この間新作をお待ちいただいた皆様、SNSや書店、出版社へのお手紙などで応援のメッセージをくださった皆様、本当にお待たせいたしました。「新作どうですか?」の言葉が傷口にしみる時もありましたが(笑)待っていてくれる人がいるから頑張れました。お礼申し上げます。

以上、最後までお付き合いくださりありがとうございました。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

メインヒロイン2人のラフイラストです!新作『嘘から出た真琴』どうぞよしなに!

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