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2022SS_調べたもの_春の定義:仮説1

 こんにちは、わたしです。この記事はちょっと長くなってしまいました。でも頑張って書いたので、最後まで読んでもらえたら嬉しいです。見やすいように表とか出てきます。

海の春の定義について、前回わたしは魚の分布密度ではないことを知りました。こうなると魚が元気になることくらいしか思い浮かびません。これを活性と言うそうです。では活性を決める変数はなんなのか。

 ここからその仮説について検証していきます。

仮説1:ベイト / プランクトンの増加

 いつも思うのです、ベイトがいたらベイトを食べるのじゃないかしらと。わたしは選べるならそうします。だからもしルアーを投げるなら、ルアーの方が食べやすそうに見せないといけないのだと思います。ちょっと脱線しちゃったけど、ベイトがいっぱいいたら魚が元気になるかもしれないので、まずはこの仮説について検証します。いっぱいいたら酸素濃度に偏りが生まれるんじゃないのとか、元気の因子じゃなくて定義付けを先にすればよかったとか、思うところはいろいろあります。
 でもその前に、今日わたしたちが話すベイトとプランクトンについて認識を揃えたいと思います。前提条件の共有は重要なプロセスです(わたしはいつもこれを逃します)。まずはベイトについてです。これはライトゲームのターゲットのベイトなので、そんなに大きくないです。なのでここでは、イソメなどの多毛類か、小さいエビなどの小型甲殻類か、稚魚を含む小魚とします。次にプランクトンについてです。プランクトンには植物プランクトンと、動物プランクトンがあります。植物プランクトンは自分で泳ぐ力がないが、自分で栄養を作ることができるとても小さな植物とします。動物プランクトンは自分で泳ぐ力があるが、自分で栄養を作ることができないので、植物プランクトンを捕食します。厳密な定義は異なるかもしれませんが、ここではそう定義して進めたいと思います。だいたい合っていると思います。

・ベイト(多毛類、小型甲殻類、小魚)について
(1)多毛類について
 まずはじめからお借りした図で恐縮なのですが、この図は東京湾の各地点における多毛類の個体数の推移です。対象地点としている東京湾湾央に最も近い観測地点は図中のSt.35です。これについてはまず、1986年以降の長期的な期間において明確な規則性を見出せませんでした。但し、短期的な観点で見ると目盛りのひとつおきに、多毛類の個体数が大きく増減を繰り返していることが見えます。x軸の1目盛は6ヶ月です。この場に限って言えば、メッシュがちょっと大きいです。

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図1.個体数の推移
出典:安藤 晴夫・川井 利雄(2007).東京都内湾における底生生物生息状況の解析結果について p4.図4_個体数の推移

(2)小型甲殻類について
 こちらについて、対象地点の東京湾湾央での調査データが見られませんでした。そのため東京湾の干潟部で取得されたデータに基づいて検証します。東京湾生物相モニタリング調査に出現したカニ類の多様性と分布_Table 1 Sampling scheme of the monitoring survey of benthic fauna in Tokyo Bay from April to Octber 2003からサンプリングされた値を合算しました。表1.に示すとおり、3月から5月の個体数と6月から8月の個体数には430%程度の差が見られました。調査対象は以下の通りです。
 調査対象:Pyromaia tuberculata, Carcinoplax vestita and Charybdis bimaculata(イッカクツクモガニ、ケブカエンコウガニ、フタホシイガニ)

表1.季節ごとの小型甲殻類の個体数

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(3)稚魚を含む小魚について
 小型甲殻類と同様に干潟部でのデータを用います。いやいやまたですか干潟で釣りしないでしょって思ってますよね。わたしもそう思っています。ただ、小型甲殻類も稚魚も、干潟部と護岸部やその他の箇所での個体数には相関があろうかと思いますので、このまま進めます。東京都環境局 令和2年度東京都内湾水生生物調査結果報告書_資料編 稚魚調査 魚類計測結果において、すべての魚種の捕獲数を合算しました。ここでは3月から5月のデータに欠落が見られるものの、6月に卓越して多くの小魚と稚魚が見られること、上位3位が初夏から秋まで(6月から10月)の期間、下位3位が冬季(12月から2月)の期間と、季節による偏りがあるとみることができます。調査対象は以下の通りです。
 調査対象:コノシロ、ボラ、クロダイ、マハゼ、ビリンゴ、ウキゴリ属、ヒモハゼ、ヒメハゼ、ハゼ科、マゴチ、ニクハゼ、エドハゼ、チチブ属、チクゼンハゼ、ヒイラギ、コトヒキ、アシシロハゼ、メナダ

表2.月別の小魚・稚魚の個体数

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・植物プランクトンについて
 主に植物プランクトンの過剰発生により引き起こされる赤潮の発生回数と、出現細胞数が1,000を超過した植物プランクトンの種類の数(以下種類数と呼称)を下表3.に示します。赤潮発生回数は東京都環境局 海域プランクトン調査結果・報告書(令和2年度東京湾調査結果)表4より抜粋しました。種別数は東京都環境局 海域プランクトン調査結果・報告書(令和2年度東京湾調査結果)の表5を合算しました。種類数についての調査対象は以下の通りです。
 調査対象:クリプト藻、渦鞭毛藻、 ハプト藻、黄色鞭毛藻、珪藻、ラフィド藻、ミドリムシ、プラシノ藻、緑藻、その他の微細鞭毛藻類

表3.月別赤潮発生回数及び種別数

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 次に3月と4月の合計と、5月と6月の合計を比較しました。植物プランクトンの発生と種類数については、季節変動があると見ることができます(下表4.参照)。

表4.植物プランクトンにおける季節変動

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 なお、各項目における月別の平均気温との相関係数は以下の通りとなり、いずれも気温と強い正の相関がみられました。
 ・赤潮発生回数と日平均気温の月平均値(℃)の相関係数:0.796
 ・種別数と日平均気温の月平均値(℃)の相関係数:0.805

表5.赤潮発生回数及び種別数と日平均気温の月平均値(℃)の相関

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・動物プランクトンについて
 東京湾における動物プランクトン群集の変遷について、最近の(少なくとも2000年代以降)の十分なデータが見つかりませんでした。残念ですが、動物プランクトンについては今後の課題とします。

まとめ
 データの欠落やメッシュの大きさにより、一部判定がつかない箇所があります。詳しくは別の記事で述べますが、ベイト / プランクトンの個体数については潮流の影響を受けずに増減すると理解しており、特に植物プランクトンのそれに及ぼす要因は気温であることが認められました。植物プランクトンは基礎生産者であるため、これ以降の食物網がもたらす魚類生産にも影響があることは明らかです。但し、原点に立ちかえると、わたしの釣りたいターゲットは直接的または積極的に(季節変動が見られた)植物プランクトンや小型甲殻類を捕食していないと思いました。残念ながらこの仮説の寄与度は高くないのかなぁという印象です。ただ結論を急ぐことは避けなければなりません。ここでは性急さから逃れて、最後に総合的に判定したいと思います。

表6.各因子における季節変動判定

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文献:
1)安藤 晴夫・川井 利雄(2007).東京都内湾における底生生物生息状況の解析結果について
2)東京都環境局(2020).令和2年度東京都内湾水生生物調査結果報告書
3)Wataru DOI, Seiichi WATANABE, and Takamichi SHIMIZU(2004).Species diversity and distribution of crabs collected from Tokyo Bay by monitoring survey of benthic fauna.
4)IHIROSHI ITOH, AIKO TACHIBANA, HIDEAKI NOMURA, YUJI TANAKA, TOSHIO FUROTA & TAKASHI ISHIMARU(2011). Vertical distribution of planktonic copepods in Tokyo bay in summer. Plankton and Benthos Research. 2011. 6. 2
5)野村 英明(1998).1900年代における東京湾の赤潮と植物プランクトン群集の変遷 海の研究 Vol.7, No.3, 159 to 178
6)石丸 隆(2016).東京湾の環境変化とプランクトン相の変遷 MERI NEWS 131. 2016.7, 8 to 9
7)児玉 圭太(2022).Elucidation of factors affecting stock-size variations in the megabenthic community in Tokyo Bay
8)東京湾海洋環境研究会(2015).生き物たちの東京湾 生物調査から見た東京湾環境(第7回 東京湾海洋環境シンポジウム 報告書)
9)気象庁(2022).各種データ・資料 > 過去の気象データ検索 > 観測開始からの毎月の値
10)東京都環境局 海域プランクトン調査結果・報告書

 写真はHoi Anかどこかの海です。


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