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ヤマト1

ヤマトは辛いポテチの上の赤い粉でむせていた。むせながら昨日のお昼にも辛いもの食べておしりもやけどだった事を思い返していた。時間は朝の五時。
寝ようかどうか悩んでいた。昨日からまた規制が緩くなったらしい事をいつかにどこかで聞いたことがあった。確かなのはドイツに外国人が入国出来るようになったとか何とか。
そんな中、突然、おなかが急にぎゅるるると不吉に唸りだした。弱った胃袋がポテチの粉に抗議している。ヤマトは急いで布団に潜り込み、母の子宮に戻るかの如く丸くなる。キリキリと腸を響き渡る鈍痛。空っぽの腸がうねる痛みの中、ヤマトは眠りに落ちた。

目覚まし時計がうるさく鳴っている。ヤマトは目を覚ました。時刻は八時三十分。携帯が言うには08:35。この目覚まし時計、行儀はいいのだが、どこかでテンポが少し遅れている。未だに小さな両側に付いた鐘を鳴らし続けている。ヤマトはブルーノとのヨガの約束まで二時間あることを確認すると二度寝に入った。時計の鐘を掴み止め、アラームを切ってダイブした。
朝から最近観察しているコバエは元気よく部屋で遊覧飛行していた。

ヤマトはベットに寝転がっていた。何もする気が起きず、何をしたいのかも分からず、何もできず、ぼんやりとジョージア語のプリントを眺めていた。
難しくなってきた途端、急に勉強速度が落ちてしぼんでいた時分、まだるい夕方だった。
コバエが二匹頭上を飛び回っていた。一匹は警備する兵士の様に、一か所を、もう一匹は部屋の全体を使って空間を端から端へ、遊覧飛行を楽しんでいた。兵士は俺のことを警戒しているのか、四角形を描くように、常に間合いを計っていた。遊覧飛行士の方は空間を隅までチェックしているようだった。空を生活圏に選んだ生き物は、失ったものも多いなとヤマトはハエの地面での生きづらさを想像していた。兵士は一向に警戒を緩めようとしない。延々と時計回りに四角形をなぞり、こちらの様子を伺っている。コバエに近くの壁を奨めてみたが、一度半時計回りになっただけ。ヤマトは諦め目を閉じた。

再び目を開けると、壁に舷窓が見えた。そこから灰色の光と大きな波が見えた。大きな波がボロボロの船や戦車、戦闘機を運び去っていく。ぼんやりと瞬きをすると、壁が見る見るうちにボロボロと剥がれ落ちていく。灰色の世界が見える。ヤマトはベッドからふわっと浮かび上がり壁の向こう側に引き寄せられていく。灰色の砂浜に透明な海。静かに水が揺れる音に満ちる灰色の世界。きめ細やかな砂浜に舞い降り、感触を足で味わう。足を動かすと、砂はさらさらと指の間をすり抜けていく。

ヤマトはそこで女の子を見たはずなんだが、もう思い出せずにいた。白いワンピースに裸足だった。ふわふわと透き通った海をヤマトの数メートル先を歩いていた。誰なのか、もう一度会えるか考えながら玄関を開ける。鋭い陽ざしが目をびっくりさせる。瞳孔が急に縮こまったのを感じた。
11時十分前。いつもお世話になっている日本の家を掃除しブルーノを待つ。毎週木曜日のヨガをヤマトは未だに休んだ事がない。夕方月曜にあるヨガはいかなくなってきた。
三十分遅れでブルーノが到着。ヤマトはソファで寝転びながら本を読んでいた。内臓が少し怠いと感じていた。姉貴が来るかもしれないとブルーノが言うので、もう少し待つ。携帯を部屋に忘れてきたヤマトはただただブルーノともう少し待つ。
「さっき、三十分遅れる。っていうメッセージを送って、返ってきたメッセージが「OK!!」やったんやけど、どう思う?」ブルーノが聞いてくる。「来ると思う?」
「う~ん、わからん。」とヤマト。
日本の家のベンチで煙草を吸いながら、ヤマトとブルーノ、二人並んで座り待っていた。暇なヤマトは愛についてブルーノに聞いてみる。「愛ってどんなもの?」
「俺にとっては見返り無しに与えるモノだ」とブルーノ。一晩寝て、「昨日はとても美しい夜だったわ。私あなたとずっと一緒にいたいわ」なんて言ってくる女もいる。たったの一夜で変化してしまうモノは愛じゃない」
「ふ~ん」とヤマト。「明日は何するの?」
「女と会う」ニコリと笑うブルーノ。「年も近い綺麗な女でいい感じ。明日は暑くなるし、湖にでも一緒に行こうかな~」
「おお!いいね~、熱くなりそうだね」とニヤつくヤマト。
「でも彼女子持ちやから、子供としっかり遊ぶかな」とブルーノ。
「じゃあヨガして、そこの新しく出来た店でご飯食べよ」とヤマト。「トルコのピザでも食べよ」
Gute Idee!をヤマトは貰いブルーノとヨガを始めた。

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