タイムマシン(後編)

そこは20年後の日本だった。

タイムマシンの発明者のジジイは、「あまり事を荒立てるなよ」と言っていたが、そんなことはハナからするつもりはなかった。ただちょっと観察するだけのつもりだった。

そこには現代人がいかにも考えそうな、空飛ぶ人間だったり、自我を持ったAIなんてものはなかった。人間は普通に地面を歩き、仕事に行っているようだった。

そんな中でも変わっている点があった。

俺が何気なく渋谷のビジョンを見たとき、そこに流れていたニュースは今年のノーベル賞に関するニュースであった。日本人がノーベル物理学賞を受賞したとのことだった。俺にとって衝撃だったのは、その受賞者だった。なんとその受賞者は、俺が小学生の時の同級生の村上だった。

俺は驚いた。なぜなら俺が知っている村上はドジで、運動音痴なダサい男だったからだ。

そして、もうひとつ驚いたことには、画面に映るインタビューの村上の横にいた妻らしき女は、香奈子だということだ。香奈子は俺が小学生の時からずっと片想いしていた女だった。

今の俺には、画面の香奈子の変わらない美しさに見惚れている暇はなかった。なんとしても村上に会う必要があった。もちろん香奈子と結婚できた経緯を聞き出すことがメインだが、願わくばノーベル賞での発明品の情報も得て、現代で俺が先回りしようという魂胆もあった。

俺は早速村上の祝賀会の参加者に紛れることにした。そこには、俺や村上や香奈子の同級生も沢山来ているようだったから、俺はバレないように身を隠す必要があった。しかしそうこうしていると、俺は真理に気づいた。

俺が現代に戻って、行動することにより、こんな未来なんてなくなるということに。

そのことに気づいた俺は堂々とすることにした。村上は大勢の記者や旧友たちに囲まれて幸せそうに笑っていた。俺はそれが無性に腹立たしかった。なぜならその旧友たちは俺が行っていた村上へのイジメを黙認していた卑怯どもだからだ。

俺は奴にタイミングを見計らって話しかけた。

「おい村上。」

すると村上は、瞬きを2回して言った。

「ここはまずいから、奥で話さないか。」

恐らく、あまりの驚きでリアクションをとる暇もなかったのだろう。なにせ俺が20年前の姿で現れたのだから。

建物の外に連れてこられた俺は村上に詰め寄ろうとした。しかし俺はとっさに身を引いた。奴がナイフを持っていることに気づいたからだ。奴は奇声をあげて襲ってきた。

俺は驚いたが、やはり村上はノロマなままであったからなんなくかわした。そして逆に相手の腹を殴った。奴はナイフを落とした。

落としたナイフを拾った俺は奴めがけて横に振り回した。奴はどうにか急所を切られることは逃れたが、奴の右膝にナイフが食い込んだようだ。

完全に俺が優位だった。しかし、

「バン!」

奴は拳銃を隠し持っていた。まるでこのことまで計算に入れていたかのような準備の良さであった。

村上は言った。

「いってぇなぁ。何度やってもお前に右膝やられるんだよなぁ。俺はな、お前に復讐するために生きているんだ。お前を殺したら、俺はまた過去に戻らせて生き返ったお前を未来に連れてきてまた殺す。お前は俺にもう100回以上殺されてるんだよ!」

そう言う奴の声は、俺が今まで聞いた中で最も力強いものであった。

俺は朦朧とする意識のなかで悟った。

ノーベル賞での村上の発明品が、タイムマシンであることに。

(前編に戻る)

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