『朋哉句抄 2012―2021』
星野立子新人賞や俳人協会新鋭俳句賞を獲られている俳人の若杉朋哉氏の句集『朋哉句抄 2012―2021』を先日賜った。
実はこの方は生業において私の同業者(国語塾経営者)であり、そちらの方面でも、俳句においても、道の先をゆく憧れの方である。
氏が新しく私家版の句集を出され、配布希望者を募っていることを聞き、勇気を出して連絡を差し上げたのだった。
![](https://assets.st-note.com/img/1714738209191-lFQtHb7Xd7.jpg?width=800)
山があることのうれしき薄暑かな
明日よりの祭りの中を通りけり
暑くなりさうな朝より口喧嘩
こころもち大きな方の柏餅
豆飯をよそつてもらふ良き姿勢
ピンポンをしたり団扇であふいだり
蝉涼しカルピス薄くなりにけり
噴水の止みたるあとの夕長し
一同の一瞥したる夏料理
雨傘の中に子供と話す秋
ぜんざいが出てきて雪の昼らしく
閑雲野鶴の境地にあるとでも言うべきか、悠々としてさらりとした詠みぶりが魅力的だと思う。
また、上に挙げた句のなかでは特に「明日よりの…」と「暑くなりさうな…」の時間性をおもしろく感じた。
この二句の季語が示す時点は句自体が描く時点よりも未来にある(「祭」は翌日なのであり、「暑」くなるのはこれからなのである)。
一句のなかに二層の時間が込められているわけなのだが、それでいて句の焦点がぼやけてしまっている感じがするわけではない。
いまを切り取るという俳句の本領をしっかり満たしつつも、そうして切断されたいまを包む時間性が滅びていない。
点ではなく、幅をもった現在性とでも言えようか。そういうものを感じられる句が他にも多々あって目を引いた。
一見平明に詠まれているようでありながら、まったく容易には真似できそうもない詠みぶりである。
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