はじめてのなめし委託、「いきもの」から「レザー」へ変わるまで
こんにちは。山と川と暮らし(yamakawakurashi.com)です。
自身で毛皮なめしをやってきましたが、今回は業者さんへなめし依頼をしたのでその経緯と方法をお届けします。
「山と川と暮らし」は、標高1150mほどの山のふもと、ちょうど本州の真ん中あたりに暮らす夫婦(30代)+犬の屋号です。狩猟をする私、釣り好きな夫、犬はイーヨーみたいなセッター。
※「皮を準備する」「下処理・保管」は一部生々しい写真もあるので、苦手な方は閲覧をひかえてください。
毛皮なめし・ハンドメイドのきっかけ
「山と川と暮らし」は、生き物の「美しさ」や「たくましさ」を伝えたい、「自然のおもしろさ」に気づいてもらいたい、そんな想いをきっかけに、このnoteやブログをはじめました。
人に何かを伝えたいとき、自分で何かを覚えたいとき、文章や写真だけではなく「実際に手でさわってみる」方法があります。
体験すると楽しいし、印象に残る。博物館でも「ハンズオン展示」というのがありますよね。
EICネット 環境用語集:「ハンズ・オン」より…博物館などの展示施設において、じかに展示物・展示装置に触れて体験学習できるような相互作用的(interactive)展示形態。利用者(とくに子ども)の五感に働きかけることで、関心や理解を向上させるねらいをもつ。
生き物や自然に興味を持ってもらうことは、狩猟や野生動物の保護管理、自然環境に関わるさまざまな「課題解決」につながる第一歩だと思っています。
その裾野を広げるためには「畑違いの人に振り向いてもらう」が、高いハードルだと思っていて。ハードルを越えるには、普段の暮らしの中にすっとなじむ「自然のかけらを作る」のが良いんじゃないかと考えました。
▼ 考え方もろもろまとめたこちらの記事もどうぞ(ブログへ飛びます)
自分の手で捕獲からなめすまでやってみて、完成した毛皮には愛着がわきますが、それを生活の中に取り入れるとなると…イメージがわかない。
結局、我が家の納戸でくるくると巻かれた状態で保管。環境教育のイベントや狩猟の普及啓発イベントがあればここぞ!とばかりに引っ張り出しますが、「畑違いの人」の目に触れる機会は少ない。
毛皮だとどうしても「生き物感」が出てしまい、生活に結びつきにくい。ありのままの姿で出したいけど、使いやすさや受け入れやすさを考えると「より加工する」のも一手じゃないか…
ということで、すでに日常でも多く使われている革(レザー)に挑戦してみました。
※皮と革、毛皮とレザー、言葉が指す状態について…「皮」はなめす前の状態、「革」はなめした後の状態を指します。一般的にあいまいな部分もあるので、ここでは「毛皮=毛がついた状態でなめしたもの」、「レザー=毛を抜いた状態でなめしたもの」としています。
やさしい革、マタギプロジェクト
北海道在住時に毛を抜いた革(レザー)作りのお手伝いをしましたが、毛皮とくらべると手間と時間がとてつもなくかかり、自分ひとりでやるのは無理だと実感。
なめし業者さん(タンナーと言うらしい)は、豚や牛など家畜をメインとするところがほとんどで、野生動物のなめしを請け負ってくれる業者さんは限られています。
そんななかで野生動物のなめしを個人から請け負ってくれる「マタギプロジェクト」というのがあるらしい…と言うのを知って。いつかお願いしたいなと思っていました。
▲ マタギプロジェクトの紹介:やさしい革さんより
「獣皮を有効資源化し、産地活性に繋げる」のコピーを見て、「はて、私なんかにできるんだろか」ともじもじしていたところ、このnoteで知り合ったtomokoさんの記事を見て、「私もお願いしてみよう」とやっと一歩踏み出すことができました。
皮を準備する
一応狩猟をするので、自分で獲った皮を使えるといいのですが。
いかんせん猟欲がほとんどなく、銃猟では銃を背負って山をお散歩するだけで終わることが多く、それでも満足してしまう。
農家でもないので、丹精込めてつくったものを食べやがって…みたいな気持ちも薄い(つまり獲る動機があまり強くない)。
猟友会には所属しているので、他の方のお手伝いの側面が多く、お肉や皮はほとんどが譲っていただいたものでした。
そんな私が昨年の冬に、はじめて罠猟をやってみてやっと71日でイノシシが獲れて。(銃猟をずっとやってたけど罠はやったことなかった)
イノシシのあとにシカが3頭かかりました。
3頭ともメスの成獣。今までの毛皮なめしの経験上、0歳や1歳までは小ぶりで、小さい分手間は少ない。成獣は手間がかかり、少し大変です。
3頭とも業者さんにお願いしようか…と思いましたが、よく考えれば、今の山麓地域に引っ越して、はじめて自分で獲ったシカ。
1頭は自分で毛皮なめしに、残りの2頭分を業者さんへ送ることにしました。
下処理・保管
下処理と保管方法が完成する革の善し悪しに影響するそうです。下処理とは、皮に残った肉や脂を取る作業。
▼ 解体後すぐの皮、砂利や落ち葉を洗い流します
※解体の段階で、皮を切らないように注意していましたが、数カ所穴があいてしましました…
※やさしい革さんの原料皮準備によると、頭部はつけない、四肢・股は筒状にせず切り開く
▼ 大まかな肉・脂を取った状態
毛皮なめしをする場合、もう一段階ナイフでこそげ落としますが、業者さんへ出す場合、多少の取り残しは大丈夫とのこと。
▲ 動画にて準備の様子を細かく紹介してくれています。
このままだと水分を含んで重いので、しぼって水気を切ります。
▼ 一晩、屋根のあるところにかけておきました
まだ水気は残っていましたが、この後、ビニール袋へ入れて大型の冷凍庫へ保管。※複数枚まとめて送った方が、事務手数料と送料が浮きます。
そんな大きい冷凍庫ない…と言う方は、塩蔵するか、クール便ですぐに発送するといいと思います。
塩蔵は、塩漬けにして腐敗を遅らせる方法。しっかり水気を切れていれば、常温でも保存できるそう(こわくて私はまだやったことない)。
乾燥したものもなめせるそうで。毛皮なめしに失敗した(ところどころ毛が抜けてしまった)ものを請け負っていただけるか問い合わせしたところ、ミョウバンに漬けたものは請け負えないとのことでした(残念…)。
上記写真の個体は、3月24日に捕獲したシカ。シカが1頭獲れると解体(ものすごい体力使う)、肉をビニール袋へ小分け知り合いに配る(100kgで30kgほどの肉になる、冷蔵庫に入らない)…などなど大忙し。皮の処理は後回しにしがちですが、気温が高くなると腐ってしまうので時間との闘い。
1週間おきにシカが獲れたので、最後(3月31日)に獲れた3頭目のシカは、あまり手をかけてやれず…。
穴をあけずに解体できたのですが、手足の脂除去が手間でざっくり切りました。
これも水気を切って、ビニール袋に入れて冷凍庫へ(送る段ボールに入れて冷凍しないと送料がかさんでしまうので注意!)
なめし加工申し込み
皮の算段がついたので、申し込みをします。
▲ やさしい革さんの申し込み方法を見ながら
はじめての人は、1枚目は「試作」あつかいになるそうです。試作加工申込書と事前アンケートに記入し、4月3日にFAX送付。
返信を待ってから皮の送付かと思っていましたが、ホームページをよく読んだらFAXを送ったら発送していいとのことだったので、4月8日にクール便(冷凍)で送付。
受付完了の連絡はなく、ちょっぴり心配でしたが、ちょうど銃の所持許可更新やおやしらずを抜いたり、ゴールデンウィークで出勤(勤務先は宿泊業、一般の休日が繁忙期)でバタバタしているうちに請求書が郵送にて届きました。
請求書が届く
ゴールデンウィークが落ち着いたころに「山と川と暮らし」あての郵便物が。開けてみるとやさしい革の紹介や請求書が入っていました。
(この屋号ではじめての郵便物、すごくうれしかった…)
料金形態は、試作は1万円で送料込み。
2枚目以降は下処理が適切か、皮の大きさにより料金が変わります。
下処理×…1万円、▲…6000円、○…5000円
120cm以上+1000円(140cm以上は2枚分の料金へ)
通常は1申請ごとに返送分の送料2000円、事務手数料1000円が別途かかるそうです。
下処理がちゃんとできていたのか不安でしたが、適切な処理ができていたようでほっとしました。
なめしが終わり、発送のめどが立ったから請求書がきたのかと思いましたが、よくホームページを読んだら、申請した月末〆、翌月上旬に請求書発送だそう。
いずれにせよ先払いなので、翌日に入金。
手元に届く
若干忘れかけていたころに届きました!4月8日発送、完成品は5月29日に届いたので、1ヶ月半くらいでしょうか。
▼ 大きさ比較のため犬に入ってもらいましたが、全然比較になってない…
開けてみると、2枚一緒に入ってました。
洗濯ばさみのあとみたいなのが外側に点々と(挟んで干すのかな?)
上部(首元)の穴は、個体識別のための目印のようです。そのほかは解体の時につけてしまった穴…(下準備の写真と見比べてみてくださいね)
下準備のときに気がつかなかった傷もありました。毛側の傷なので、生きていたときのすり傷なのか、解体・運搬時に地面を引きずったときにできたすり傷なのか…。
後ろ足のかかと部分、若干カーブしていた場所なので平らにするためか大きく切れ目が入っていました。
2枚目のシカ
四肢の部分は端材になりそうなので、手間を考えると切ってしまってもいいのかもしれません。
よく見ると、背中に黒っぽいシミがぽつぽつと。
下処理の写真と見比べると、血で黒くなっていた部分と重なる?内出血はシミになってしまうのかな…。
あらためて見比べると、いろいろ勉強になります。
さいごに
シカの皮を「やさしい革」さんへなめし依頼したら、肌触りも良く、とってもやわらかい革になって帰ってきました。
レザークラフトは超初心者で、これから勉強しなければならないのですが、何をつくろうかとってもわくわくします。
生活の中になじむ自然のかけらをつくれるといいな。
▲ よかったら、ブログものぞいてみてくださいね。
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