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【開業者インタビューVol.3】福祉施設が老舗を受け継ぎオープン。地域に愛され、地域と繋がる場へ - 焼き菓子&カフェ『JULIAN』

須坂市賑わい創出拠点やまじゅうでは、市内での開業や事業拡大を目指す方などに向けたチャレンジショップの貸し出しだけでなく、開業に向けたサポートも行っております。本シリーズ【開業者インタビュー】では、当施設が関わった開業者をご紹介します。

今回お話を伺ったのは、2024年3月末に須坂駅近くのマンション・須坂ハイランドの1階にオープンした『JULIAN』の店長・伊藤佳奈さん。やわらかくほどける食感のクリームチーズサンドをはじめ、本格的なスイーツを製造・販売していますが、運営しているのはなんと、飲食店舗の出店が初となる福祉法人です。開業を決めた経緯や、オープンまでの道のりをお聞きしました。


地域に根差した老舗パン屋を継承。福祉施設が新業態に挑戦

ーー 看板メニューの「クリームチーズサンド」、大変美味しくいただきました。見た目にも華やかで、つい写真を撮りたくなりますね。

ありがとうございます。須坂では珍しいお菓子で、且つ写真映えするような可愛いものを作りたいと当初から考えていました。色鮮やかな5種のフレーバーのクリームチーズを、店内で1枚1枚焼き上げる長野県産小麦粉を使ったクッキーでサンドしています。

クリームチーズサンドのフレーバーは「フランボワーズ」「キャラメルグラノーラ」「ブルーベリー」「抹茶」「プレーン」の5種(写真提供:JULIAN)

クリームチーズだけでなく、カカオ含有量の異なる3種類の生チョコを選べる「生チョコレートサンド」や、県産小麦とオブセ牛乳を使用した「発酵バタースコーン」などをご用意しています。

「生チョコサンド」はカカオ含有量35%、40%、56%の3種から選べる。味や舌触りが異なり、甘いものが苦手な方からも好評とのこと。(写真提供:JULIAN)

ーー JULIANさんを運営しているのは、このお店の隣に事務所のあるNPO法人信州能力開発ネットワークさんなんですよね。NPOとしてはどのような活動をされているのでしょうか。

当法人は就労継続支援に取り組む福祉法人です。障害や疾患などを理由に就労が難しい方々に働く機会を提供するとともに、一人ひとりの状態に合わせたサポートを行っています。

利用者さんたちには、資源物収集や分別の作業、担い手不足の農家さんのお手伝いなどを通じて地域社会と接点を持ちながら、生きる力やスキルを身に付けてもらっています。

ーー なぜ自社運営のお店を出すことに?

私たちがこの場所でお店を開く前に営業していたパン屋さんの閉店が大きなきっかけです。お店の名前は『ジュリアン』で、30年以上続く老舗として長年地元で愛されていました。

私たち職員もよくパンを購入していたのですが、あるときオーナーさんからお店を閉めることを聞いて「もったいないね」「続けてほしいね」と職員のあいだで話していました。

写真左がJULIAN(旧ジュリアン)、右が福祉法人の事務所(写真:内山温那)

法人としても、就労訓練に取り組む利用者さんの働く場を広げていきたいと考えていたので、じゃあ自分たちがこの場所にお店を開こう!ということに。閉店の話を聞いたのが2022年9月。その2ヶ月後には開業を決めて動き始めました。私たちがお店を開くことをジュリアンのオーナーさんも喜んでくださり、名前を引き継ぐことも快諾してくれました。


パティシエ協力のもと試作を重ねてこだわりのメニューが誕生

ーー やまじゅうがオープンしたのも2022年9月で、私たちが須坂市内の開業支援に取り組み始めた早い段階でお問い合わせをいただきました。当時からお店のイメージは固まっていたのでしょうか。

いえ、その段階では出店場所だけが決まっている状態でした。同様にパン屋にすることも考えましたが、パン屋を営業している福祉施設は結構あるので、少し違う業態にしたいとも。

ただ、そもそもお店の立ち上げ方に関して知識がなかったですし、どこに相談したらよいのかさえわからず…。そんなときに偶然SNSでやまじゅうさんのことを見かけて、理事長と一緒に相談に行きました。

ーー どういった経緯で、いまの業態に落ち着いたのでしょうか。

「自分たちが何をやりたいか」「どういうものが売れるか」というよりも、どうすれば利用者さんがお店や地域にうまく溶け込んでいけるのか、という視点を意識していました。そこで話に上がったのがお菓子屋兼カフェだったんです。

お菓子であれば商品の幅も広げやすく、地域のイベントにも出店しやすいでしょうし、雰囲気のいいおしゃれなカフェであれば、利用者さんも働きたいと思ってもらえるのでは、という考えでした。

(写真:内山温那)

ーー 法人としてだけでなく、店長である伊藤さんご自身も飲食店の営業経験がないそうですが、どのように魅力的な商品を作り上げたのでしょうか。

美味しさの追求はもちろんのこと、利用者さんも製造に携わりやすい商品を考える必要がありました。私を含め職員には商品開発のノウハウがありませんし、ここはプロにお願いすることにしました。

商品開発をしてくれる方を調べるなかで出会ったのが、須坂市を拠点に活動しているフリーパティシエの宮下智衣さんです。ダイレクトメッセージを送って相談させてもらったところ、そこからはトントンと。私たちが頭に浮かべていたお菓子のイメージを伝えると、宮下さんが上手に商品へと落とし込んでくださいました。

商品の厚さや分量、フレーバーなどを何度も提案いただいて、そのたびに職員みんなで食べて、感想や意見を取り入れながら、時間をかけて開発していきました。

ーー 宮下さんには何度かやまじゅうにご出店いただいたことがあります。JULIANさんのレシピの練習・試作の際にもお使いいただきましたね。

生地をこねるところまでは事業所でもできるのですが、家庭用の電子レンジやオーブンと業務用の機材では焼き時間も全く違うので、あらかじめ体感できたのは助かりました。実際の営業に近い環境で練習できてよかったです。

やまじゅうでの試作風景(写真:やまじゅう)


チームで乗り越えたはじめてのお店づくり。利用者の作業環境も考慮

ーー 名前だけでなく、デザインや内装にも以前のお店の雰囲気が残されていますよね。

地域の方々に愛されてきた場所なので、私達もそういうお店にしていきたいという思いも込めて、引き継いでいきたいなと。当時の看板がワインレッドのような色だったのでロゴの配色に使わせてもらったり、内装の一部をそのまま使わせてもらいました。

(写真:内山温那)

ーー 店内は寒色のグレーを基調としながらも、どこか懐かしさを覚える落ち着いた温かみを感じます。お店づくりを振り返ってみての感想を教えてください。

お店ひとつ作るのに想像以上にお金がかかるんだな、と感じました。古いお店をここまで改修すればそれだけかかるのかもしれませんが、必要な設備や什器もわからなかったので。営業許可についてもよくわかっておらず、飲食営業許可と菓子製造許可の両方を取得するならこういう設備が必要だとか、水道の蛇口が何本必要だとか、やまじゅうさんに色々とアドバイスをいただきました。

ーー やまじゅうの指定管理を受けているU.I.internationalは、北信地域で複数の飲食店を経営しています。JULIANさんの開業支援にあたってはそのノウハウを活かして、店内や製造室のレイアウトの提案など、お店づくりにまで携わらせていただきました。

店内はナチュラルで入りやすい雰囲気が職員の好みだったので、そのイメージを業者さんに伝えて、都度相談しながら作り上げていきました。やまじゅうさんからもレイアウトや照明、飾り棚など、自分たちにはなかった提案もたくさんしていただき、取り入れていきました。

テイクアウトだけでなくイートインも可。店内にはテーブル席・カウンター席合わせて9席を用意(写真:内山温那)

照明ひとつ取っても調べてみたら無数にあって、どういう基準で選んでいいかわからず悩んでいましたが、やまじゅうさんに何種類かピックアップしていただくことでパパッと決めることができました。日常業務と並行して開業準備に取り組んでいた私たちにとっては大変ありがたかったです。

製造室には、調理に従事するスタッフに加えて就労訓練に取り組む利用者さんが入るため、一般のお菓子屋さんやカフェに比べて大人数が作業することになります。こうしたことも踏まえて、動線を広く取ったり、機材の配置も工夫していただきました。あとは、お菓子以外のメニューにも将来的に挑戦するかもしれないので、導入する機材の種類や性能にも気を配っていただきました。

こうしたご提案に加え、大工さんや設備業者さんにもなにかあるたび話を通してくださったりと、不慣れな私たちをリードしていただき、とても助かりました。

(写真:内山温那)


ジュリアンからJULIANへ。地域社会と混ざりあうお店を目指して

ーー 商品開発に店舗改修、はじめての体験ばかりでしたね。開業決意からおよそ1年半後のオープン、お客様の反応はどうでしたか?

ご近所の方やジュリアンさんの常連だった方にお越しいただくと、ガラッと変わった店内の様子にびっくりしながらも、以前の面影が残っていることに喜んでくださいます。パン屋ではなくなってしまいましたが、スコーンを好きになって頻繁に買いに来てくださる方もいて嬉しいです。珍しい商品ということもあってか、SNSを見て市外から足を運んでくれる方もいらっしゃいますね。

ーー 就労支援を受けている利用者さんの反応はいかがでしょうか。

工事の段階から完成を楽しみにしてくれていました。オープン後も休日に家族の方と買いに来てくれたり、過去の利用者さんが足を運んでくれたり。現時点では作業に関わっているのは数人だけですが、接客をやってみたい方は店内で応対してもらったり、緊張してしまう方は製造室で計量などの作業をしてもらったりと、一人ひとり相談しながら取り組んでもらっています。

(写真:内山温那)

ーー 製造室から店内が覗けるので、自分が作ったものが誰かの手に渡っていくのが見えるのも嬉しいかもしれませんね。

「いっぱい買っていってくれたよ」なんて言えば自信にも繋がっていくでしょうし、これから社会で生きていくなかで、そういう喜びがひとつあることで生きやすさも変わるんじゃないかと思っています。社会へ踏み出すひとつの入口としてJULIANが機能したらいいですね。

ーー JULIANとして今後考えている展開について教えてください。

当初から自分たちの農園で作った野菜を使ってなにか生み出せないかと考えていたので、ゆくゆくはサラダ付きのプレートを提供するなどして、このお店で直接働く方以外の利用者さんも関わる機会を作っていきたいです。また、イベントへの出店などを通じて新しい商品を開発したり、利用者さんが店頭に立つ機会を作っていくことで、地域のなかに混ざっていけれたらと思っています。

(写真:内山温那)

ーー 地域の方々の憩いの場であり、利用者さんの活躍の場にもなれたら、このうえなく素敵ですね。

そうですね。このお店を作ったのもそうした思いが強いので、少しずつ理想に近づいていけるように日々頑張っているところです。


取材・文:波多腰遥 , 小笠原妙子
写真:内山温那 , JULIAN(提供)


店舗情報

JULIAN
住所/長野県須坂市須坂1230-43 須坂ハイランド110
電話番号/080−2095-6167
営業時間/10:00〜16:00
定休日/月曜日
Instagram/@julian_cafe_ bake


やまじゅうでは、起業や開業にチャレンジする皆様をサポートいたします。
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須坂市賑わい創出拠点やまじゅう
住所/須坂市大字須坂197・202-1
電話番号/026-405-2740
営業時間/10:00〜17:00
ホームページ/https://suzaka-yamajuu.com

Instagram/@suzakayamajuu

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