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降り落ちる雨は、黄金色#18

 今日から小説を書きはじめた。何を書けばいいか分からずとりあえず、百円ショップに行き四百字詰め原稿用紙を五十枚買ってきた。机の上に原稿用紙を広げ、コーヒーを置くと小説家になった様な気持ちになる。机のレイアウトを決めただけなのに、ひと仕事終えた充実を味わえた。

 将来作家になったら、駅に向かって猛ダッシュする人を脇目に朝のデニーズでMacBookを広げ優雅に執筆するのだ。 印税生活で家から一歩も出ずに、嫌な人達とは一切顔を合わさずに暮らす。なんて素晴らしい日々だろう。

妄想は加速する。

 しかし、原稿の執筆は全然進まず、小説の書き方もわからない。

痩せ細った私の手で書かれたそれは、とうてい物語とは呼べるものではなかった。対立や葛藤もなければ、ストーリーもまったく進展しない。これではただの日記だ。私は心底自分の才能の無さに驚いた。そして、真っ白な原稿用紙を見ると眠気が襲ってくる。

 私は佳代に助けを求める LINEを送った。なにもかけない」すぐに彼女から変顔の写真が連投で送られてきた。慰めてくれるのだろうか?眼は白目だ。 私は言葉を失い無になったが、徐々に笑いが込み上げてきた。苦しい、すると佳代から電話がきた。

「ウケた?」

「...何も書けないよ。どうしよう」

「ちょっと落ちつきな」

「うん」

何やら、電話の向こうで何かを探している音が聞こえる。

 「お父さんの友達がシナリオのワークショップやるみたいだよ」

「いつ?」

「毎週土曜」

「本当。佳代も一緒に行こうよ」

「…あたしはいい」

「何で。一緒に行こうよ。絶対楽しいって」

「あたしがいても何もしてあげられないよ」

「そんな事ない」

「頼りにしてくれるの嬉しいけど無理...頑張って」

 電話を切ると、ワークショップの詳細の内容が送られてきた。初心者でも書ける脚本講座とある。物語の書き方例が書いてある。

「物語とは◯◯が△△になり□□になる」 

 何のことだろう。思考回路は停止した。

つづく

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