対局日記④

6月5日の棋聖戦一次予選の対局は、近藤正和六段になんとか勝ったものの、次に佐々木大地五段に討ち取られて敗退となった。
藤井七段が挑戦していて、話題になっている棋聖戦。その次の期に僕はもう居ない。なんて儚いんだ。笑

近藤先生は奨励会幹事で、お世話になった。いつもにこやかに話し掛けて下さる。飛車を振って来られる事は分かっていて、僕はそっと飛車先の歩を突いて、居飛車にした。この選択はギリギリまで悩んだ。
序盤、上手く駒組みしたつもりだったが気付くと相手陣の方が手厚くなっていた。近藤先生が早い段階で放った自陣角は僕の意表を突いた。経験の薄さからか、瞬時に状況を掴めない。よく分からないまま、えいっと自陣の歩を突いて相手の攻めを催促した。
次の瞬間、冷や汗がどっと出た。強気に催促しているのに、よく見たらそのまま攻められたら必敗形だった。なんでこんな簡単な筋をうっかりしたんだろう。自分の目と頭を疑った。
近藤先生は首をかしげる。得意の仕草だが、この時は本心から首を傾げていただろう。ここで攻めて良くなるなら分かり易すぎる。プロが呼び込むはずのない場面だった。
5分考えた近藤先生は自重の手を選んだ。僕は席を立つ。ホッとしたが、今度は逆に攻めを呼び込まれている。でも行けそうに見えるぞ。
すぐに席に戻って、すぐ攻めの手を指そうとしたが、今度は駒を持つ前に冷や汗が出た。
何手か後にすごいカウンターがある…!?それはなんとも芸術的な手順だった。何回確認しても、上手く捌かれてしまう。
軽く息を吐いた。お茶を飲み、今度は深く呼吸をする。もう間違えられない。
僕は中空にそっと歩を置いた。近藤先生はまた首をかしげる。
これは結果的にはいい手だった。その後はなんとか猛攻を凌ぎ切った。4連敗していたから、この久しぶりの勝ちは大きい。
感想戦の近藤先生はぼやきが止まらない。プロらしいミスで、内容はこちらの方が押されていた。首をすくめるしかない。

次の佐々木大地くんとの将棋は、結果だけ見た方にはまぁ順当だろう、と思われてしまうのかな。
それは悔しい。色々面白い将棋だった。初手は78飛スタートだったが、普段は指さない指し方をしてみて、力戦になった。
その場でアイデアをぶつけ合うような将棋だったが、終盤の入り口で間違えてしまって、競り合えなかった。悔しい。
かなり相手の意表は突いていたはずだし、実戦的にも勝ちやすい展開に上手く持ち込んだつもりだったのだが…
彼からは動揺した様子が全く感じられなかった。年は近いがトップに近い彼の経験してきた大勝負の数々を思う。
振り返ると、どうもこちらばかりバタバタしてた感じもする。
将棋の実力は様々なベクトルがある。こういう時、「ああ、色々足りないな。」と思わされるのだ。

投了する時、泣きそうになって驚いた。対局自体が久しぶり過ぎて、この感覚を忘れていた。(まぁ4連敗してたんだけどね。)
毎回これではキツイが、この感覚を失えば終わりなんだろう。

続く


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