関矢さん

今日、関矢寛之元三段の将棋が中継される。もう辞めていても、新人王戦ベスト8に残っているとは。やっぱり強いんだなぁ。

実は3月、関矢さんの事をnoteに書こうと思って1週間近く何回も書いてみたのだが、全くまとまらなくて、ついに諦めた。
最近はあまり連絡も取っていないし、こういうご時世になってしまって、会う事も無い。まぁ、元気にやってるんだろう!

将棋会館で偶然会って話すのが楽しかった。あんなに4階のカウンターが似合う人はいないと思う。
今日、4階に居るのかと思うとなんか嬉しい。
久々に関矢さんの将棋が観れるのが楽しみだ。

今なら書けそうなので、つらつら書いてみます。

ーー

関矢さんが最後の三段リーグを9勝9敗で指し分けて退会する事が決まった3月7日の夕方頃、僕は将棋会館に向かっていた。外は薄暗くて、少し雨が降っていた。

ここでは詳しく書かないがこの日は西山さんが昇段する可能性もあり、そうなれば祝いたい気持ちもあった。

8勝8敗だった関矢さんは連勝なら助かっていたけれど、午前の結果で退会が決まっていた。悩んだが、一言「お疲れ様でした。」と連絡した。
2局目を早く終えていたようで、すぐに返信があった。「一緒に戦いたかった。」そういうことを言えちゃう人なのである。電車の中で泣きそうだった。

到着してしばらく4階に居たが、段々と居づらくなって、将棋会館を出た僕はフラフラと代々木のサイゼリヤに一人で辿り着いた。

ぐるぐると関矢さんの事を考える。長い奨励会生活、間違いなく一番お世話になった。3歳上だったが、本当によく遊んでくれた。奨励会の中で、彼はダントツの人気者だった。苦しんでいたはずだけど、楽しかった事ばかり思い出した。彼は色んな人を笑わせていた。
この日の僕は少しおかしくて、普段飲まないワインを飲んで、少量であっという間に酔った。
電話が鳴る。誠也からだった。
「関矢さんと青嶋さんと合流しました。君は一人寂しくサイゼリヤか?何してるんだ。これから向かいますよ。」
ゔー 頭が痛い。ピンポンを押してまたワインを頼む。すでに目が赤かった。

3人が現れて、久々に4人揃った。なんだか顔を見ると笑ってしまう。
この4人でたくさん将棋指したなぁ。懐かしいなぁ。最近はあまり集まらなかったもんな。楽しいなぁ。悲しいなぁ。

気付くと、声をあげて泣いていた。嗚咽が止まらない。普段は全く泣かないし、小学生以来だった。
3人とも呆れていた。「なんで君が泣くんだよ。」

それから、関矢さんの奨励会最後の対局を4人で鑑賞した。彼の自画自賛の解説はいつも面白い。裏芸の角交換振り飛車穴熊で鮮やかな会心譜だった。自画自賛がよく似合う華のある将棋なのである。
「振り飛車上手いねえ。」「気付くのが遅かったよ。」

誠也と青嶋さんはあまり感情が表に出ないタイプだけれど、その2人がこうして駆けつけていて「どこまででも付き合います。」という雰囲気を出している。なかなか無い事だった。
関矢さんが一番カラッとしていた。でも、そういう人だと皆知っていた。
店を出ると、雨が強かった。

それからカラオケに行った。僕が叫びまくって、関矢さんと誠也は釣られて叫んでくれたのに、青嶋さんだけは手堅く歌って相変わらずの高得点で、笑ってしまった。

最終的には将棋を指そう、となった。研究部屋に向かうと、さらに三段が何人か集結した。疲れていただろうに。
そのうちの1人が「今日は来るしか無いっす。」と言った。関矢さんがいかに慕われていたかがよく分かる。

皆でひたすら指した。たくさん指した。
関矢さんはやはり強く、トップの成績だった。どこからともなく聞こえた。「この人本当に辞めるのか?」

…夜が明けて、朝が来る。鳥が鳴き始めて、電車が動き出す。毎日はまた新しく始まるのだ。

外はまだ冷たいが、雨は上がっていた。
帰りの別れ道、最後は関矢さんと誠也と僕で歩いていた。駅が近づいたが、足が遅くなる。
誠也が「蕎麦でも食べようよ」と言った。「いい事言うね。」

寒い朝に蕎麦は温かい。話は尽きない。段々と未来の話になる。関矢さんはどんな仕事をするんだろう。
そのうち、誠也が神妙な顔で「俺たちは頑張らないといけない。」と言った。彼にしては珍しく語気が強かった。
「君はそれ以上頑張らないでくれ。」と言ってしまったが、気が利かなかったかな。そんな当たり前の事、分かってるんだよ。
関矢さんは「しっかり頼みますよ。」と言った。あんまり気持ちがこもっていない感じで面白かった。
あの日の蕎麦は忘れられない、美味かったな。

最後の最後、誠也と2人になった。
誠也が小声で言った。
「言わなかったけど、これから教室の仕事なんだよね。」
「まじか、凄いな。」
「まぁ、関矢さんだから。」

余談だが、さらにその後すぐに順位戦の最終日があった。勝ってB1に上がった彼はカッコ良すぎた。
彼が大事な対局が近くても朝まで付き合った事が、関矢さんの人柄を物語っている。

関矢さんも、昇級の報を見て「本当に良かった」と言っていた。


ーー

あれからもう4ヶ月経つのか。まさか世の中がこんな事になるとは思わなかった。あまりに淡々と毎日が過ぎていく。

今日、彼が勝って僕が池永さんに勝てばベスト4で当たる事になる。
そうなったらすごい。

久々に関矢さんと将棋指して、飽きるまで感想戦したいな。

山本博志


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?