"群青日棋"内山女流初段⑦「私、自信がある時ほどそっと指すんです。」

1週間に渡る連載も今日で最終回だ。
皆さま、読んでくれて本当にありがとうございます。

さて、将棋の内容。
激しい玉頭戦の中、内山が△12玉で自陣の危険度を正確に見切ってハッキリ優勢になったが、
福間が▲34飛の勝負手で混戦に持ち込むなど、
盤上は一進一退の攻防が続いている。

前回指了図
107手目▲65銀。
内山にとって、運命がひらりと姿を見せた瞬間だった。

しかし、将棋というのは恐ろしく
いかに混戦が長く続いているようであっても、
"命脈を決める一手"が急にひらりと姿を見せる事がある。
それは濃霧で曇りがかった盤上に一筋のまばゆい光が差し込むかのような。
"この手さえ指せればまず負けない"
その"一手"を掴めるかどうかという、言わば"運命力"のような力もまた、
棋士の強さを測る物差しになると思う。

そういう点で、まさに内山は運命を掴む力を持った棋士であった。

混戦に終止符を打つ決め手。
後手玉に迫る手段が無くなり、
先手玉は盤上に駒が少なく、延命の手段は無い。

"△33金"

河口俊彦先生風に言えば、
この手でこの将棋は事実上終わっている。

福間にとっては▲13桂のような射程距離の長い鋭い寄せが見えてしまったのが、この際は不運であった。
至近距離の金銀の壁で王の身動きを封じる手があっては、長い弓矢は届かない。

しかし、事実上将棋は終わっていてもそこから一縷の望みを賭けて指し続ける力というのも、誰しもが持つものではない。
その点、福間は群を抜いている。

凄みのある一着。
この迫力があれば、百局あるうちの一局を拾う事がある。
この図では△43銀が冷静だった。

この▲23飛など、浮かぶだけで凄みがあるというものだ。

しかし一分将棋の中でも内山は冷静に指し続けて、150手目の△16金でついに第一人者からの価値ある金星を挙げる事となった。

ついに福間が投了。
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△33金のような手は、正直私ならば高い駒音で指してしまう。今思えば野暮な質問だったが、私は内山に聞いてみたのだった

"△33金は凄い手つきだった?"

内山はふふふ、と笑いながら

「私、自信がある時ほどそっと指すんです。」

いずれ、内山が動画中継のある様な大舞台の対局に出る機会もそう遠くないだろう。その時は皆さま注目して頂きたい。(終)

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