対局日記⑥


前回の投稿から間が空いてしまった。突然寒くなり、身体が驚いている。
少し早いが、寒がりなのでお気に入りのコートに袖を通す。
ようやく秋かぁと実感が湧いてきた。
9/29に王位戦で中田宏樹八段との対局があった。正直、相手が誰であれあまり負けるイメージが無かった。

最近は持ち時間が長い将棋が好きだ。序盤、通い慣れた道でも、一手一手しっかり真剣に考える事を心掛けている。
尊敬する藤井猛九段もそうされている。ある自戦記に「考えているというよりは気持ちを盛り上げている。」と書いてあった。なるほど…

この日も、20手目辺りから何回も「この手は何分ですか?」と聞いてしまった。先日、ABEMA解説に出演させて頂いた時に、「これを聞けるのはプロ棋士の特権なので、毎回テンションが上がっている。」などと喋ったが、記録の子が万が一この解説を見ていたらどうしよう、と途中からかなり恥ずかしくなった。なんでもかんでも素直に語るのは考えものである。
そういえば「休憩入れて下さい。」でもテンションが上がるとも喋った。この日は昼休憩の少し前に指したが、「指されたら休憩入れておいて。」と一声掛ける手筋で、無事にプロ棋士風を吹かせる事に成功した。(これでも10月でプロ入りして2年経ちます…)

対局の方は、終始自分のペースを守れていたと思う。終盤、形勢は微妙だが手が広く持ち時間をリードしている場面。1手に30分を投入したが、ここで勝負手を放てば競り勝てると思った。

しかし、そこから相手の中田宏樹先生は少ない持ち時間でことごとく際どい筋を見切ってきた。相手の視点でもかなりプレッシャーのかかる局面だと思ったのだが…
両者1分将棋までもつれ込んだが、先に分かりやすく負けの手を指してしまった。形勢は苦しかったが、秒読みに追い込まれてから、どれだけ勝負勝負と迫っていけるかが大事である。もう一声粘りたかったな、という悔いは残った。
しかし全体的には力を出し切った感があり、終局後はなんとも言えない気持ちだった。
感想戦、中田先生と口頭で少し意見を交わした。難しい詰みが絡む変化の話の時、会心のニヒルな笑みを見せて下さった。また教わりたいな。と思った。

家に帰り、思わず中田宏樹先生とはどんな人なのか?と気になり、もちろん知っているエピソードもあるのだが、改めてインターネットで調べてしまった。

「羽生九段と同時期に四段昇段、毎年のように高勝率」「王位挑戦、2連勝して獲得間違いなしと目される勢いだった」「将棋連盟野球部の監督を務め、温情采配で部員の士気を高めた」「オイチョカブの名手で、親で役を出した時のニヒルな笑みから、デビルとの渾名あり」「現在55歳 通算760勝、勝率5割8分。順位戦はB級2組、竜王戦は4組在籍」
オイチョカブの名手なのか… 以前仲間内で酷い目に遭ったことをふと思い出した。

自分の55歳なんて想像も付かない。
考え事をする夜は、熱いお茶が美味しい。ゆっくり飲みながら目を閉じると、頭の中で将棋盤がめまぐるしく動いていた。

うまく言えないが、先は長いなぁ。と感じる今日この頃です。

山本博志

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