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”古くて新しい”マイクロ水力発電が山間部の未来を変える!?

※2023年8月19日に配信されたトークライブ「くらしとしごと」をもとに構成されたコンテンツです。


トークライブ「くらしとしごと」とは

世界にはひとの数だけ、「くらし」(ライフ)と「しごと」(ワーク) の形がある。そのひとつひとつにスポットライトを当て、生き方のヒントを探るインタビュー企画。

兵庫県のまんなか、神河町に拠点を置くOFFICE KAJIYANOが企画。2018年にスタートし、コロナ禍を経て2023年からは月1ペースでインスタライブにて発信中! @office_kajiyano

#19トークゲスト:荘中 友樹さん(会社員/マイクロ水力発電研究家)

兵庫県姫路市育ち。現在は関東の水力発電用設備メーカーにて水車の設計に携わり、発電所計画のプロジェクトマネージメント等を務める。法学部に進学するもバイク三昧の大学生活→溶接工→東南アジア自転車旅→エンジン製作者→アジア〜西欧視察中に、次の時代に求められるものをと考え「水力発電の技術者」に辿り着いた異色の経歴の持ち主。

現代生活に欠かせない「電気」

家族が寝静まった仏間。ほの暗い仏壇に手を合わせるべく、マッチを擦る。ぱっと手元が明るくなる。ろうそくを灯すと、さらに視界が広がる。

古の人々にとって「灯り」は、ごく限られた時間と空間を照らすものだったのだ、と実感するひとときだ。

そして、しみじみそう思ったことも忘れて、太陽が煌々と照る日中なのに居間の蛍光灯の紐をなにげなく引く。さらにはテレビをつける。パソコンを立ち上げる。部屋の隅に備え付けられた緊急時の無線放送機も、動力源は電気エネルギー。

わたしたちの生活は、もはや電気なしには成り立たないものになっている。


「電気をつくる」というロマン

今回お話を伺ったのは、水力発電の技術者として勤務するかたわら、山間部におけるマイクロ水力発電の可能性を探究されている荘中さん。

出会いは、たしか4〜5年前。コワーキングスペースとして営業していたときに、ときおり立ち寄ってもらったのがご縁。

当時の神河町訪問の目的は、「面白そうな水源がありそうなので」。

「電気を買う」よりも「電気をつくる」ほうがなんか面白い。

根っからの「水力発電フリーク」荘中さんに、「みずから電気をつくる」水力発電の歴史やマイクロ水力発電の可能性について聞いてみた。

素人目線の質問に、ていねいに答えてくださる荘中さん

小水力発電は「古くて新しい!」

小水力発電(マイクロ水力発電)自体はけっして新しいものではなく、すでに技術と仕組みが確立されている。

自然環境への負荷も少なく、神河町のような山間部特有の傾斜と水量があれば、動力源としては有望、家庭用の電気なら家の前の大きめの溝でも賄える。売電も可能。

「それなら、なんで日本で普及していないの?」

その答えは、ルールが追いついていなかっただけ。

というよりは、日本の各省庁の規制により小規模事業者や家庭への普及が妨げられ、大手電力会社しか水力発電を取り扱うことができない時代が長く続いてきたのだ。

水力発電は過去100年以上の長い歴史を有しているため技術上の課題はほぼ解決されており、自然環境への負荷が少なく、比較的少ない出費から行うことができる。<中略>しかし、日本においては、複数の省庁によって様々な規制(特に河川法)が設けられるため、長年に渡りその普及が阻害されてきた。いわば規制や利権の歴史でもある。

Wikipedia「小水力発電」

それが一変したのが、2011年の東日本大震災。

日本の電力源における集中のリスクと分散の必要性が明るみになり、重い扉がようやく開き始めた。

そこから10年以上の歳月が経ったことになる。

では現在は?


普及におけるハードル

荘中さん曰く、小水力発電の普及において今も大きなネックになっているのが河川法

荘中さん曰く、より積極的な活用ができるよう、福島県で河川活用のルール見直しをはたらきかけている団体もあるそう。

川というものの特性上、山林や農業、漁業など複数分野の権利が複雑に絡みあうため、地域の理解、自治体のバックアップが不可欠だという。

西粟倉などではすでに先行事例もある。ある程度の設備規模になると動くお金も大きくなるけれど、お金の面でざっくり言うと、「7億円投資して、年間の収益が7,000万円」くらいとのこと。その通りなら、地域の中長期的投資のリターンとしては悪くない。どころか、メンテが少なく済むことを考えれば、10年で元が取れてその後は何十年も安定した収益を生む財源ともなる。

「小さくやろうと思えば、自転車発電の延長で、ある程度水量の見込める大きめの側溝に水車を設置する方法もありますよ」

その場合のコストは、製造と設置に約10万円、売電のためのケーブル設置に約10万円。計20万円ほどあれば、小さな建物の毎月の電気代くらいは賄える計算になるのだそう。

「これなら手が届きそう!」と思うけれど、その規模でも道路を管轄する国や県、土地の所有者や各利権者との調整は必要。マイクロ水力発電のデメリットとなる日々の掃除、手入れのコストも上流の環境によって変わってくるだろう。

2010年代からハードルが下がってきているとはいえ、まだまだ普及への壁は残っている。


それでも「日本はチャンス」

はっとさせられたのが「日本は雨が降る。山が枯れない。それがすごいこと」という視点。

「田舎なくして都市の発展なし」という荘中さんの想いもうれしい。

そもそも、マイクロ水力発電が物理的に難しい国もある。水力発電の世界において、日本は幸運なのだ。

地域で力を合わせれば、はじめに大きな投資は必要になるけれど、何十年先まで収益を生むサステナブルな仕組みを作れる可能性がある。

太陽光発電も、自然エネルギーを生かして電気を生む点ではサステナブルだけど、補助金ありきの収益構造と廃棄の問題がある。その他風力や洋上発電等の再生エネルギーともフラットに比較する時代がやってくるかもしれない。

「だから、今がチャンスなんですよ」

力強くプッシュしてくださる荘中さんのキラキラした瞳をみながら(今思ったけど、「鬼滅の刃」の煉獄さんに似てる)、ふと湧いてきた疑問。

「なんでそんな儲かるチャンスのある話を、オープンに話してくださってるんですか?」

「特定の誰かが利益を得るというより、みんなでシェアするべきものだと思っているからです」

「小水力はもともと、発電所を所有していた人は別として新規に個人が大儲けするのは困難なもの。地域みんなで運営して、利益を分け合うという方式が一般的になれば良いと考えています」

「今なら、外から買い集められる前に、地域で山や川の権利をおさえることもできる」

海外のマネーが日本の山林にも及んでいるという報道も頭をよぎる。他人事ではけっしてない、と考えさせられた。

多方面で活躍中の絵描き たねまをさん @tanemaoooによるグラフィックレコーディング
毎回のお約束、旅サラダ的記念撮影

まとめ

「競争の時代は終わった。協力し合って発展する時代」とまっすぐに語る荘中さん。お話を聴いていると、世界はそうなっていくと確信に変わってきて、じぶんにも何かできるのではないかと思えてくるのが不思議だ。

20年、あるいは50年後に、「あのころがターニングポイントだったね」といまを振り返るのかもしれない。


Information

荘中 友樹(そうなか ゆうき)
Instagram📷
@soukichi_himeji


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