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11. ジオパークに見る夢:心を広げて、未来へ

ジオパーク全国大会の地質物品の販売に関する分科会において、「文化とは何ですか?」という質問がありました。私の講演の中で、地質物品の販売で、歴史的経緯がある文化として認識される地質物品の販売は許されるという話をしたため、どのような地質物品の販売が許されるのか?という質問と想定されます。したがって、地質物品の文脈(コンテクスト)において、文化とは「その地域における風習や習慣として、歴史的に根付いた活動」を指すのだと思います。

しかし、私はそのとき質問の真意を理解しないで答えたため、私の答えは「文化とはミームである」というトンチンカンなものになりました。しかし、これは、私が文化に対して持っている広義の概念なので、自然と発した言葉でした。ミーム(meme)は、生物学者のリチャード・ドーキンスが著書「利己的な遺伝子」の中で、提案した概念です。いろいろと難しい説明があちこちでなされていますが、私の個人的な解釈では、人類が生物として未来に残せるのが遺伝子であり、人類が文化的活動として未来に残せるのがミームだと考えています。つまり、私たちが未来に残せる物は、生物としての遺伝情報と、文化としてのミームの2種類に大別されるのです。単純に言うと、家庭での子育てや親戚や兄弟の関係を重視するのは前者(遺伝子)で、ジオパークでせっせと活動するのは後者(ミーム)です。もっと単純な言い方をすると、ジオパークにおいて、地質遺産を用いて地域振興をするのは前者のカテゴリーであり、地質遺産を守り地球の記憶を伝える活動は後者のカテゴリーです。ジオパークではどちらも同じように大切な活動で、未来の人類を支えていきます。しかし、これまで繰り返し述べているように、地域振興は他にも多くの手立てがあるけれども、地球の記憶を守り伝える活動はジオパークしかないのです。ジオパークをジオパークとして成立させているのは、文化(地質遺産を中核とした)の継承だと思います。そして、その活動は、ミーム(文化遺伝情報)として私たちの子孫へと未来永劫に繋がっていきます。

これまでのnote.comの記事でも述べてきたように、私は、「ジオパークが持っている最大の長所は、人々の心を広げることが可能な点だ」と思っています。心を広げるとは、心の時空を広げることです。生きている現在は、過去に起こったできごとに基づいており、現在の活動は必ず未来に影響を与えます。現在生活している場所は、地球上のどこかで発生している地殻変動の結果(地球システムの働きの1つとして)与えられた場所です。私たちが排出するプラスチックなどの様々なゴミや二酸化炭素・メタンなどのガス、家を建てるときに使う木材やセメント、そのすべてが地球の環境に影響を与え、それらは私たちや未来の子ども達の生活に、災害や食料危機、物価の高騰などの形で帰ってきます。地域の地質遺産は、ジオパークが認定したから、地質学者が研究してすごい発見をしたからといった理由だけで、重要な訳ではありません。地域の地質遺産は、地球の歴史を記憶していて、そこから地球システムの仕組みを知ることができます。そこからの学びは、地球への未来への鍵を与えてくれます。地域の地質遺産は、その地域で閉じた情報を提供するのではなく、地球全体の様々な地域とのつながりを教えてくれます。地域の地質遺産は、未来と過去、地球の他の地域や地球全体を俯瞰することを可能にする4次元のワームホールのようなものです。ドラえもんで言えば、『どこでもドア』です。私が『ジオパークで心を広げよう』というのは、単なる精神論ではなく、地域の地質遺産を正しく学び、ジオパークのネットワークを活用して、一人一人が『どこでもドア』を持ちましょうということです。それは、特に子ども達へ持たせたいです。地域の子ども達が『どこでもドア』をもち、世の中の様々な問題から自由になれば、その地域のジオパーク活動は成功だと思います。

私たちは、普通に暮らしていると、学歴や恋愛や仕事や健康、そして収入や支出に頭を悩ませてしまいます。ジオパーク活動は、そこから羽ばたく翼としての『どこでもドア』を与えてくれます。そして、ジオパーク活動は、一人一人の未来と、人類の未来と、地球の未来を切り開く力を与えてくれるはずです。平朝彦氏の著書「人新世」の最後に、『私たちの未来(ソサエティ3.0)に必要な人間力は、暴力の根源を見極める揺るぎない信念、自然を楽しみ愛でる心、そして他人への思いやりと慈愛である。』と述べています。ジオパーク活動が、私たちの心を、そしてジオパークを訪れる人々の心を広げることで、必ずこのような人間力を育てる力になることを期待してやみません。ジオパークには、そのような力があり、そこで活動している皆さん一人一人の思いが、慈愛に満ちた未来へ繋がることを、たとえ夢想と言われても、信じていたいと思います。