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7. ジオパークと地域貢献

ここまで、6回に渡って、ジオパークの話題を紡いできました。主に日本のジオパークについてです。日本のジオパークのほとんどは、自治体が運営主体となっています。そう思うと、「地域ではなく、地球全体のことを考えて、ジオパーク活動をしよう」と述べてきた私の主張は、あまりありがたくないのではないか?そう思ってきました。きっとそうでしょう。日本の多くの自治体の職員の方々は、志が高く、地域のために一生懸命働いていらっしゃいます。ジオパーク活動をする上で、「地域のためになんとか役立つ活動をしよう」と考えるのは、至極当然のことに思われます。そこで、ここまで述べてきた内容と、地域への貢献をすりあわせることが可能か?について考えてみることにしました。

「ジオパーク活動は、今生きている人ではなく、子ども達やさらにその子孫のための活動である。」という考えは、地域への貢献としては、矛盾しないと思います。多くのジオパークでは、子ども達へのジオパーク教育に力をいれていますし、「ジオパーク活動を通じて、子ども達が地域に誇りを持てるようにしてあげよう。」という優しい愛に溢れています。ただし、岩石販売の件で述べたように、ジオパークの活動や理念は、必ずしも地域のすべての人々の利益を満たすものではありません。もちろん、岩石を売らない代わりに、代替品を開発して商売をしている人を困らないようにしようといった提案もなされています。しかし、優先度(priorilty)をつけることが、大切です。今生きている人よりも、子ども達やその子孫の未来の方が優先度が高いのです。一時的な儲けによる経済活性化よりも、子ども達のために地質遺産を残し、持続可能な社会を模索する方が優先度が高いと言えます。

「1つのジオパークの地質遺産の価値は、ジオパークに認定されたからと言っても、それほど高いものではない。」という記述は、自治体の人々の心を傷つけたかもしれません。しかし、1つ1つの地質遺産の意味を変動帯を構成する日本全体で捉えることや、地球全体の働きの中でその意味を探ることは、さらに大きな価値を生むという事実は、決してそれぞれの地域の地質遺産の価値をないがしろにした説明ではありません。地域より国家、国家より世界全体の中で、価値を考えること、地球に住むすべての人々の地球環境を考え、世界中のあるいは日本国内全体
の様々な地質災害の対策をネットワークで考えることの方が、1つの地域の地質遺産の価値を述べるよりも、子ども達の未来に役立つはずです。そして、それは今地球に住んでいる私たちにも利益をもたらします。

日本の多くの地域において、人口が減って困っています。そこで、なんとか人口が増えないか模索しています。日本全体でも、総理が「異次元の少子化対策」を打ち出しています。ある地域で人口を増やそうとしても、日本の人口が減少して限られているので、隣接する他の地域の人口が減るだけで、あまり効率が良くありません。地域経済の活性化でも同じことが言えるでしょう。個々の地域で一生懸命がんばっても、日本全体の景気がよくならないと、地域経済は潤いません。地域と日本全体の関係と同様に、世界情勢にも目を向けなければ、地域経済の問題は、解決つきません。ジオパークは「心をひろげる」活動です。それは、経済活動にも適用できるのではないでしょうか?地域の人口や収入に一喜一憂するのではなく、世界全体の動きに目を向けて、判断し活動する必要があります。平朝彦氏の著書「人新世
- 科学技術史で読み解く人間の地質時代」( 東海大学出版)には、人間の活動によって、末期的な状況に陥った地球の姿が描かれています。明日の生活を考えることも大切ですが、そのことは地域の別の部署に譲って、ジオパークに関わる人は、地球規模の未来を明るくする活動を、地域で展開する役割に徹してはどうでしょうか?別の言い方をすると、日々の生活については他の部署にいるときに尽力し、ジオパーク活動に携わっている間は、子ども達や子孫の未来という長期スパンの地域貢献を目指してはいかがでしょうか?ただし、人類を含む第6の大量絶滅期は、そんなに遠い未来ではないのかもしれませんが。。。