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2. ジオパークにおける岩石販売問題

https://youtu.be/A4qbm57ftIY


今年、山陰海岸ユネスコ世界ジオパークの再認定でイエローが出されたことで、ジオパークの岩石販売が大きくクローズアップされ、5月21日に幕張メッセで開催された地球惑星連合大会パプリックセッション「ジオパークとサステナビリティ」において、多くの発表と議論がなされた。しかし残念ながら、具体的な解決策は示されず、多くの収穫が得られたとは言えなかった。ただ、具体的な解決策の道筋は、冒頭に示したYouTubeのOffical JGNにアップされたGuy Martiniの動画に示されている。ただ、そのことに気づいている人はそんなに多くないことは、会議の最後の議論でなんとなく理解することができた。

ユネスコ世界ジオパークの運用ガイドラインの基準viiには、以下のように示されている。『ユネスコ世界ジオパーク内の特徴的な地質遺産は、申請に先立って法的に保護されなければならない。 同時に、ユネスコ世界ジオパークは、地方および全国的な地質遺産の保護を促進するために利用されるべきである。 ジオパークの管理団体は、化石・鉱物・岩石などの販売に直接参加してはならない。ユネスコ世界ジオパーク内の「商店」(その産地に関係なく)を対象とし、地質物質全体の持続不可能な取引を積極的に阻止すべきである。 責任ある活動として、またサイト管理の最も効果的かつ持続可能な手段を提供する一環として明らかに正当化される場合、ユネスコ世界ジオパーク内の自然に再生可能なサイトから科学的および教育目的で地質物質を持続的に収集することが許可される場合がある。 このようなシステムに基づく地質物質の取引は、地域の状況に関連して世界ジオパークにとって最良の選択肢として明確かつ公的に説明され、正当化され、監視されている限り、例外的な状況では容認される場合がある。 このような状況については、ケースバイケースでユネスコ世界ジオパーク評議会の承認が必要となる。』(グーグル翻訳による)。この記述は、Guy Martiniの説明と基本となる考え方は同じである。ただ、彼のビデオの方が具体的なので、より分かりやすくなっている。

ここからは、私個人の感想と意見を述べる。ユネスコ世界ジオパークは、単純に化石や鉱物、岩石を売ってはいけないと、単純に言っている訳ではない。それらを売ってはいけない理由の第一は、地球の歴史を刻んでいる貴重な地質遺産は、将来の人類(子ども達や子孫)のために残すことである。それらの地質遺産は、彼らが生きていくために、役立つはずだ。そう言っているように聞こえる。また、岩石販売でも、それがどんな岩石であったのかをきちんと調べなさいとも言っている。児童労働で採取されたものではないか?海外の貴重な地質遺産を壊したり、盗掘したものではないか?海外の環境を悪化させるような手法(薬物を流したり、鉱毒をまき散らしたり)によって採掘されたものではないか?そういった確認をしなさいと言っている。それらを確認しないで岩石や鉱物などを販売した場合、知らず知らずに海外の悪事に荷担している可能性がある。要は、地球上に現在住んでいる多くの人々に迷惑をかけない、また未来の子ども達の学びや智恵や知識の習得に役立つ資産をなくさないようにしよう。そう言っているだけに聞こえる。現在ジオパークで岩石販売をしている人や組織を排除することが目的ではなく、あくまで未来を託す子ども達のための決まりごとなのだ。商売を続けるなら、商売の裏に悪事がないことを証明し、正義ある商売であることを示しなさい。そう述べているのだ。

連合大会のセッションでも、ジオパークの関係者から、どうして岩石や鉱物、化石を売ってはいけないのか?商売をしている人の生活をどうする?という意見が出てきた。これは、当然のことだと思う。日本の多くのジオパークにとって、地元の経済が良くなることがジオパークの目標(メリット)であり、活動のモチベーションだからである。ジオパークのためには。。。という言葉が発せられるとき、その真の意味は、地域のためには。。。なのである。そして、それはジオパークへの誤解に端を発している。私が直前に記したnoteの記述「何故、ジオパークは地質遺産を守るのか?」で述べたように、ジオパークは現在の私たちの利益を最大の目的にしてはいない。むしろ、現在の私たちの利益を少し抑えてでも、未来の子ども達や子孫のためになる活動をするのが、ジオパークだと思う。SDGsや地球温暖化などの環境問題を捉えても、同じことが言える。グローバルな様々な課題に対する解決では、個人の欲望は必然的に抑制される。石油や石炭を使い放題にすることはできないし、安い燃料で発生した排気ガスを大気に垂れ流すことはできない。グローバルな問題の大半が、人間が脳内に発生するドーパミンに促されるままに、経済活動を進めた結果もたらされたものです。それらを解決するには、個人の欲望が抑制される必要があるのは当然である。

岩石や鉱物、化石の販売において、しばしば議論されるのは、ジオパークの運営主体(形式的には単一あるいは複数の自治体全体であるが、実質的には事務局の数名)に、問題解決が委ねられることである。多くのジオパークの事務局員は、岩石販売をしているお店の人と話をして、なんとか岩石を売らないようにしてくれと頼む。当然、店の人は、商売だから譲らない。そこで発生するのは、人と人の利害のやりとりだから、解決が困難に決まっています。店の人は、生活がかかっている。ジオパークの人は、ジオパークとしてやっていくために、説得をしないといけない。このような対処方法では、どちらかが滅びるまで(ジオパークがダメになるか、店の運営が成り立たなくなるかまで)、決して解決に結びつかない。では、どうするのが良いだろうか?

それは、世界中で、地球温暖化を防ぐため二酸化炭素削減をどのようにおこなっているか?誰一人取り残さない世界をつくるため、国連はどのようにSDGsを運営しているか?それを見れば、分かると思う。人類の未来がどうなるか?地球がどうなるか?そのことによって、私たちの子どもや子孫にどのような影響が出るか?そのような未来図をジオパークを含む自治体全体で考えて、個人の欲望をどの程度抑えて、どの程度地球を守る活動をするのか?若い世代やその子ども達へ、何を伝え、何を残していくのか?そうした基本的理念を皆が共有し、地域として理解し、ジオパークのトップも兼ねているはずの、自治体の長が明確に判断し、広く住民に周知すべきなのだと思います。ジオパーク担当者の個人の活動に、岩石販売の責任を転嫁することは、グローバルな視点で活動するジオパークの理念とは、相容れないと考える。

ジオパークは、地質遺産の保全を謳っており、そのために、ジオパーク担当者やジオサイト内の店舗が岩石・鉱物・化石の販売に関わることを基本的に禁止している。しかし地質遺産が大切なのは、それらが美しくて観光客が沢山来て地元が儲かるからでもなく、自分たちの地域をよその人にすごいだろう!と見せびらかしたいためでもない。そこにある地質遺産が未来の子ども達の暮らすに役立つ知恵と知識をもたらすからであり、保護・保全を行うことが人類全体の利益になるからである。地質遺産の保全・保護が個人や地域の利益より優先されるべきものであることを理解しないと、ジオパークの活動は成り立たない。ジオパークが個人や地域の利益のために存在すると誤解している人は、Guy Martiniの意見が理解できない。そして、そのような解釈に基づく活動は、もはや本来の意味でのジオパーク活動とは言えない。ジオパークというグローバルな活動をしたいのか?ジオパークという枠組みの外で、地域のためにひたすら働きたいのか?地域ごとに考えて、選んで行く必要がある。

追記すると、ジオパークは、持続可能な開発を謳っているので、儲けて当然だという意見もある。確かにユネスコ世界ジオパークは、地域が潤って、その地域が持続可能になることによって、地質遺産を守ってくれれば良いと、しばしば伝えている。その意味では、ジオツアーなどで地域が豊かになることを否定はしない。ただし、ここで”地質遺産を守ってくれれば良い”という言葉の裏に隠れているのは、地球の、人類の未来のために守って欲しいという意思である。ジオパーク活動の究極的な目標が、人類の未来にあるのであれば、"持続可能な"という条件は、1つのジオパーク地域のみを持続可能にすることよりも、地球全体を、人類全体を、持続可能にするような開発が優先されるべきなのである。だから、岩石を売るという行為よりは、地質遺産の保護が優先されるのである。ただし、このような過ちは、日本政府が行っているSDGsに関する活動が一国の利益を優先しているようにみえるので(例えば、SDGs未来都市など)、こうしたことは人間が陥りやすい過ちの1つなのかもしれない。

注:上記の意見は、個人的見解であり、ユネスコ世界ジオパークネットワークや日本ジオパークネットワークの内部でも、意見が分かれると思う。意見を集約するために必要なことは、ジオパークという枠組みで、私たちが行わなければならないことは何か?ということを、心の深い場所で考え抜く、一人一人の努力だと思う。