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リフレクションは新たな未来をつくる

今日のテーマはリフレクション(reflection)です。振り返り、省察などと訳されることが多く、小学生からビジネスマンまで何かにつけて「振り返ってみよう」と促された経験をお持ちではないでしょうか。世の中にはリフレクションの様々な定義が存在しますが、今日は1冊の本を参考に解説してみたいと思います。

今日の一言サマリ

リフレクションとは、前提を疑うことである


参考にした図書

一般社団法人 学び続ける教育者のための協会(REFLECT)、2019、「リフレクション入門」、学文社


リフレクションとは何か

オランダのユトレヒト大学で教師育成プログラムを開発したコルトハーヘンは、教師教育プロセスの中心にリフレクションを据え、リフレクションの実践プロセスをALACTモデル(後述)として確立しました。
コルトハーヘンは、リフレクションは単なる振り返りではないと主張します。彼は、「その状況で何が本質的であるかをわかるようになることで、その先の行動がより効果的になるよう経験から学ぶこと」が、リフレクションのゴールだとしています。そしてリフレクションとは、「ひとが文脈に合った新しい振る舞いを形にしていくことができるように、状況それぞれの根底にある原則を理解しようする試み」だと言います。

リフレクションのプロセス ーALACTモデル

コルトハーヘンは理想的なリフレクションのプロセスをALACT(アラクト)モデルとして提唱しました。
行為から始まり(A)、行為の振り返りをし(L)、本質的な諸相への気づき(A)、行為の選択肢の拡大を経て(C)、新たな行為を選択肢を試みる(T)という5段階のプロセスです。

このプロセスの中で、第3局面の「本質的な諸相への気づき」がないがしろにされることがよくあります。ある経験に引っ掛かりを感じても、その本質的な要因への考察が不足すれば将来の同じような状況で新たな行為をするための気づきが得られず、学んでいないことになるのです。

8つの問い

コルトハーヘンは、この「本質的な諸相への気づき」を確実に実行するため第2局面「振り返り」で用いる「8つの問い」を開発しました。

このシンプルな問いによって、学習者は普段意識に上ることのない自分の思考、感情、望みを表面化することができる上、相手の思考、感情、望みを想像することで相手との前提の不一致に気づくきっかけを得ることができます。

人は、人生の中での様々な経験をもとに、物事に関する考え方や価値観、愛憎などの感情が複雑に結びついて人としてのありよう(ゲシュタルト)を形成しています。特に教育の場面のようなダイナミックな状況では、人の行為は合理的な思考よりむしろゲシュタルトが前提として働いていることが多いのですが、思考より下の部分は普段見ることができません。そのため、リフレクションの中で自分の見えない部分、相手の見えない部分を考察しそのズレに気づくことが「本質的」な気づきにつながるのです。
本質的な気づきは、第4局面で将来の行為を見直すことにつながります。将来同じような状況でより効果的と思われる行動を選択することで、未来をより望ましいものに変えていくことができるのです。


説明するとやや複雑で難しそうですが、コルトハーヘン自身はリフレクションでは主観を大切にし、むしろ客観的に記述された理論(大文字のTのTheory)を自分自身の主観や経験と結びつけて理解する(小文字のtのtheory)ことを重視しています。

より深いリフレクションへ

コルトハーヘンは人の核心からの変化を促すリフレクションの型として、コア・リフレクションを提示しました。8つの問いにを用いることで無意識だった自分自身の矛盾に気づいたり、自分の欠点に目を向けることがありますが、コア・リフレクションは人の心の中にある信念や強みを生かして外に向けて働きかけていけるようにするものです。
人の核心・中核にはダイヤモンドのように輝く「強み(コア・クオリティ)」があると考え、成功体験のリフレクションを行うことでこの「強み」を言語化・見える化することができるのです。
コルトハーヘンはリフレクションの対象をたまねぎモデルで分類しました。人と外部環境は一番外側の行動を通じて接していますが、この外側の層は日常では環境から「常識」という形で内側の層に圧力をかけ、変容させたり歪めたりします。人が所属している社会や組織で当たり前とされている行動を取るようになることは、想像に難くありません。コア・リフレクションでは普段は隠れているコア・クオリティに気づき、ポジティブに次のアクションを選択することを可能にします。

実践への示唆

最後にコルトハーヘンのリフレクションをビジネスパーソンはどのように活用できるのか、考えてみましょう。
個人のレベルでは、経験から教訓を得て成長につなげることです。コルブの経験学習モデルでリフレクションを中心に据えているように、リフレクションの質を高めることは経験から学習し成長することにつながります。
他者との関係性のレベルでは、今の関係性を形作っている前提に気づき、関係性を自らが望むものに変えていける可能性があります。自らの前提と相手の前提に気づき、そのギャップを埋める次のアクションを取ることができます。ビジネスの世界での行為が、ほぼ全てクライアント、上司、同僚など他者との関係性の中で実行されることを考えると、8つの問いは貴重な気づきを与えてくれるでしょう。前回取り上げた「対話」は、話しながらリフレクションを実行しているとも言えるでしょう。
自分のコア・クオリティに気づき、それを毎日の仕事で使えるようにすることにも意味があります。仕事の中では「できてないこと」に注意が向きがちですが、「得意なこと」に注意を向けることでより大きな成果を上げ、精神的にもポジティブに仕事に向き合えるようになるでしょう。

本稿では、多くのリフレクションの定義の中から、コルトハーヘンの実践的な方法を取り上げました。私も忙しい毎日でリフレクションをおろそかにしてしまいがちですが、ルーティンに取り入れたいと改めて思いました。

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