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蟋蟀(こおろぎ)     ※1990年頃

ちびりちびりと夜が更ける
ひっそり閑と寂しい夜だ
ああ、俺のあの女はどうしているだろうと
男はぽつりとつぶやいた

今宵は月夜か闇夜か
場末のあの裏通りにはもう灯りは消えたか
知ろう術さえ今はない
男は底冷えの独房にいた

外には蟋蟀が鳴いている
ただ一匹だけ、ただ一匹だけ
あの犯行の夜もそうであった
男が倒した青年めの傍らに

じりじりと蟋蟀が鳴いていた
あれは何を切なくて鳴くのであろう
鳴く鳴く衰ふ蟋蟀よ
あれは僕への罰であろうか

男の心の中にはまだあの女がいて
ひらひらと可憐な足で飛び回る
愛されているとは露知らず
振り向いて笑う仕草はあどけない

── さて、明日はいよいよ死ぬ日だろうか

男は隣室の老人から譲ってもらった
煙草の先に火をつけた
その頃女はベッドの上で
心地よげな寝返り打った…

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