おとんも僕もトントン
僕は昔から不注意だ。
父も昔から不注意だ。
それが如実に出た、帰省先での一幕。
実家の敷地内、駐車スペース2台分のところに、
両親の車1台とうちの車1台を停める。
僕が出先から帰ってきたら、
両親の車が2台分のところの真ん中に1台然として停まっていた。
同じく出先から先に戻ってきた父が、いつもの癖で真ん中に停めたというのはすぐに分かった。普段、僕や姉家族が帰省していない時は父と母二人だけだから。
どちらかの端に詰めないと、もう一台は停められない。
それだけじゃない。父はチェーンもしていた。
一日の終わりに、もう今日は外出せえへんよという時点でする車止めのチェーン。駐車スペースに入れないようになっていた。
僕ら息子家族が来ていることを分かっててか忘れててか、父はいつもの癖で車止めのチェーンをして駐車スペースを閉めていた。
(あぁ…)
まあ仕方ない。怒ることではない。父に言って車をずらしてもらえばいいだけだ。
父に言った。
「しもたーごめんごめん!最近こんなことばっかりで…」
父は昔から不注意だ。さらに輪をかけて、加齢に伴い不注意が増えたのかして、母との二人暮らしの中でいろんなミスがあるようで。
そのことに落ち込むことも増えていた。
父の認知症を疑う母。
実際、そういうケースは一般的にも多いと思う。
物忘れが増えた
どんくさい失敗が増えた
…などなど
でもそれらがすなわち認知症ということではない。
ただの物忘れか認知症の症状かの見分け方のひとつが、
「自覚があるかどうか」。
うちの父は、正直どっちか分からない…
そもそもの不注意な性質に症状がマスクされている。
でもいいのだ。
今のところ父は認知症と診断されてるわけではない。
認知症だろうが軽度認知機能障害(MCI)だろうが加齢に伴う不注意だろうがただの不注意だろうが、父は父だ。
「しもたーごめんごめん!最近こんなことばっかりで…」
軽く落ち込みながら父が一旦駐車スペースから車を出し、僕の車がいない側に少し進んで止まる。
さぁ僕が車を先に駐車スペースに入れようかとするが、父が思ったほど進んでない。僕がバックで切り返すに十分なところまで進んでない。
…と思うや否や父が急にバックしてくる。
ゴツン…
鈍い音がして、父の車の後部と僕の車のフロントが接触したことが分かる。
「おぉーーい!」
父は当たったことに気付いてない。
もう一度前に少し進み切り返し、再度バックランプが点灯。
父がバックしてくる。
ゴツン…
同じところに鈍い音がする。
「おぉーーーい!」
僕は僕で、クラクションを鳴らして知らせたらいいんだけど、それは後から思いついたこと。その場では
「おぉーーーい!」
これしか言えない。
そして密閉した車内で叫んでも、同じく密閉した別の車内にいる父には届かない。
咄嗟の時、クラクションを鳴らすことも思い付かなければ自分が少しバックすることも思い付かず、ましてすぐに車を降りて声を掛けに行くという行動に体が至らない。体が止まる。体感で10秒ぐらい思考と体が止まっていた。
やっと車から降りる選択を思いついた僕は、すぐに父の車の後ろに躍り出て両手で制止のジェスチャー。
父が慌てて出てくる。
「見えてへんかったん?!」
僕が声を荒げる。
既に落ち込んでいた父がさらに落ち込む。
僕のイメージでは、父が駐車スペースから出た後、僕が先にスペースの端にバックで入れてから、父に残りのスペースに入れてもらう予定だった。
しかし父は、先に自分がバックで端に詰め直してから僕が後から入れるというイメージだったよう。
「俺先に入れるからちょっと前に場所空けてくれる?」
か、
「待っとくから先に入れてくれる?」
いずれかひとことが事前に言えていれば回避できた。
「しもたーごめんごめん!最近こんなことばっかりで…」と父が行動に移そうとした後に、事前の意思疎通をお互いしていなかったために起きた接触事故。
声を荒げたものの、よく考えたら僕も悪い。
自分だけのだいぶ強い思い込みの下で行動した結果、招いた「ゴツン…」…
父も自分が先に入れるものと思い込んでいた訳だけど、不注意と思い込みの強さは僕も負けていない。やばい。
父は父だし僕は僕。
親子の性質はこれまで変わることはなかったしこれからもたぶん変わらないと思う。どうしたって親子だ。
別にいい。いいのだ。
車は鈍い音がした割にちょっと塗装をこすった程度の被害。
両親の車もうちの家族の車もすでにいくつかボコったりこすったりしてるから、大した被害ではない。
父はだいぶ落ち込んで反省していた。
僕もある程度悪いなとは思ったけど、父ほど反省はしてないかな。
反省せえ。
…まぁ、これでいいんだ。
後ろに気付かずバックしてきた父にはびっくりしたけど、落ち込んでる人にこれ以上何も言うことはない。
父も母もこれからどう身体機能や認知機能が変化していくかは分からないけど、
でも
おかげさまで父も母も幸せそうにしている。
そんな元日の正午過ぎ。
今年もよろしくお願い申し上げます。
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