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今日の晩めし、かっちゃんと食べるから、よろしく。 あ、たぶん飲みもね。 ダンナのありがたい通告に、わたしは「はーい」と返事をする。さっそくみきこさんへメールする。 晩ごはん、どこかへ食べに行かない? トイレへ行き、コーヒーを飲み、掃除機をかけて、もう一杯コーヒーを飲んだ。 卓球のレシーブのごとくのみきこさんの返信が……こない。スマホはマナーモードにはなっていないし、メールの受信音量もマックス手前の大きさだ。 みきこさん、なにがあった? というか、こういう日も
デパートの紙袋から、なおみさんはまず白ワインのハーフボトルを出した。それから、あれやこれやとお惣菜が並ぶ。 「手間をかけずに、このまま食べよう」 お惣菜のパックの蓋を開けていく。 レタスと水菜のビーンズサラダ、スモークサーモンを乗っけたポテトサラダ、里芋とイカの煮物、大根の煮物、ローストビーフは二枚、イワシの南蛮漬けのイワシも二尾、漬物。塩むすびがふたつ。割り箸。合宿みたいだ。 「なんだか緑が足りないわね」 なおみさんはもうひとつ包み紙を開いて、ふっくら厚みのあるグラ
音もなく現れた戦車が、コロッセオの観客席を破壊しながらアリーナへ降りてくる。 戦車は観客席と同じ傾斜で下を向き、主砲をアリーナとの水平にもたげた。 砲口の丸い闇がわたしをとらえて、グラデーションの渦をつくりながら広がっていく。 崩壊しているアリーナの床は崩れ続け、地下の檻は朽ちて、飢えた雌ライオンがうろついている。 一頭のライオンがわたしを見て、鼻筋に皺を深く寄せて唸った。それを合図に雌ライオンたちがいっせいにわたしに向かってくる。 これは夢だ。だってこんなに寒い
秋が終わっていく。 落葉樹の葉っぱは風がなくてもはらりと落ちる。やさしい風が吹けばはらはら散る。遠慮のない風なら、さあ果てるぞとばかりに葉っぱは遠慮なく風にのる。 畳一畳ほどのベランダは落ち葉が重なりあって、二〇リットルの燃えるゴミ用ゴミ袋はたちまちいっぱいになった。 小寒い昼さがり、半袖のTシャツで汗をかきながら、六つ目のゴミ袋の口を縛った。毎年秋に一度、ベランダの落ち葉掃除は暗黙の約束。 「お世話をかけて申しわけありません」 きくえさんはベッドに腰かけたまま、他