うつくしい人

うつくしい人/西加奈子


常に他人の目を気にして生活している主人公が仕事を辞めて、誰も知り合いがいない島に一人旅に出かける。泊まったホテルで、本が好きな40代のバーテンダー、坂崎と、大金持ちのドイツ人旅行者マティアスと出会う。

作者自身があとがきで書いてるように、序盤の主人公は常に他人からどう見られているかを気にして自意識に押し潰されそうになっていて、読んでいて辛かったし、嫌な奴だと思った。他人の価値基準に沿って行動する主人公を哀れに思うのと同時に、自分も同じように考える時があると思った。

坂崎とマティアスが魅力的で、他人を気にする百合とは正反対の存在だった。うつくしい人とはどんな人か?それはきっと坂崎やマティアスのように、他人を気にせず、純粋に自分のしたいことをしている時のその人なんじゃないかと思った。

ドストエフスキーが白痴を作る時に、無条件に美しい人間を書こうと思ったっていうのも、そういう人物のことだろうか?と考えたりした。


好きな文

『 「そう、とてもうつくしい人なの、姉は。マティアスも、美しい人です、とても。」

言ってから、自分の胸に耳を澄ませた。何か反論が聞こえるかと思ったが、そこは、しんとしていた。ホテルの前に繋がる海のような、静かさだった。「私」は、満足していた。 』

自分で発言したのに何だかしっくりこない時がある。その時の感情を正確に説明できていないように感じる時がある。今、言ったことは本心か?と確認したくなる時がある。そんな時は自分の声をもう一度聞いてみる。主人公も自分が言ったことに少し恥ずかしく思って、それが本心かどうか確かめたかったんだと思う。

他人の目を意識して、その範囲内で行動できているか常に問い続けてきた主人公が、やっと本心と自分の行動を一致させられた瞬間だと思う。だから彼女はそんな自分に満足したんだと思った。


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