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光、乱視、並木道にて。


視力0.05、乱視持ちの超弩級近眼なので、外に出る時はコンタクトか眼鏡が不可欠である。
遺伝的に目が悪くなりやすいのに日常生活で眼に気を使うことを全くせず過重労働を強いているので、ここ数年悪化の一途を辿っている。昔はなるべく遠くを見るようにしたり、テレビを見る時は部屋を明るくして離れて見たり現状に抗おうとしていたが、今は0.05が0.005になろうが0.0005になろうがもう今更変わらないと悟り、無敵になった。しかしコンタクトレンズにも限界があるので遠くに見える可愛いあの子を我が愛眼で精密に捉えることができず悔しい思いをする時もある。

普段は外出する時はコンタクトを付けるのだが、昨日は寝不足で付けるのが億劫になり眼鏡で外出した。
行きつけのスタバでお絵描きした後、猛烈に丸亀製麺が食べたくなったので、灼熱のコンクリートアイランドを15分ほど歩くことにした。
普段は矯正した仮の景色しか見ておらず、本当の世界を知らない我が愛眼を不憫に思って、眼鏡をとって裸眼で町を歩いた。

裸眼で見る景色は全てがぼやけきっていて、ものの輪郭が消え去る。
これは人。これは車。これはビル。と勝手に区別して僕に無理やり識別させてきた眼が仕事を放棄して、この世界が俺か俺以外かの2つだけになった。脳に入ってくる情報が格段に減り、思考がクリアになった気がした。
ただ、真夏の煌々とした光が何にも遮られることなく眼を突き刺すので、眼が痛い!
あとシンプルに見えないので道に迷いそうだなと思っていると、並木道に出た。

ところで、僕以外の人間が裸眼でどう見えているのかは知らないが、僕は裸眼だと、光が何重にも重なって見える。満月を裸眼で見ると、まん丸の光が幾重にも折り重なって、スーパームーンを凌駕するハイパームーンになる。

信号だとこんな感じ


そんな眼で緑の生い茂った木を見ると、葉の隙間から差し込む小さな無数の木漏れ日が幾重にも重なって、一つ一つが光輝く球体に見えた。

木の大枠しか捉えられないぼやけた視界で、煌めく宝石が木々にいくつもなっていてイルミネーションみたく輝き、風に靡かれてキラキラと瞬く。

近眼歴20年弱にして初めて見る光景は、感動しそうになるほど綺麗で、人々が忙しなく行き来する中僕は思わず立ち止まってしばらく見惚れていた。


この景色は、眼を酷使せずに大切に扱ってきた温室育ちの視界良好野郎には決して見ることができないもので、散々眼を粗雑に扱ってきた歴戦の猛者だけが独占することができるものだった。

視界良好野郎の君たちにも特別に見せてやろう
実際はこの何十倍も綺麗だったけどね


僕はこの日初めて視力0.05の愛眼を誇らしく思った。


世界の秘密を僕だけが知ることができた気がして、上機嫌にスキップしながら並木道を抜けた。



丸亀製麺は臨時休業だった。






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