7月の推奨香木は、御家流の佐曾羅「赤栴檀」♪

画像1

(賢章院愛蔵の佐曾羅『狭衣』。赤栴檀と思われる。勅銘香とされるが詳細は不明。賢章院は島津斉彬の実母。1792年~1824年。)

6月26日に一回目のワクチンを接種して戴き、副反応らしきものは自覚しないまま数日を経たのですが、よく考えると実は連日のように倦怠感に襲われて、幾ら眠っても眠り足りないような状態で、自堕落な生活を送ってしまいました。
その結果、椿山荘での名香鑑賞会について続編を投稿することも出来ず、30日に開催できた聞香会に関しても、まだ報告できていない状態です。

名香鑑賞会のメニューは、欲張って9種を炷き出す予定を立てていました。
料亭「錦水」の特別料理(ディナー)付きとあって参加費が超高額になり、せめて沢山の香木を味わって戴きたいと考えたからです。
中間となる5炷目には、鼻休めの意味もあって赤栴檀を炷く予定でしたが、進行状況に鑑みて、とてもその余裕が無いと判断し、『狭衣(さごろも)』は断念させて戴きました。

その後、4月に開催予定で延期を已む無くさせられた佐曾羅の聞香会を30日に開催するに際しメニューを再検討していたところ、先日に断念した勅銘香『狭衣』を急遽加えようと思い付きました。
当日は、名香鑑賞会にご参加下さった方々も複数お越し下さることが判ったことが第一の理由でした。
第二には、御家流の皆さまにとって、江戸時代に佐曾羅として用いられていた香木が如何なるものだったか、実際に聞いていただければ有意義だろうと考えたこともあります。
(賢章院愛蔵の香木のうち、佐曾羅は、インド産白檀又は赤栴檀のいずれかのようです。)

さて、赤栴檀とは一体どのような香木なのか、詳しくは判明していません。
(少なくとも香雅堂においては正確な知識を有していませんので、ご存じの方がおられましたらご教示願いたく、よろしくお願い申し上げます。)
ただ、「赤い栴檀」すなわちインド産白檀の赤色が強い心材部分とは明らかに異なりますし、御家流の佐曾羅として販売されていたことがあるマメ科の紅木の類とも全くの別種であることは間違いないと考えています。

では、『狭衣』を赤栴檀と断定している根拠が何処にあるかと申しますと、複数所持する名香『赤栴檀』や、香銘としてではなく赤栴檀と記載されている香包に収められている香木の「顔」や香気とを精査し、それらと比較して「同種の香木である」と判断しているということになります。
先ほどの写真に写っている香木片は小さいものですが、それでも木肌の色目や木目の通り方は他の赤栴檀のそれと極めて似通っています。

他の木所と違って赤栴檀は樹種も産地も不明ですから、欲しいと思っても、入手する手段が判りません。
そこで、香木鑑定に持ち込まれる様々なケースの中から奇跡的に見つけることが出来た場合に、お願いして譲り受けることになります。
極めて稀な経験ですが、過去に数度、めぐり逢いを果たせたことがありました。
一例として既にオンラインショップで紹介済みの赤栴檀が『仮銘 あから橘』です。
酸味よりはキリっと男性的に力強く立つ辛味に特徴が著しい香木で、御家流の佐曾羅として、インド産白檀とは全く異なる持ち味が特徴的です。

7月の推奨香木に選んだのは、『仮銘 あから橘』とは対照的に、比較的に穏やかな立ち方がほのぼのとして長閑な風情を感じさせてくれる赤栴檀です。
個人的な印象ですが、赤栴檀のタイプとしては『狭衣』と非常によく似ていると好ましく感じています。

春の曙①

春の曙②

春の曙③

こうして見ると、インド産白檀の赤みが強いタイプと似ているようですが、木肌の色味も質感も、かなり異なります。

春の曙④

年輪のでき方も、インド産白檀とは明らかに異なっています。

幸いにして或る程度の大きさに恵まれた塊でもあり、御家流の皆さま方には「白檀じゃない佐曾羅」として大いに活用して戴ければと願って、お奨め申し上げます。
以下の和歌から仮銘を採らせて戴き『春の曙』とさせて戴きました。

またや見ん交野の御野の桜がり花の雪ちる春の曙
                  (藤原俊成)(新古今和歌集)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?