4月の推奨香木について

長い間の懸案事項であった香木整理を漸く始めてみたところ、皆さまにお奨めしたい優品が次々に現れています。
それらは、まだ香木資源が枯渇の危機を迎える遥か以前、香港やシンガポールの専門商社を相手に潤沢な取引が可能であった時代(主に昭和時代)に輸入されたものが大半を占めています。
豊富なロットから選び抜かれた上質の聞香用香木たちは、基本的に香道での使用を前提として取捨選択されていますから、当然ながら「木所の特徴を出せる」という条件に合致するものが殆んどです。
そしてまた、それら上質な香木たちは樹脂化に費やした歳月が永いためか雑味を感じさせず、品位の高さを誇るものが多く見られます。

上質な香木に出会える機会が極めて限定的になってしまった現代において、例え少量ずつでも出来る限り多くの愛好者の皆さまに分木させていただき、自然の恵みを堪能する喜びを共有したいとの志で始めた推奨香木の案内ですが、事務的な対応能力の不足もあり、なかなか一度に複数の種類を紹介することが出来ません。
今回は、検討の末、沈香の佐曾羅『仮銘 さゆりば』に決めました。

さゆりば②

以下、推奨するに至った背景と理由とをまとめてみます。

志野流香道においてはジンチョウゲ科アキラリア属の香木すなわち沈水香木(以下、沈香)しか使われませんから、佐曾羅も寸門陀羅も当然ながら沈香です。
一方で御家流の系統においては佐曾羅にはインド産白檀や赤栴檀、寸門陀羅には黄熟香が用いられることが一般的なようです。
つまり御家流の系統では沈香の佐曾羅・寸門陀羅は未知の香木と言えます。殊更に「沈の佐曾羅」とか「沈の寸門陀羅」と断りを入れて用いられる稀なケース以外には、お稽古や香席で沈香の佐曾羅・寸門陀羅を聞くことは皆無の筈なのです。

ところが、近年に見受けられる傾向として、沈香の佐曾羅が御家流系の香席で真南蛮として用いられる例が散見されます。
昔からの知見では、沈香の佐曾羅・寸門陀羅はいずれもインドネシア産で、特に上質のものはボルネオ島のインドネシア領(カリマンタン)に産出するとされています。
それに対して真南蛮・真那賀は、タイ産の沈香から選び出されて来ました。
同じく沈香であっても、タイ産とインドネシア産とでは種が異なると推察できますから、香気の特徴も異なる筈です。

では、なぜ沈香の佐曾羅が真南蛮として用いられるのでしょうか?
理由の一つは、「タイ産の沈香が益々稀少になり、上質な香木が入手困難に陥ってしまった一方で、インドネシア産の沈香は昔から輸入量が多く、まだ上質なものが残っているであろうこと」と言えます。
もう一つの理由として、「鹹味(しおはゆみ)が共通して感じられるため、紛らわしい場合がある」ということが挙げられます。

『仮銘 さゆりば』は、立ち始めの一瞬に涼やかな風が吹くのを感じられるのですが、そのいかにも佐曾羅らしい特有の香気と僅かな酸味は程なく意外な甘味に押されて、円やかな落ち着きを感じさせます。
そして中盤から火末にかけては鹹・甘・辛が微妙に絡み合い、まるで「癖のない真南蛮」のようにも聞こえるのです(但し佐曾羅特有の「匂いの筋」は具えています。立ち方は火加減によって異なりますので一概には申し上げられませんが…)。

いかにも佐曾羅らしい佐曾羅、すなわち典型的なカリマンタンの沈香としては『仮銘 あをば』等が既に推奨済みですので、今回は敢えて佐曾羅らしくない佐曾羅を選んでみました。
(塊の外見もまるでタイ産の沈香のようで、炷いてみるまでは真那賀か真南蛮だろうと想像していました。)
証歌は次の通りです。

「涼しやと風のたよりを尋ぬればしげみになびく野べのさゆりば」
                    (式子内親王)(風雅和歌集)


なお今回は長さ約8㎜及び約5㎜に截香してあります。
お好みに近い寸法をご指定いただきましたら、なるべく合わせるよう心掛けます。






















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