聞香会「五味シリーズ」開始しました♩

香道が芸道として成立する上で欠かすことができない概念に、「六国五味」があります。
香道家に連綿と継承される規範の中核をなす「六国」及び「五味」の実際は秘伝・口伝として門弟に対して大切に伝授されるものと心得ます。

一方で、聞香用の香木を取り扱わせていただく香雅堂としましては、香木の専門家としての立場から御家元・御宗家の薫陶を得る体験を通じて、香道家の意に副う判断を下せるように僭越ながら努めています。

そんな中、昨年度は聞香会「六国シリーズ」を開催し、香木愛好者の皆さまと木所ごとに複数の香木を聞き比べることによって「六国(木所)」の概念を深く考察して、高い評価を頂戴しました。
(本シリーズは再開してシーズン2を開催する予定ですので、どうぞご参加下さいます様、お奨め申し上げます)

「六国」の次は「五味」ですが、「味覚及び味覚に伴って感じられる匂いの感覚」を考察することは至難の業に思えて、なかなか実行に移せないでいました。
十人十色・千差万別な匂いの感覚を複数の参加者と共有することは、果たして可能なのか?という疑問に対する回答が、容易に得られなかったのです。
最終的に唯一の解決策として採り上げることになったのは、「手本木(手鑑)を炷き出す」という、所有者の立場としてはかなり大胆な発想でした。

手本木とは『古五味名香』のことで、その昔、米川常白が選定したと伝わる名香十種を指します。
選定当時の十種を僅かずつながら所持しているのですが、大事に保管するだけでは或る意味では勿体ないと考えました。
密かに愛蔵するより、希望される香木愛好者の皆さまと香気を共有できることを愉しもうと決断したのです。
これには次代を担う(すでに担ってくれていますが)香雅堂代表も賛同してくれましたので、思い切って截香しました。

古五味名香の詳細は改めて触れたいと思いますが、記念すべき「五味シリーズ」の初回は、以下のようなメニューで実施しました。

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聞香会~香木三昧のつどい~五味シリーズ㈠
「さまざまな甘を聞き比べる」メニュー(予定)

一.先鉾(古五味名香)(伽羅)

二.浅間(古五味名香)(伽羅)

三.仮銘 東雲(緑油伽羅)
梅が香は枕にみちてうぐひすの声よりあくる窓のしののめ
                          (前大納言為兼)
四.仮銘 夕づくよ(羅国)
ながむれば木のまうつろふ夕づくよやや気色だつ秋の空かな
                           (式子内親王)
五.仮銘 雲ゐの花(真那賀)
いにしへの春にもかへる心かな雲ゐの花にものわすれせで
                           (二條院讃岐)
六.仮銘 花のあたり(真南蛮)
風薫る花のあたりに来てみれば雲もまがはずみ吉野の山
                           (二條院讃岐)
七.仮銘 桜色(佐曾羅)(沈香)
桜色に衣はふかく染めて着む花の散りなむのちのかたみに
                            (紀 有朋)

(注)古五味名香は分木の対象外となりますので、聞香会セットには
   入っておりません。ご諒承のほどお願い申し上げます。

        日時 令和四年四月二十七日
           午前十一時~十二時三十分、午後二時~三時三十分
        場所 麻布香雅堂 守拙庵

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参加者から早速にご感想を頂戴していますので以下に転記させて戴きますが、個人的には、思い切って名香を炷き出して良かったと心から感じることが出来ました。
新たに截香した数百年前の伽羅は切断面から樹脂分が滲み出すかのごとき粘り気を感じさせ、加熱するや、炷き初めに若干の蔵匂いを放つものの実に力強く香気を解き放ち、「甘」は勿論のこと他の味も複雑に絡み合って、時間の経過とともに誠に鑑賞に堪える味わい深さを醸し出してくれました。
その香気は、驚くべきことに加熱が継続する間、絶え間なく放たれて、改めて名香の凄さに感じ入った次第です。

「五味シリーズ」の有意義さに確信が得られましたので、可能な限り、シーズン2以降も開催したいと思います。
今回の機会を逃された皆さま、ぜひ次回にご期待下さいませ。
以下、ご感想の一例です。ご連絡ありがとうございます。

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本日は「さまさまな甘を聞き比べる」の会に参加させて頂き、ありがとうございました。

「先鉾」は古木らしい落ち着いた品の良い香りでした。「砂糖ではなく、和三盆の甘味」という例えがまさに当てはまる気がしました。

「浅間」は貫禄のある典型的な伽羅で、伽羅の手本木と呼びたいほどでした。

「東雲」はしっかりとした緑油伽羅で、甘さよりは力強さを感じました。

「夕づくよ」からは熱帯に咲くジャスミンの花の香を感じました。南の国を旅行中に、朝、開けた窓から入ってきた風を感じて目覚めた時のような幸せに浸れました。

「雲ゐの花」は「水のような」と形容される真那賀とは異なる重厚な香りで、沈香の甘さを感じました。

「花のあたり」は癖がなく、品の良い真南蛮でした。

「桜色」私は御家流なので、これは絶対に佐曽羅とは聞き分けられないと思いました。白檀の佐曽羅も好きですが、白檀より沈香の佐曽羅の方が深みがあって面白いように感じました。

たくさんの至福の香りを聞けて幸せでした。

昔の人は香りを分かりやすく分類しようと五味に当てはめたのだと思いますが、やはり甘さにもいろいろあり、一種類ではありません。
大多数の人が「甘」と感じる最大公約数を取ろうと努めたのでしょうが、一つには絞りきれなかったはずです。
枠に収まらないものが多かったのではないかと感じました。

興味深い会を催して頂き、ありがとうございました。

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