1月の推奨香木は「初春を寿ぐに相応しい、典型的な緑油伽羅」

現代では入手困難となった上質の香木、殊に木所の特徴を明瞭に具える昔ながらの古木(昭和時代以前に渡来したと思われる香木を指す表現として使用しています)を適宜に案内させていただく「推奨香木シリーズ」は、毎回、多くの愛好者様から大きな反響を頂戴しており、当方としましても、稀少な香木を分木する甲斐があると喜んでいます。

新しい年の初めの推奨香木は、ウイルスの脅威を吹き飛ばすような力強さを秘める堂々とした ‟伽羅らしい伽羅” を選ぶことに決めました。
いわゆる「緑油伽羅」です。

以前に紹介した『仮銘 東雲』(既に完売となっています)も素敵な緑油伽羅でしたが、その立ち方は、証歌から想像されるように「寝床から障子を隔てた梅の枝を訪れた鶯の声で目覚める」といった長閑な風情を感じさせる、どちらかと言えば穏やかで柔和なタイプでした。
また『仮銘 いづる日』(黒油)や『仮銘 にごらぬ波』(紫油)もいずれ劣らぬ最上質の伽羅ですが、炷き始めの印象は、圧倒的な存在感というよりは先ず気高さ・品位の高さを感じさせてくれますし、『仮銘 軒端の花』(黒油)は特有の華やかさが印象的で、『仮銘 風の梅が香』は典型的な黄油伽羅として個性的な辛味を持続的に放ってくれる稀少なタイプと言えます。

それらに比べて今回の緑油伽羅は、立ち始めの力強さがより一層印象的に感じられます。
個人的なイメージですが、ドアを開けたらいきなりド~ンと満開の梅林に迷い込んだような、馥郁とした香気に圧倒される感覚です。

仮銘 こり咲く梅①

顔(外見の雰囲気)は茶色っぽく見えますが樹脂分を緻密に蓄えた組織は柔らかさと滑らかさに富み、鋸で挽くのが恐らく数十年ぶりと思われるにも拘らず、断面からは溶け出した樹脂分が滲み出します。

仮銘 こり咲く梅②

常温でも高貴で芳醇な香気を放ち、その様は、あたかも正月の内裏の庭に寄り集まって咲き誇る紅梅・白梅の辺りを逍遥するかのような、夢の世界に誘ってくれます。
そこで、次の証歌より『仮銘 こり咲く梅』と名付けました。

色も香も千代までにほへ百敷やこり(凝り)さく梅は今さかりなり   
               (冷泉入道前右大臣)(新葉集巻二十賀)

伽羅の持ち味である上品でありながら力強い「苦」が大らかな「甘」や「辛」・「酸」などと絶妙に調和を取って気高く放つ様をどうぞご堪能下さいます様、推奨申し上げます。

(ご参考までに約4㎜×約3㎜の欠片に截香し、0.22g分を計量してみました)

仮銘 こり咲く梅③


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