2月の推奨香木は、久々の黄熟香です♪

あまぎる霞①

『仮銘 あまぎる霞』

その昔、御家流桂雪会の熊坂様から「寸門陀羅に使える香木を探して!」と見本をお預かりしたり、柿園会の岩波様から代表的な例として歴史的な銘香『苧環(おだまき)』を見せていただいたりしたことが、御家流香道に用いられる寸門陀羅の正体がインドネシアに産出する黄熟香に他ならないということを突き止めたきっかけになったことは、確か『香木三昧』で触れさせて戴きました。

分木させていただいている推奨香木の中には『仮銘 子の節(このよ)』があり、数ある黄熟香のタイプの中にあって比較的に上品で優しい立ち方が特長ゆえ、ご好評を頂戴しています。
火加減が程よく合うと、実に好ましい香気を放ってくれますから、香道体験講座などで初体験の方々を対象として実施する組香に用いたりしますと、多くの方が伽羅との違いを聞き分けられなかったりして、却って反省させられることが度々あります。

そう言えば、近年は新型コロナウイルス騒動も影響して実施が中断していますが、かつては毎年12月に東京都立葛飾盲学校からお招きを頂戴して、聞香体験の授業を担当させて戴いていました。
生徒の皆さんは例外なく視力に障害を抱えておられますが、もしかしたら、その分、嗅覚など他の器官が発達されているかも知れないと思えるほどに、聞香体験の感想は生き生きとして直截的で魅力的に感じました。
そんな皆さんの一番人気の香木は、なんと伽羅を抑えて圧倒的に『仮銘 子の節』でした。それも数年連続で、です。

葛飾盲学校(中村さん)

写真は、『仮銘 子の節』の塊に触れていただき、感触や、常温での香気を確かめていただいているところです。このNさんは黄熟香の大ファンでした。

先ほど「数ある黄熟香のタイプ」と書きましたが、その昔インドネシアで採集して貰った黄熟香には、様々なタイプがありました。
黒く見えるタイプ、赤銅色に見えるタイプ、黄色味を帯びたタイプ、茶褐色に見えるタイプ…正倉院の蘭奢待と同じように見えるタイプもありました。

どのタイプの黄熟香も共通した「匂いの筋」を持っていますが、もちろん特徴の違いは見受けられます。
今回は『仮銘 子の節』とは異なる立ち方をする…どちらかと言えば組香向きの黄熟香を推奨いたします。

あまぎる霞②

組織は緻密で堅く、鋸で挽くのに苦労します。その大変さは、紫檀についで堅いと言われる「青黒檀を挽く場合と同じくらい」と例えても大げさではないほどです。

あまぎる霞③

木目に沿って割った断面をルーペで拡大して見ると、黄熟香特有のキラキラしたオイル分の輝きが確認できます。

『仮銘 子の節』と比較しますと、より安定して黄熟香らしさを出し続けるところに特徴があると言えます。
常温でも香気の揮発性が高いようで、収納している袋を開けると、強い芳香が辺りを包むように広がります。
そんな様子から、次の和歌を証歌として『仮銘 あまぎる霞』と名付けました。

花の色にあまぎる霞立ちまよひ空さへ匂ふ山櫻かな
                  (権大納言長家)(新古今和歌集)


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