7月の聞香会(伽羅)を終えて

7月28日に、新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めが掛からない状況下、参加者数を定員の約半数に減らした上で感染防止策を徹底し、予定通りに伽羅の聞香会を開催できました。
他の木所に比べてより一層ご希望者が多かった中、ご参加下さった皆様方はいずれ劣らぬ香木好きで、午前・午後ともに、とても充実した集いとなりました。

お聞かせしたい伽羅は様々あり、それらの中から数種を選び出すのに苦労しました。
あまり迷ってもきりがないので、また別途に改めて伽羅の会を企画すれば良いと思い切って、次の通りにメニューを決めました。

1.仮銘 波路の舟(鉄油伽羅)
  かすみゆく波路の舟もほのかなりまつらが沖の春の曙(伏見院)
2.仮銘 いづる日(黒油伽羅)
  いづる日に春のひかりはあらはれて年たちかへるあまのかぐ山
                         (後村上院)
3.仮銘 にごらぬ波(紫油伽羅)
  てらし見よみもすそ川に澄む月もにごらぬ波の底の心を
                        (後醍醐天皇)
4.仮銘 月待つ空(緑油伽羅)
  山の端の月待つ空のにほふより花に染むくる春のともし火
                       (前中納言定家)
5.仮銘 風の梅が香(黄油伽羅)
  大空をおほはん袖につつむともあまるばかりの風の梅が香
                         (後水尾院)
6.仮銘 月の影(縮油伽羅)
  天の戸をおしあけがたの雲間より神代の月の影ぞ残れる
                         (九条良経)

波路の舟①

『仮銘 波路の舟』は「穏やかで、伽羅らしくない伽羅」と紹介したことがありましたが、聞香会では炷き始めから伽羅らしい苦味が出て、驚きました。
恐らく、当日の湿度が80%を超えており、部屋はエアコンを稼働させていたにもかかわらず常に換気をおこなっていたため、室内の湿度が高かったことが大きな要因かと思います。
同様に『仮銘 いづる日』も『仮銘 にごらぬ波』も存分に個性を発揮してくれました。

いづる日①

『仮銘 いづる日』(黒油伽羅)

にごらぬ波①

『仮銘 にごらぬ波』(紫油伽羅)

さて今回の目玉の一つとして初登場させたのが、『仮銘 月待つ空』でした。

月待つ空①

この香木が予想以上に高い評価を頂戴したことから、8月の推奨香木として紹介させていただくことに決めましたので、詳細は次回に投稿いたします。

最上質の伽羅を立て続けに炷き出したこともあり、皆さま少しお疲れの様子が見えましたので、途中で赤栴檀『仮銘 春の曙』を取りに席を外して、「鼻休め」として炷きました。
赤栴檀に特有の辛味や鼻腔に抜けるような爽やかな刺激は、伽羅の香気に満ち溢れた喉の奥を、リフレッシュさせてくれたものと思います。

続いて典型的な黄油伽羅の一例『仮銘 風の梅が香』を炷き出しました。

風の梅が香①

風の梅が香②

最上質の黄油伽羅が醸し出す上質な辛味を、皆さまに堪能していただけたと喜んでいます。
そして最後に選んだのは、存じ上げる限り最も稀有なタイプで類例が無い稀少な「縮油伽羅」でした。

月の影①

月の影②

歴史的名香の『縮(ちぢみ)』は文字通り木目が縮れていることからの付銘だったと推察されますが、この「縮油」とは、「圧縮されている」という意味ではないかと想像しています。
まるで地殻変動のような大きな力で圧し潰されたかのように、堅いのです。
それでいて樹脂分は豊富に含まれており、加熱した際の香気の持続力は通常の最上質伽羅を上回るほどです。
(「頼政所持の伽羅の『蘭奢待』と雰囲気が似ている」とのお言葉を頂戴し、光栄に存じ上げた次第ですが、秘めている味のバランスが、至高の名香のそれには及ばないと思っています)
僅かしか残っていないため推奨香木として紹介することが叶わないかと思いますが、「聞香会セット」には2炷分を入れてありますので、この機会に、ぜひお求め戴ければと思います。
(いずれ改めて伽羅の聞香会を企画する際には必ず最後に炷き出したいと考えています)

末文になりますが、ご感想を頂戴していますので、一部を抜粋して紹介させて戴きます。
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本当にバランスよく様々な伽羅を聞かせて頂き、まさに至福の時間でした。
黒油、紫油、緑油等、外見が異なるだけではなく、香りや引き粉にもそれぞれの特徴があるとのこと。
伽羅を生む樹も、やはり一種類だけではなく、黒油の伽羅を生む樹、紫油の伽羅を生む樹、緑油の伽羅を生む樹等々、さまざまな種類があるのかしら、と考えました。

今までは単に「良い香り」としか感じていなかった伽羅の香について、様々な知識や情報を与えて頂き、多面的にとらえられるようになったことを、とてもうれしく感じています。

人工栽培の伽羅も聞かせて頂き、ありがとうございました。
この伽羅については、他所では情報を得られないので、今後の進展を含め、本当に興味津々で楽しみにしています。

赤栴檀も他所では聞けない木ですね。鼻休めとして最適な香りでした。

もっときちんとした感想を、と思いましたが、あまりに良い香りに満たされ、ぼおっとして言葉を失いました。本日参加出来て、ただただ幸せでした。
本当にありがとうございました。

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