令和2年司法試験論文行政法答案例

こんばんは、井上絵理子です。ちょっと量多くないかこれ…2時間ギリギリやった。あと農!もう当分「農」の字見たくない。

第1 設問1(1)について
1 本件計画の変更の処分性
(1) 農用地利用計画の法的性格
ア 農用地利用計画の設定が区域内の農地所有者の権利義務に及ぼす影響
ア) 農用地利用計画は農振法8条4項、同法8条2項1号に定められている。この計画が設定されると、区域内の農地につき農地法に基づき農地転用の許可(農地法4条1項柱書)を受けることができない(農地法4条6項1号イ)。農振法17条も、都道府県知事は農地利用計画において指定された用途以外の用途に供されないようにしなければならないとし、農地転用の制限について定めている。
 また、農地利用計画区域内においては、開発行為をするためには都道府県知事の許可が必要とされている(農振法15条の2)。
イ) さらに、市町村長から、その土地が農地利用計画において指定された用歴に腐れていない場合には土地利用について勧告を受け(農振法14条1項)、この勧告に従わなければ市町村長の指定を受けた者とその土地についての所有権の移転又は使用収益を目的とする権利の設定について協議するよう勧告されることになる(農振法14条2項)。この農振法14条2項の勧告に従わない場合には、その協議に係る所有権の移転又は使用収益を目的とする権利の設定又は移転につき必要な調停がされることとなりうる(農振法15条1項、2項)。
イ 都市計画法上の用途地域の指定についての判例
 同判例は、都市計画法上の用途地域の指定がされた段階ではその地域内の国民に対して一般的抽象的法効果しか生じないことをもって、同指定の処分性を否定する。用途地域が指定された区域では、開発行為が許可制になり、建築基準法に基づき建築制限が課されることになる。しかしこれらは、実際に開発行為を行い、又は建築確認をする際に具体的に問題となるのであって、ただ用途地域が指定された段階では紛争が成熟しているとはいえない。
ウ 農地利用計画の性質及び規制の程度
 アア)で述べた通り、農地利用計画においても農地転用の制限及び開発行為が許可制になるという制限が課せられている。この法効果のみをとらえれば、用途地域と同じく処分性が認められないということになりそうである。
 しかし、イ)で述べたように、農地利用計画が設定されれば、土地所有者は農地利用計画において指定された用歴に基づき土地を利用しなければならない。そうしなければ、最終的に他人に対して土地の使用収益権限を与えるか、所有権を移転させる協議をしなければいけなくなる。そうだとすれば、農地利用計画の設定は土地所有権者に対し、単なる建築制限以上の、土地利用制限を課すものであるといえる。
(2)農地利用計画変更の処分性
ア 農地利用計画の変更段階での抗告訴訟による救済の必要性
 確かに、農地利用計画が設定されていたとしても、農地転用許可を申請し、拒否処分がされたことに対する取消訴訟等で農地利用計画の変更をしないことについての違法性を主張すればよい。農地利用計画が設定され、変更がされていない段階ではまだ紛争は成熟しておらず、農地利用計画の変更につき処分性を認める必要はないとも思える。
 しかし、(1)アイ)で述べた勧告及び調停は農地利用計画が設定されているだけでなされうるものであり、これらの行政の行為につき争うにはその前提となる農地利用計画の変更につき抗告訴訟で争えるようにするのがもっとも権利救済に資するといえる。
イ 結論
 農地利用計画の変更には都市計画法上の用途地域の指定と異なる、強度の土地利用制限が認められ、かつそれを争うには農地利用計画の変更それ自体を争うのがもっとも適当であるから、農地利用計画の変更には処分性が認められる。
2 計画変更の申出の拒絶の処分性
(1) 申出の性格
 農振法上は、農地利用計画の変更は都道府県及び市町村の職権で行われるように見える(農振法13条1項)。そうすると、農地利用計画の変更の申出は都道府県又は市町村に対する職権の発動を促すものに過ぎず、都道府県又は市町村が諾否の応答をすべき申請とはいえないとも思える。
 しかし、個別の農地につき農地利用計画の変更をするには、実務上、農地所有者等からの申出が不可欠である。農振法に基づく実務処理のために策定された行政規則たる本件運用指針4条によれば、計画の変更を必要とする者は申出書を窓口に提出し(同条1項)、その可否について申出人に通知することとしている(同条4項)。すなわち、申出に対する諾否の応答を必ずすることとされている。
 したがって、計画変更の申出は、計画変更申請ということになる。
(2)申出拒絶の処分性
 上記のように申出が計画変更申請と解される以上、申出拒絶は申出人の新政権を侵害するものとして処分性が認められる。
第2 設問1(2)について
1 本件申出書を返送されたXが提起すべき訴訟として、不作為の違法確認の訴え(行政事件訴訟法(以下、行訴法と略記する)3条5号)が考えられる。
(1)Xの置かれている状態
 Xは、本件運用指針4条1項に基づき適法に申請を行ったにもかかわらず、その申出書を返戻されている。行政庁は申請がその事務所に到達した時は速やかに審査を開始しなければならないとされている(行政手続法7条)。令和元年5月10日に申出書は所定の課に到達しており、速やかに申請について審査しなければならない。そして、B市によれば1年程度で審査が終了し、通知が送られてくることになっているが、令和2年5月中旬になってもXの下に通知が送られていない。
 すなわち、Xは適法に申請したにもかかわらずそれに対する通知を得ていない状態に置かれていることになる。
(2)B市による対応の法的意味
 B市としては、本件申請は農振法施行令9条により当該工事の完了した平成30年度の翌年度の初日から起算して8年を経過しなければ本件農地についての本件計画の変更の申出は受けられないことから、形式上の要件に適合しない申請であるとして補正を促す行政指導をしていると主張することが考えられる。
 これに対し、Xとしては申出をやめる意思がない旨を職員に告げている。行政指導はあくまで任意で相手方に指導内容を了解し行動してもらうことを前提とするものであるから、相手方がこれ以上行政指導に従えない旨主張している場合には直ちに行政指導を終わらせ、申請に対する応答をすべきである。したがって、B市の行政指導はXが反対の意思を表示した時点で違法となり、その時点から速やかに申請を審査すべきであったといえる。
(3) 以上のように、B市は申請に対して応答しておらず、この不作為について不作為の違法確認訴訟を提起すべきである。
2 訴訟要件
Xは農振法及び運用指針に基づいて申請をしており、原告適格は認められる(行訴法37条)。被告適格はB市に認められる(行訴法38条1項、11条)。いまだ応答はされていないことから、訴えの利益も認められる。管轄はB市を管轄する裁判所に認められる(行訴法38条1項、12条1項)。不作為が継続している間は出訴することができるのであり、出訴期間について問題はない。
3 本案勝訴要件
 不作為の違法確認訴訟における本案勝訴要件は、「相当の期間内に何らかの処分又は裁決をするべきであるにもかかわらず、これをしないこと」である(行訴法3条5項)。
 本件ではB市が本件申出と同種の申出については1年程度がかかると公表している(行政手続法6条)。また、実際にXと同時期に申出をしたものには令和2年4月に通知が来ている。
 行政指導が行われていたことから、4月に通知がこないことをもって相当の期間内でないとはいえない。しかし、前述したように、Xが行政指導に従わない旨を表明した段階で審査を開始すべきだったのであるから、その時から1年を経過した令和2年5月時点では相当の期間は経過していると考えられる。
 したがって、本案勝訴要件も認められる。
第3 設問2について
1 本件土地が農振法13条2項5号を満たすとの主張
 農振法13条2項5号は、農用地区域内の土地を農用地区域から除外するための要件として、当該変更に係る土地が土地改良事業で、施行規則に定める事業の施行区域内にある土地(農振法10条3項2号)に該当する場合である場合に適用される。そして、施行規則4条の3では、農振法10条3項2号に該当する事業から除かれるものとして、主として農用地の災害を防止することを目的とするもの(施行規則4条の3 1号柱書かっこ書)、当該事業の施行により農業の生産性の向上が相当程度図られると見込まれない土地にあっては、当該事業(同条同号イかっこ書)が挙げられている。
 本件事業は農地の冠水という災害を防止することを主たる目的とするものであることから、施行規則4条の3 1号柱書かっこ書に該当する。また、本件土地は高台にあるため、本件事業の恩恵はほとんど受けず、また、本件事業によって関係する農地の生産性が向上するとは考えにくいため、同条同号イのかっこ書に該当する。すなわち、本件事業は農振法10条3項2号に該当せず、本件土地は農振法13条2項5号にそもそも該当しない。
 農地利用計画は国土資源の合理的利用の見地から土地の農業上の利用と他の利用との調整に留意しつつ農業に関する公共投資その他農業振興に関する施策を計画的に推進するために策定される。そのため、農業振興にとって必要とはいえない事業がされた場合にまで農地利用を制限する必要はない。したがって、本件計画変更をしないことは違法となる。
2 政令の例外をみとめる解釈について
 政令は農振法13条2項5号の政令で定める基準について、事業の工事が完了した年度の翌年度の初日から起算して8年を経過した土地であることを要件としている。これは、公共投資をして農地として利用しやすく、生産性を挙げた土地を農地以外に転用することは、これにした投資を無に帰することになることから、事業完了後8年は農地として使用することを要求する趣旨と考えられる。
 そうすると、工事の全体が完了したときから起算する必要はなく、対象となっている土地に関する工事が完了し、土地の生産性が上がったといえる時から8年経過していれば、投資の回収も終わり、農地以外に転用することを認めてもよいと考えられる。
 本件土地に関する部分の工事は平成20年末ごろに完了しており、この翌年である平成21年から起算して8年たっていれば、政令の基準に達しているといえる。
 したがって、本件計画変更拒否処分は違法である。        以上

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