令和2年司法試験論文会社法答案例改訂版
甲社が非公開会社であることを前提に一部書きなおしました。
第1 設問1について
本件株式発行の瑕疵について、Bとしては新株発行無効の訴え(828条1項2号)を提起し、また本件議案1及び2について株主総会決議取消の訴え(831条1項1号)を提起することになる。
1 提起すべき訴えと主張
まず、本件株式発行の効力は生じているため、新株発行無効の訴えを提起する。本件株式発行における瑕疵としては①定款変更を目的とする本件議案1を決議した本件決議1が後述する株主総会決議取消の訴えにより取り消され、定款変更が無効となることから、定款に記載のない株式を発行したこと②本件株式の発行が有利発行(199条3項)になるにもかかわらず、株主総会決議(199条2項)がなされていないことが考えられる。
そして、上記二つの事由ともに株主総会決議が取り消されていることを前提としているため、株主総会決議取消の訴えを提起することになる。株主総会決議取消の訴えにおける取消事由として、③本件議案1および本件議案2が招集通知に記載されていなかったという招集手続の法令違反及び、④取締役CがBに対して本件議案2について虚偽の説明をしたという説明義務違反(200条2項)を主張することになる。
2 主張の当否
株主総会決議取消の訴えが認められることが新株発行の無効の訴えの無効事由に関係するため、先に株主総会決議取消の訴えが認められるかにつき検討する。
(1)株主総会決議取消の訴え
ア ③の主張の当否
甲社は取締役会設置会社であるから、株主総会招集通知は書面で送る必要がある(299条2項2号)。この通知には298条1項各号に掲げられている事項を記載する必要があり、その中には株主総会の目的となる事項(同項2号)も含まれている。すなわち、本件議案1および議案2に対応する目的事項であるところの「定款変更の件」および「新株式発行の件」について招集通知に記載しなければいけなかった。にもかかわらず、本件招集通知にはその旨の記載はなかった。したがって本件決議1および本件決議2は招集手続に法令違反があるといえ、株主総会決議取消事由が認められる。なお、招集通知に目的事項が書かれていなければ、株主はこれについて株主総会前から検討し、十全に議決権を行使することができない。そのため、この瑕疵は重大であり、831条2項に基づく裁量棄却は認められない。
イ ④の主張の当否
本件議案2は、募集株式を引受けるPとQに対して、実際の株式の評価額である4万円と比べて特に有利な価額である2万円の払込金額を定めるものであり、株主総会の特別決議(309条2項5号、199条3項、199条2項)を要する有利発行(199条3項)に当たる。
有利発行をする際には株主総会で取締役は当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない(199条3項)。この趣旨は、特に有利な価額での株式の取得を認めてしまうと、既存株主の株式の価値の希釈化がされてしまい、既存株主の持株比率維持の利益・経済的地位を侵害するため、これを許すかどうかを株主自身に判断させる点にある。そうすると、株主が当該払込金額による新株発行でどの程度の不利益を被るかを正しく判断するために、株式の適正な評価額、発行される株式数を説明をすることが必要となる。
本件では、当該払込金額が適正な評価額と同額であると虚偽の説明がされている。これでは、そもそも株主はこの払込金額が特に有利な価額であると認識することができず、みずからがどのような不利益を被るか判断することができなかった。したがって、199条3項所定の取締役の説明があったとすることはできず、本件議案2には、決議の方法に法令違反があったとして株主総会決議取消事由が認められる。
なお、上記説明がないことは株主としての地位を脅かす重大なものであり、裁量棄却は認められない。
ウ 以上より、本件議案1、本件議案2ともに株主総会決議取消が認められる。
(2) 新株発行無効の訴え
ア 新株発行無効事由について
新株発行無効事由は法定されておらず、解釈によって決定する必要がある。新株発行は資金調達という業務執行の側面と、会社の構成員が増えるという側面の二つがあり、また、株式が輾転流通するということから、株式の取得者の株式の有効性についての信頼も保護する必要がある。既存株主にとって手続や内容が違法な新株が発行された場合には支配権維持の利益や株式価値の下落などの経済的不利益が発生しうるが、基本的には新株発行の差止め(210条)を主張すべきであり、いったん新株が発行されれば、よほどの重大な瑕疵がない限り新株発行が無効とはならないと考えられる。
イ ①の主張
前述したように、定款変更についてされた本件決議①は取り消しうるものである。実際に取り消された場合には、定款変更(466条)は無効であり、その定款変更を前提としてされた新株発行は無効となると考えられる。
定款は会社の根本規範であり、発行できる株式は定款で定める必要がある(108条1項本文、同条2項1号)。その趣旨は、前もってどのような内容の株式が発行されているのかを周知し、株主として会社の構成員になってよいか判断させる点にある。そうすると、定款に定めのない株式を発行することは会社の根本規範に反することになり、重大な瑕疵といえる。
したがって、①の主張は新株発行無効事由に当たる。
ウ ②の主張
非公開会社においては、募集株式の発行につき、必ず株主総会決議が必要とされている。非公開会社とは株式に譲渡制限が設定されているところ、譲渡制限の趣旨が会社にとって好ましくない者を株主とは認めないことを通じ、閉鎖的な会社運営を可能となっている。そのため、株主は、募集株式の発行により誰が新たに株主となるかにつき強い利害を有しており、その株主の承認なくして募集株式の発行ができないこととなる。したがって、非公開会社において有利発行時に株主総会特別決議がないということは新株発行無効事由となる。
(3) 以上より、①~④の主張はすべて認められる。
第2 設問2(1)について
本件株式併合は、本件優先株式のみを2株につき1株の割合で併合するものである。そのため、PとQの保有する株式のみが、5000株から、2500株へと減ることになる。
まず、支配権維持の利益について検討する。本件優先株式は株主総会における決議事項の全部について議決権を行使することができるとされている。株式併合前の発行済株式総数は9万株であり、Pは議決権5%以上を保有する株主となっている。これが株式併合後には発行済株式総数が8万5000株、Pは議決権保有率3%程度となり、Pの支配率が低下することになる。
次に、経済的価値について検討する。本件優先株式は剰余金配当について本件普通株式よりも先に一株1000円を配当するというものである。そのため、株式併合によって5000株が2500株に減った場合、優先的に得られる剰余金の額も半額になってしまう。
また、本件優先株式は剰余金の配当が配当優先額に達しなかった場合には当該不足額は翌事業年度以降に累積することとされている。これは一株当たりの配当額に引き直して計算されるため、株式数が減ることで、一株当たりで配当していた額が増え、累積していたはずの不足額が少なくなる可能性もある。
第3 設問2(2)について
1 まず、Pは、本件株式併合の効力発生前において、株式の併合をやめることの請求(182条の3)をすることが考えられる。
上記請求が認められるためには、本件株式併合に法令又は定款違反があることが必要である。本件議案3は臨時株主総会で可決されているところ、この議決には甲社取締役Aが加わっている。そこで、Pとしては、特別利害関係人であるAが決議に参加することで著しく不当な決議がされたと主張することが考えられる。
本件株式併合は本件優先株式にかかる剰余金配当を減らす目的で行われたものである。甲社取締役Aとしては、剰余金配当の負担を減らし、資金繰りを楽にしたいという意図で、議決権行使を行っている。そのため、Aは株主として他の株主と共通しない独自の利害関係を有しているといえ、特別利害関係人にあたる。また、優先株式の内容を変更するためには定款変更が必要となるところ、それを、株式併合で行うものであり、著しく不当といえる。
したがって、本件決議3には株主総会決議取消事由があり、法令違反があるといえる。
そして、設問1で検討したように、Pは不利益を受けるおそれがある。
以上より、pは甲社に対して株式の併合をやめるよう請求することができる。
2 また、Pは株式併合に反対する旨を会社に対して書面で提出していることから、反対株主による買取請求(182条の4)をすることも考えられる。もっとも、本条による買取請求は、株式併合によって端数が生じる場合に、その端数となる株式の株主の保護を目的としている。本件株式併合ではp、Qともに2500株になるだけで端数は発生しておらず、本条による買取請求はみとめられない。 以上
よろしければサポートお願いします!サポートして頂いたお金は、すべて法律書・法律雑誌・DVDの購入・図書館でのコピーに充てさせていただきます。・・・改正があると、お金が飛んでいきますね・・・。