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令和2年司法試験論文刑法 答案例

こんにちは、井上絵理子です。令和2年刑法を2時間で、六法以外何も見ずに解いてみました。出題趣旨が出る前なので、これで大丈夫かどうかはわかりません!しかも、解いた後で論理矛盾に気づいて発狂しております。別の記事で思考過程及び調べた結果について述べようと思っているので、どこが論理矛盾かはそこで書きます。ぐぬぬ・・・

第1 設問1について
甲の、Bに対する、暴力団組員であるように装い債権回収を行った行為によって600万円を脅し取った行為につき、恐喝罪(249条1項)が成立する。
1 「人を恐喝して財物を交付させた」者につき恐喝罪が成立する(249条1項)。ここで、「恐喝し」といえるためには、相手方に対して、財物奪取に向けられた、反抗抑圧に至らない程度の暴行又は脅迫を行うことをいう。甲は相手方Bに対して、自身が暴力団員でないのにこれであるかのように装い、600万円を自己の口座に振り込むこと、振り込まなければ組の若い者をBの家に向かわせると述べている。600万円を振り込ませるために、相手方Bに対して金銭を支払わなければB及びBの家族に危害を加える旨を告げているため、相手方に対して財物奪取に向けられた脅迫がされたといえ、「恐喝し」にあたる。なお、Bは自身が暴力団組員でないにもかかわらずそうであるかのように嘘をつき、Bにそれを信じさせて財物を交付させようとしており、詐欺罪が成立するか問題となりうる。しかし、この嘘はBを畏怖させるためについたものであるから、「恐喝し」たといえるかの判断材料となるだけであり、詐欺罪は成立しない。
 また、恐喝罪は恐喝行為によって相手方を畏怖させ、その畏怖に基づき相手方から財物を交付させるものである。本件では甲の発言を聞いてBは「甲が暴力団組員であると誤信し、甲の要求に応じなければ自身やその家族に危害を加えられるのではないかと畏怖して」いる。そして、その畏怖の結果、甲に対して600万円を交付している。したがって、甲の恐喝行為によって相手方Bが畏怖し、その結果財物が交付されているといえ、恐喝罪が成立する。
2 問題は、恐喝罪が成立するのは交付された財物である600万円すべてであるか、本来債務がないにも関わらず支払われた100万円の部分であるかである。
 甲はAから債権回収の依頼を受けて、Bに対して債権の取り立てを行っている。これは民法上債権受領の代理権をAから甲が授与されたと構成することができ(民法118条前段)、Bが甲に500万円を支払った時点でBのAに対する債務は消滅する(民法473条)。そうすると、恐喝されていたとはいえ、本来弁済しなければいけない債務を弁済したのであるから、恐喝が成立するのは100万円の範囲に限られるとも思える。
 しかし、社会通念上相当でない方法によって債権回収をした場合にも、恐喝罪が成立する。このように考えなければ自力救済を否定している法秩序からして妥当でない。また、Bは畏怖した結果債務の弁済をしたのであり、本来であればしなくてもよいことをさせられたことに変わりはない。恐喝罪は個別財産に対する罪であるから、恐喝によって交付させられた600万円全額につき恐喝罪が成立すると考えられる。
3 以上より、甲には600万円の範囲で恐喝罪が成立する。
第2 設問2について
 Aが睡眠薬を摂取して死亡したことについて、甲に殺人既遂罪が成立しないという結論の根拠となり得る具体的事実として、①本件で甲がAのワインに混入させた睡眠薬の量は、Aの特殊な心臓疾患がなければ、生命に対する危険性が全くなかったものであることから、本件睡眠薬の混入行為がそもそも殺人罪の実行行為足り得ない(不能犯)②本件でAに特殊な心臓疾患があったことにつき一般人は認識できず、甲もこれを知らなかったことから本件混入行為と実行行為との間の因果関係が認められない③甲は計画どおりAに睡眠薬を飲ませたが、恐怖にかられ有毒ガスを発生させずにその場を離れたことから、中止未遂となる、の3つが考えられる。
1 ①の事実について
 刑法における実行行為とは、法益侵害の現実的危険性を有する行為であるところ、この法益侵害の現実的危険とは、所与の具体的状況の下における社会一般人の目からみた危険性をいうと考えられる。そうすると、当該行為が実行行為たるに値する法益侵害の現実的危険を有しているかどうかは、行為当時行為者が特に認識していた事情、及び一般人が認識しえたであろう事情を基礎とし、行為の時において一般人の立場から判断することになる。
 本件使われた睡眠薬は病院で処方される一般的なものであり、Aに特殊な心臓疾患がない限り生命に対する危険は全くないものであった。Aに特殊な心臓疾患があったことにつき一般人は認識できず、甲も認識していなかったことからすれば、一般人の立場から本件睡眠薬の混入行為に人の生命に対する危険があったと認定することはできない。
 したがって、本件睡眠薬の混入行為は殺人罪の実行行為たりうる人の生命に対する現実的危険を有する行為とはいえず、本件行為には殺人既遂罪が成立しない。
2 ②の事実について
 本件睡眠薬の混入行為によってAが死亡するに至ったのは、A自身に特殊な心臓疾患があったからであり、実行行為と結果との間に因果関係が認められないと考えられる。
 因果関係が認められるためには、「あれなければこれなし」という条件関係が認められるだけでは足りず、社会通念上その行為からその結果が認められることが相当といえる場合であることが必要となる。そして、その判断の際には行為当時一般人が認識しえた事情及び行為者が特に認識していた事情を基礎とする。
 本件では、睡眠薬を飲んだことにより、Aの特殊な心臓疾患が急激に悪化し、急性心不全となってAが死亡している。睡眠薬が混入されていなければ、Aは死亡していないといえ、条件関係は認められる。Aの特殊な心臓疾患について一般人もAも知りえなかったためこの事情は判断基底から除かれる。そこで、睡眠薬を飲んだ→Aが急性心不全になった、という因果関係が相当といえるかについて検討するに、本件睡眠薬は特殊な心臓疾患がない限り生命に対する危険は全くないものであるから、この因果経過は相当とはいえない。
したがって、因果関係が認められず、甲に殺人既遂罪は成立しない。
3 ③の事実について
実行の着手(43条1項)は法益侵害の現実的危険が一定程度まで高まった段階で認められ、危険性判断においては行為者の計画を踏まえて判断する。甲の計画によれば、Aを睡眠薬で眠らせた上で、X剤とY剤を混ぜて有毒ガスを発生させ、もってAを殺害することになっていた。Aが睡眠薬で眠らされてしまえば、有毒ガスが発生しても逃げることはできず、A死亡の結果発生について現実的危険が間近に迫っているといえる。したがって、本件睡眠薬の混入行為の時点で殺人罪の実行の着手があったといえる。
しかし、甲はその後の計画を取りやめ、X剤とY剤を混ぜて有毒ガスを発生させることなくその場を立ち去っている。Aは本件睡眠薬の混入行為によって死亡しているが、②より因果関係が認められないと考えられるため、未遂となる。
そして、甲は、そのままX剤とY剤を混ぜて有毒ガスを発生させることもできたが、Aを殺害することが怖くなり、有毒ガスを発生させることをやめた。このままAをころすことができたにもかかわらず、なんら外部事情が変わったわけでもないのに、計画を進めることをやめているため、「自己の意思により」(43条1項ただし書)といえる。
本件睡眠薬の混入行為の時点で実行の着手が認められたのは、甲の計画によれば、本件睡眠薬によってAが眠らされてしまえば、有毒ガスを発生させたとしてもAは逃げることができず、この時点でA死亡の因果の流れを甲が掌握したといえるからである。そうすると、甲は有毒ガスを発生させるのをやめさえすれば、A死亡の因果の流れを止めることができる。したがって、甲は犯罪の遂行を「中止した」といえる。
以上より、甲には中止未遂が成立する。
第3 設問3について
1 横領罪(252条1項)
 甲名義の口座に入金された500万円をCに対する債務の弁済として交付した行為について横領罪が成立する。
 横領罪は委託信任関係に基づき他人の物を占有する者が、委託信任関係に反し所有者でなければできない処分をする意思(不法領得の意思)をもって、当該意思を外部に発現する行為を行った場合に成立する。
 横領罪における占有は事実上の占有のみならず法律上物に対する支配力を有している場合についても認められる。本件甲は自己の口座にAの500万円を預かっていた。甲はこれを引き出しまたは引き落としに利用するなどしてほしいままにすることができたことから、法律上物に対する支配力を有していたといえる。そして、甲はAから債権回収を依頼され、その債権回収の結果として500万円を口座で預かるに至ったのであるから、甲は委託信任関係に基づき他人の物を占有する者にあたる。
 そして、債務の弁済に500万円を充てることは所有者でなければできないことである。したがって、甲が500万円をCに対する債務の弁済にあてた時点で不法領得の意思の発現行為があったといえ、横領罪の実行行為があったといえ、この時点で既遂に至る。
 甲は500万円を債務の弁済にあてる意思をもって当該行為を行っていることから、故意および不法領得の意思も認められる。
 以上より、500万円につき、甲には横領罪が認められる。
2 詐欺罪(246条2項)
  2項詐欺罪は人を欺いて、錯誤に陥らせ、もって財産上不法の利益を得るものである。本件で甲はすでに債務の弁済がされているにもかかわらず、Bがまだ弁済をしていないと偽り、Aをその旨錯誤に陥らせ、債務の履行期を10日間延期させている。ここで、債務の履行期を延期させることが財産上不法の利益に当たるかを検討する。この甲の発言がなければ、AとしてはBに問い合わせをし、債務が弁済されているか確認することになる。そして、債務がすでに甲に対し支払われていることを知った場合、すぐに自分に引き渡すよう請求することになる。甲はこの支払の追求を一時的にではあるが免れることができているため、財産上不法の利益を得たといえる。
したがってAに対して債権回収状況につき嘘をいうことで500万円の引渡債務の返還時期を10日間延長させた行為につき2項詐欺罪が成立する。
3 強盗罪
(1) Aに対する500万円の返還債務を免れたことにつき、2項強盗殺人罪(236条2項、240条)が成立しないか。
 甲は500万円の返還を免れる目的でAを殺害することを目的として、本件行為に及んでいる。相手方を殺害することは相手方の反抗を抑圧する究極の手段といえるから、甲は財産上不法の利益を得るために相手方に対して反抗抑圧に至る程度の暴行を行う意思、すなわち2項強盗を犯す意思をもって本件睡眠薬の混入行為に及んでいる。したがって、本件睡眠薬の混入行為は2項強盗の実行行為にあたる。
 そして、Aは本件睡眠薬の混入行為によって死亡している。Aには相続人がいないことからAが死亡すれば500万の返還債務を甲は免れることができる。
 以上より、甲には2項強盗が成立する。
 そして、A死亡と本件実行行為との間に因果関係がない以上、強盗殺人罪は成立しない。
(2) 高級時計を持ち去った行為につき、強盗罪が成立する。
 財物奪取の意思を生じたのは、Aを眠らせた後ではあるが、Aを眠らせた自己の行為に乗じて財物奪取をしているため、この行為にも強盗罪が成立する。
4 罪数
 横領罪・2項詐欺罪・2項強盗罪については同一の法益についての犯罪であることから思い2項強盗罪に吸収され、2項強盗罪1罪が成立する。同一時においてAの腕時計を奪取した1項強盗罪とは観念的競合となる。                     以上

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