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福島県いわき市に点在するメルヘン。

自分が書いたもののなかで、もっとも古い記憶にある文章。
それは小学校のときに書いた作文「お米とわたし」です。
実家は、家族親戚が食べられるくらいの田んぼを持っていて、田植えや稲刈りは、親族総出の手作業で行っていました。
その体験を記した作文はコンクールで入賞し、市のお祭りで表彰されたのでした。
「お米とわたし」。
リアルな米づくりの実体験をレポートしていた幼き山田の夢は、近所のスーパーのパートリーダーとして働きながら、地域役員になって市の祭りを盛り上げるおばさんになることでした。

それなのに。
なにがどうしてか、気づいたら絵本作家になっていました。
しかしながら。
根本的に、生まれもってのメルヘンが足りないのです。
それなので。
今さらながら、メルヘンの修行にはげむことにしたわけです。

メルヘン…メルヘン…メルヘン…と呪文のように唱えながらGoogleマップをさまよっていたら、発見しましたよ。
その名も、「メルヘン屋」。
メルヘンを、売っているの?
メルヘンが、お金を出せば手に入るの?

メルヘンと名のつく店は、福島県いわき市にありました。しかも、何軒も。

「メルヘン屋」
「メルヘン屋 湯本店」
「Princessメルヘン」

……プリンセス?
「プリンセスとメルヘン」なんて、「お米とわたし」から最も遠い言葉ではありませんか。

いわき市といえば、あのフラガールで有名なスパリゾートハワイアンズ。
ということは、温泉がじゃんじゃん湧き出ているということですよね。
フラやリゾートやハワイアンはそんなに欲してないけれど、スパはいつだって欲しています。
福島は、農業や畜産がさかんだと聞きますよ。海が近いから魚だってうまかろう。
いこういこう、いわきにいこう。
メルヘンを買いに、いわきにいこう。

宿をピコピコっと予約し、常磐自動車道を走り抜け、いわき市へ。
まっしぐらに「メルヘン屋」に向かいました。
そこは、カオスでした。



婦人服、紳士服、肌着、エプロン、はんてん、
靴、スリッパ、傘、クッション、布団、カーペット、
ペット用品、アウトドア用品、椅子、
食器、アクセサリー、ダンスの衣装、
こども服、学童用品、弁当箱、キャラクターグッズ………。

歩けども、歩けども、通った記憶のない通路があり、見たことのない商品があらわれる。
ものすごい物量の、リアルで生活感あふれる品々がおしよせてきます。
このなかのどこに、メルヘンがあるというのでしょうか。
メルヘンの棚はどこですか? メルヘンはおいくらですか?

婦人服の森をかいくぐる私の目の前にあらわれたのは、 “ FOEVER YOUNG ” と胸元にラメで刺繍がされているチュニック。
いつまでも若くありたいという、いじわるな女王様の願いが、ラメとなって浮き出てきたのでしょうか。
城に迷い込んだ少女の生き血でも吸おうというのでしょうか。
チュニック女王につかまったら最後、迷宮を抜け出すことはできないのです。
早くメルヘンを見つけて、ここから脱出せねば。

メルヘンを探し、さまようこと1時間。
大量の商品のなかから見つけだしたメルヘンがこちらです。



「ハリネズミのサーカス団」5本指ソックス 197円
「カワウソベーカリー」5本指ソックス 247円

税込合計価格 447円 也

「これで物語をつくりなさい」というメルヘンの神様からのおぼしめしかもしれません。
しかと受けとめ、旅のあいだはこれを履き、メルヘン修行にはげみたいと思います。

(つづく)

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