マガジンのカバー画像

山田古形の小説

27
山田古形が書いた小説の一覧です。楽しいヘンテコ話がたくさんあります。
運営しているクリエイター

2023年8月の記事一覧

【小説】恋愛信号管理局の衰退と再興

『恋愛信号管理局 局長 蒲生璃名』  クローゼットの奥底にある収納ボックスの奥底に押し込まれた角型ポーチの更に奥底、奥底に奥底を重ねた深奥に、ひび割れたプラスチックのネームプレートが今も眠っている。  市販の材料と不器用な手先を組み合わせて作ったあのプレートは、私にとって希望に満ちた青春の象徴であり、不毛に満ちた迷走の遺物でもあった。  恋愛信号管理局は三年前の四月、当時高校一年生だった私と三人の友人によって発足し、翌年の三月に大して惜しまれることなく解散した。  巷間を飛び

【小説】彼女が笑うゲーム

「園生さんって作り笑い得意だよね」  情報学部棟三階の休憩スペースで欠伸をした瞬間、鹿倉小祥が声をかけてきた。  こいつはいきなり何を言うんだ、と心中で訝しみつつ、表面的には曖昧な微笑を浮かべる。表情筋の繊細なコントロールによって、「気の抜けた仕草を見られた羞恥」と「言葉の意味を測りかねている困惑」を適切な比率で配合した微笑に仕上がっているはずだ。  鹿倉はイスに座る私の傍らに立って、窓から差す午後の陽光を浴びながら、感情の映らない真顔でこちらを見ている。  肩まで無造作に伸