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「掛けましてエ――掛けましてエ――」 ガラスを砕いたような高くひび割れた声を聞いて、私は背後を振り返った。 すっかり日の落ちた暗い歩道には、先ほどまで私のほか誰もいない様子だった。それがいつの間にか、私のすぐ後ろに、羽織を纏った着物姿の人物が立っていた。 いや、正確には、人のような輪郭に見えるだけだった。夜とはいえ周囲には街灯や自動販売機の光があるのに、全身に黒い靄のような陰影が掛かって、顔つきや衣服の詳細を捉えることができない。ただ三日月型に歪んだ口元だけが、暗闇の中