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山田古形の小説

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山田古形が書いた小説の一覧です。楽しいヘンテコ話がたくさんあります。
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2020年5月の記事一覧

ふれあい化腸玄謬全ひろば

 ぐねぐねと折れ曲がった迷路のような書体で「ふれあい化腸玄謬全ひろば」と記された看板が、広々とした公園の一角に置かれていた。  私は看板に目を通した後、その隣を足早にくぐり抜けた。  白い柵で囲われたいくつかの区画と、それらの内側に陣取る様々な生物の姿が目に入ってくる。  半透明の翼を広げる鷲。四つの目と十本の腕を持つ蜥蜴。鹿に似た角を生やした鯰。金色に淡く発光するハムスター。  生物達はぴくりとも動かず、声も発さず、周りを囲む人間達にべたべたと無遠慮に触られるがままになって

イヤホントラップ

 窓際の席で眠る人影に気がついて、私は教室に踏み入れようとしていた足を空中で止めた。  中途半端なフラミンゴのような体勢のまま、窓のそばに置かれた机に突っ伏す人を眺める。首の辺りまでで切り揃えられた、さっぱりとした髪型に見覚えがあったけれど、確信を得るために私はゆっくりと教室の中へ入っていった。  頭の中でピンクパンサーのテーマ曲を流しながら、音を立てないようにそろそろと歩を進める。窓から差す午後の光を浴びながら、穏やかな顔つきで目を閉じている人の様子が、近づくにつれて明瞭に

一面の地縛霊

 春の中頃にしてはいやに冷たい風が首筋を撫で、私はぶるりと身を震わせた。  辺りに立つ木々は風に揺られ、ざあざあと軋むような音を立てた。禍々しいほどに赤黒い夕焼けが、葉や枝や幹を血のような色に染めている。  夕暮れの林道には、木々の発する音のほか、二人分の足音だけが響いている。鳥の声も虫の気配もない、静まり返った空間の中で、息の詰まるような思いをしながら私は歩いていた。 「まだ着かない?」  隣を歩く友人に視線を向け、私は微かに震える声で言った。友人は手に持ったスマートフォン