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【モジャ毛語り 12】食パンわんことトマト先生と20年前のトラウマ


【スズキアイミからのお題:「柴犬」】






犬って本当にかわいい。





我らのバンド・サーカス船のプッケには犬好きのメンバーが多く、



スタジオやライブに向かう道すがらで散歩中のワンちゃんとすれ違うたびに、

それまでの話題を中断してでもそのかわいさを称えまくる傾向にある。



頭部にヨークシャーテリア1匹分ほどのモジャモジャを載せていることでお馴染みのヤマダヒロミチも、
昔から犬が大好きだ。



スタジオやライブに向かう道すがらで散歩中のワンちゃんとすれ違うたびに、

それまでの話題を中断してでもそのかわいさを称えまくる集団の中で、

女子メンバーよりも高音域の裏声を発して騒いでいるオジサンがヤマダヒロミチだ。




かわいいワンちゃんを前にするとオジサンだって裏声になっちゃうのだ。





今回のお題をくれたスズキアイミの、最も好きな犬種が柴犬であるらしい。



わかる。



なんだろうね、あの侘び寂びを感じさせるフォルムは。



洋犬も日本犬もどちらも好きだが、


日本犬から感じるあの“和っぽさ”はすごく不思議だと思っている。



たとえば、

ゴールデンレトリーバー
ビーグル
シュナウザー
プードル
柴犬


この5匹を並べて、


過酷な拷問の末に犬に関する知識のみを完全に消去したヤマダヒロミチ
「お前の生まれた国の犬を選べ」と命令したとしても、

犬知識ゼロミチは、
きっと柴犬のことを指差せると思うのだ。



“同じ国土で同じもの食って代々暮らしてきた感”なのだろうか。


柴犬が日本犬、ということがすごくしっくりくる。


(逆にアフガニスタンの人はアフガンハウンド見ると「わーやっぱいつ見てもうちの地元っぽいよなぁこの毛並み〜」って感じるのかな)




洋犬には無い、素朴で無自覚なかわいさがたまらなくキュートだ。







あぁ、



たまらなくキュートだなんて我ながら全然陳腐。



柴犬の持つ魅力を全くもって表現しきれていない。







このように、


犬という生物の持つ底知れぬかわいさを表現するのは、


ボキャブラリーがいくらあっても足りないほどに難しいことなのだ。

(実際問題どんなにボキャブラリーが豊富だったとしても、クソかわいいワンちゃんを前にしたら偏差値3くらいの「きゃわいい(裏声)」しか出てこないし)







それに関して、




ヤマダヒロミチには今でも忘れられない、

というか、
昨今だからこそ思い出したことがある。




小学4年生だったろうか。






当時、
本来ヤマダヒロミチのクラスの担任はベテランのおばちゃん先生だったのだが、



ごく短い期間だけ、
見知らぬ若い女の先生が授業をしにやって来ていた。



それが教育実習なのか、
それとも何らかの理由での代理なのかはよく覚えていないが、
(なんせ20年以上前の話だ)






キレイな先生だった。


どう考えても今の俺よりも若い、
20代前半だろう。





その先生による国語の授業で、

「最近感動したことを絵日記にしよう」的な感じの課題を提出することになった。






ヤマダヒロミチ少年は、




茨城県つくば市に今もある、
“わんわんランド”という世界中のワンちゃんと触れ合えるテーマパークに、

前週の休日、家族で遊びに行った時のことを絵日記にした。





当時わんわんランドでは、
好きな犬を選んで、一緒に園内を散歩できるサービスがあった。




実際に犬を飼ったことのなかったヒロミチ少年は、

そこでムックムクの柴犬を指名し、

人生で初めて犬の散歩を経験した。





すごく楽しかったし、


ムックムクの柴犬はめちゃくちゃ可愛かった。




お散歩の途中で、
疲れたのか道端に寝そべってしまったその柴犬の、


こんがりとした赤茶色の毛並みと、

丸みを帯びたフォルムの可愛さ。




それを間近に見た感動を表現したいなと、
幼ながらに思った。







ヘタクソなりにムックムクな柴犬と楽しそうに散歩をしている自分の様子を絵にした。



作文は昔から得意だった。


一丁前に“比喩”ってヤツを使ってみた。




出来上がったそれを自信満々に提出した。


若くてキレイな先生に、
「えっへん、ボクはこんなに作文が書けるんだ!」アピールをしようというスケベ心の芽生え的なものも、
もしかしたらあったかもしれない。














まさか、



怒られるなんて微塵も思っていなかった。






若くてキレイな、
だけどよく知らない先生が、



何だかよくわからないけど怒っていて、



出席番号25番ヤマダは
ワケもわからず教壇の横に呼び出された。







10歳のヤマダヒロミチは、



足を折り畳んで寝そべった柴犬のふんわりとした背中のことを、




“食パンみたいでかわいかった”




と表現した。












「ヤマダくんがパンを作るお仕事だったとして、自分が大切に作ったパンを犬に喩えられたらどう思う!?」











若くてキレイな、
だけどよく知らない先生が、

顔を真っ赤にしながら、そう問いかけてくる。




当時のヤマダヒロミチは、

その問いに何も答えられなかった。













そして、






現在33歳になったヤマダヒロミチも、

それに相応しい解答が全く思い浮かばない。





マジで意味不明すぎて。







“人間様が大切に作った食パン様を、
薄汚い犬畜生なんぞを表すために使うんじゃねぇよ”

というニュアンスでよいのだろうか。


なんだそれ??


当時も腑に落ちなかったし、

20年の時を経ても全く腑に落ちてこない。





あの怒りは何だ?

あの先生はパン屋だった両親を柴犬に咬み殺されでもしたのか?

それとも正体ドキンちゃんか??






食べ物に関する比喩なんて古今東西いくらでもあるはずだろう。



青い空にふんわり浮かぶ雲を見て「わぁ〜、わたあめみたい!」と表現した子どもたちはみんな、綿菓子屋さんにぶん殴られるのか??


「てやんでぃ!俺っちが丹精込めて作った綿菓子を、排気ガスで薄汚れた東京の雲畜生なんかの比喩に使うんじゃねぇクソガキめッ!」ってか???


そんなラジカルで世紀末な綿菓子屋さん、逆に会ってみたくなりますけどねぇッ!?!?

綿菓子屋さん!
俺のヘアスタイルのことを“この世の不浄で作ったわたあめ”とか言ってくるヤツらがいるんですよ!今すぐぶん殴って!!





当時もめちゃくちゃ意味はわからなかったが、


相手は先生。
こちらは小4。



微塵も気持ちが入っていない「ごめんなさい」を提出して、
とりあえずその場を切り抜けるしかなかった。





若くてキレイだけどよく知らないしキレどころがよくわからない先生がいたのはごく短期間で、


いつの間にか元のベテランおばちゃん先生が教壇に戻り、


ヤマダ少年もそんな腑に落ちない疑問を忘れ去ったまま日々を過ごした。








時は流れ、令和。








検索してみるとわかるが、


“食パンみたいでかわいい”という表現は、

柴犬と似た色の毛並みを持つ犬種・ウェルシュコーギーの可憐なフォルムを称えるために、
ネット上でしばしば用いられている。





見れば見るほど一斤のふわふわ食パンのようでかわいいワンちゃんたち。

それを賛美するネット上の同好の士たちの文章や写真を見ているうちに、



20年前の、若い先生と絵日記のことを思い出したのだ。







茶色くてかわいい犬を“食パンに似ている”と思い、主張する行為が、
ある程度の人々の共感と理解を得て使われている2022年の今日、




あの先生はいったいどんな気持ちだろう。






世論の趨勢に負けて、犬を食パンで喩えることを認める派に転向しているのか。


それとも、
ネット上に蔓延るそう言った表現一つ一つに「生き物を食べ物で喩えるなんてお下品!!」と、
相変わらず顔を真っ赤にしているのだろうか。



はたまた、

あの日たまたまお腹が痛くて機嫌の悪い日だったからモジャモジャ髪の生徒に難癖付けたかっただけで、

実際はパンや犬や比喩に対する感情やポリシーなんてさらさら無く、

よく知らない生徒をそんな些細なことで叱ったことすら、
とっくのとうに忘れ去っているのだろうか。








でも、

あの日、
そんな些細なことで叱られた少年の方は、

20年後でも、その時の記憶を脳みその片隅に置きっぱなしにしていた。






そして今、



食パンみたいに茶色くてふわふわなワンちゃんを見るたびに、



若くてキレイだった先生が、
顔をトマトみたいにして怒っている情景を思い出しては、

意地悪くほくそ笑んでいる。








序盤に書いたように、



犬という生物の持つ底知れぬかわいさを表現するのは、


ボキャブラリーがいくらあっても足りないほどに難しいことなのだ。




訳の分からない基準で使う言葉を選んでいる場合じゃない。




世の中に存在する全ての単語や表現を総動員して、




その愛しさ、柔らかさ、可憐さ、尊さを称えるべきだ。





そして、

知りうる言語の全てを駆使し練りに練った愛の文章を大きな声で口に出すのだ!!!









きゃわいい!!!(裏声)



ってね。

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