「だから慣れちゃダメだ」

7年前の今日、まだ英語の先生になることを志していた僕は大学の授業で模擬授業をやったらしい。英語科に紛れて体育科の僕がやった授業はそれはそれは気合いの入った模擬授業で、その授業で一番の評価を貰ったのだ。三島から渋谷までの電車の中でずっと中学3年生の教科書の発音を確認していたんだっけと思い出す。必死だった。

以下7年前、まだ教壇に立つ前の頭でっかちな学生が考えていたこと。でも、素敵だなと思ったので読んで欲しい。

7年前のFacebookの投稿より

「楽しい授業を作りたいです」「自分のやりたい授業ができました」は、そこに彼らの心の動きが伴わなければただの自己満でしかなくなってしまう。そんなことを改めて感じた今回の模擬授業。

「人と同じは嫌だ」そうやって生きてきた自分は何か人と違うこと、型破りであり続けることにこだわり続けました。実際自分がこれまで受けてきた英語の授業って決められた型にはまってそこから抜け出せず、色もなく、受ければ受けるほど英語に迷ってしまう、そんなものだったから。

とにかくそんなくっそつまんないものを抜け出したかった。それだけのための「13分」と「何十時間」でした。それでも今回の授業の自己評価は40点。準備不足でテンポがどうとか、笑いが欲しくてやった1人コントが予想以上に滑ったとか、そんなことじゃなくて。

そもそもの核になるモノがずれてたんじゃないかって。大切にしなきゃいけないモノが見えてなかったんじゃないかって。

「自分のやりたいことやったらきっと楽しい授業になる」という自分の中にある価値観の押し付けになってしまったこと。自分が良く見えれば‥‥という自分中心の考えを拭い去ることができなかったこと。「楽しい」をはき違えてしまったね。難しい。「自分が楽しい」から「生徒もきっと楽しい」じゃなくて「生徒が楽しい」から「自分も楽しい」じゃなくちゃいけないのに。人間だもの。特に自分はその弱さが出てる。自分が良ければ‥‥ってね。まだまだ甘いね。あまちゃんだよ。じぇじぇ！！なんつって。

「良い授業」ってのが何かはまだわからないけど、それには多分もっと気づきがあって、生徒の心に引っかかるものがある。何をねらって何を身に付けさせなきゃいけないかも考えなきゃいけない。よくわからないんだけど、少なくとも今日の自分のそれは「良い授業」とはほど遠い所を歩いてることはわかってる。難しいね。

それでもみんな優しいからフィードバックシートには嬉しくなるようなことたくさん書いてくれるんだよな。常に良く見られることを考えてる弱い人間にとっては他人からの評価なんて凄く気になるところでしょ？本当にいつもありがとう。嬉しいけど、自分が納得できなかったから悔しさもある。オリジナリティを追求するのは良いけど、一番大切にしなきゃいけないものは一番大切にしなきゃいけない。同じ教室で同じ絵が書けるようにね。頑張らなきゃ。

そしてちょっとだけ今日の朝の話。三島が晴れてたから傘は持ってかなかったんだけど、渋谷に着いたら大雨。雨の中歩いてたら知らないおじさんが傘に入れてくれたの。大学の教授らしい。10分間だけだけど色々と話をした。「今日模擬授業やるんですけど何回やっても慣れないんですよね。」「良いんだよ、それで。慣れと自信は違うから。慣れちゃダメだ。初心を忘れたら驕りが生まれる。僕は初心を忘れないから何十年も学生が好きでいられる。だから慣れちゃダメだ。」「なるほど。初心忘るべからずってやつですね。ありがとうございました。」「Good Luck!!」「You too！」また会えるといいな。あんな先生になろ。

7年後の僕は

7年後の僕は、7年前の僕のどこかそれっぽい言葉で飾った教育観を鼻で笑いながらも、今の僕は色々経て結局同じところに戻ってきたんだと彼のことを学生ながら「やるやん」って褒めてやる。君のどこの本で読んだかわからないその教育観はきっと間違ってなくて、良い授業の考え方も好きだ。多分、この2年後僕は先生になるわけだけど大そうな教育観を掲げていながらも、結局君の指摘した良い授業のはき違えをすることになる。「自分が楽しかったら子どもも楽しい」授業して、やりたいことやって失敗する。それはもう自己満足の権化のような奴だった。その度にこれじゃダメだって毎回頭冷やして戻って来るんだ。それでも今日終わったソフトボールは良い授業だった。ぽろっぽろこぼしてたボールをきちんと捕球して送球してアウト取って喜んで抱き合ってるんだから、それを見て僕も嬉しかったんだから、良い授業だった。あの時、文字面だけは一丁前だった僕にやっと中身が伴い始めたのはあれから7年経ってのこと。そろそろ過去の経験だけで生きていける経験も知識も貯金できた。でも慣れ親しんだ自分に頼って生きていくことは、きっと渋谷を歩く僕は望んでいない。6年目なんてまだ始まったばかり。

だから慣れちゃダメだ。