もっとも難しいことは
僕にとって定時に帰ることは難しい。定時は16時30分なんだけど、部活もしっかりやりたいし、その後トレーニングの振り返りもしたい、終わったら授業の準備もしたいし、子ども達のあしあとにコメントも入れたい。お金の発生しない仕事は日々5時間程にもおよぶわけだけど、おそらく知られたら日本人はクレイジーだって言われる働き方をしているから外国のお友達がいる方、どうかお願いだから誰にも言わないで欲しい。そして多分だけど、この仕事はやらなくちゃいけない仕事はさほどないけれど、やっておいた方が良い仕事は無限にあるのだろう。その無限をどこまでも追いかけて行く限り、僕にとって定時に帰ることは難しい。
僕にとって人並みに家事をすることは難しい。3年前に一人暮らしを始めたんだけど、それまで25年もの間、家を出ずに生活をしていたから何もかも初めてで、洗濯物を干したこともなければ、掃除機をかけたこともない。得意料理と言えば、たまごをご飯にかけて少々の醤油を垂らすぐらいのもので、とても一人暮らしができているとは言いがたい。もし今街で偶然出逢った誰かに「タクシー代をお支払いするので家、ついて行ってイイですか?」と声をかけられても、一昨日干した洗濯物を取り込むめんどくささと、昨日開けたダンボールを片付けるめんどくささを理由に、どうせ他人のお金だからと少し離れた実家を紹介するであろうくらい、僕にとって人並みに家事をすることは難しい。
僕にとって常に機嫌良く生きることは難しい。昔から気持ちは弱い方で、ピアノの発表会や持久走大会、県大会の少し前あたりから目をパチクリさせていた子だった。些細な出来事に頭を悩ませたり、取り越し苦労で眠れなかったりする。ひどい時はパンフレットを手にしただけで行ってもいない留学先での生活が合わなかったらどうしようとブルーになったことがある。大人になってだいぶ心が強くなった今でも、誰かのちょっとした一言で傷ついたり逆に有頂天になったりする。占いの結果一つで1日の表情が変わる時がある。自分の機嫌ぐらい自分で取れよって色んな本に言われたけれど、どうしても誰かの評価の中で生きてしまう僕にとって常に機嫌良く生きることは難しい。
僕にとって僕がこれまで通ってこなかったことを今改めて考えることは難しい。僕はこの仕事をしていながら学校の勉強の多くを触らずに生きてきた。今そのツケがしっかりと回ってきていて、子ども達の疑問に答えられないことがある。例えば中学2年生ぐらいから数学を勉強した記憶がなく、これはマズいと今子ども達と一緒になって授業を受けている。あの時みんなが話題にしていた「点Pお前はそこでじっとしてろ!」というツッコミもやっと今になって笑えるぐらいには、その気持ちがわかる。頼むから動かないでくれ。政治に関してもしっかり学んだことはないから、どのような仕組みで新しい総理大臣が選ばれたのかもよくわからない。国語もしっかりと勉強したことがないからTwitterで議論される高尚な議論も前提となる知識と読解力の無さから本当に日本の言葉なのか疑うことがある。だからやっぱり僕にとってこれまで通ってこなかったことを今改めて考えることは難しい。
もっとも難しいことは
でも僕にとって最も難しいことは、現状の自分に満足することだ。前に進んでない時は吐き気がする。これまで多くの難しいを難しかったにしてきたけれど、まだまだここに書き上げただけじゃ収まらないぐらいには難しいことが多くて、どこかでそのひとつ一つに目を瞑ってしまえば、もう少し楽に生きていけそうなのもわかってる。難しいことを克服し続けることが人生を豊かにするかといったらそうとも言い切れないだろう、踏み込んでしまったことによって悩まなくて済んだこともあるはずだし。そこそこ知っているぐらいが心地良いことだってあるのだ。テスト勉強を全くしなければ恐怖を感じることがないように、目を瞑ってしまえさえすれば難しさを感じることすらないのだから。
でも今日の自分と1年後の自分が同じところを歩いていることを知ったら、何を希望に前を向いたら良いのだろう。
真に生き甲斐のある人生の生き方とは、つねに自己に与えられているマイナス面を、プラスに反転させて生きることである。
森信三先生の言葉が好きだ。
別に今の自分のことだって嫌いじゃない。こうして残した文章が好きだと言ってくれる人がいて、楽しみにしてくれる人がいて、学校に行けば自分のことを慕ってくれる子どもがいて、授業の相談に乗って欲しいと言ってくれる後輩がいて、そこまで言ってくれる人がいるのに自分のことを嫌いでいる必要があるだろうか?
ただ今に満足することが難しいというだけの話だ。まだまだ悩みたいことがある。
すべての難しい、できないには「今はまだ」という枕詞を添えるといい。難しさをきちんと分析して、埋められそうなところから少しずつ手を着けることができると、1年後の自分は意外と平気でそれをやってのけたりするんだから。
もっとも難しいことは
もっとも難しいことは
これからももっとも難しいこととして残しておこう。