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ジャーナルクラブにClaude 3を使用してみたら・・・その言語処理能力がヤバい!!第5回 番外編:MGH Case Recordの要約


主な対象者

本記事は番外編で、MGH Case Recordのエッセンスを抽出し、それに基づいた臨床推論の教育を研修医や専攻医に対して行う指導医(卒後6年目以上を想定)をサポートするプロンプトを紹介しています。
ノーコードで出来る内容を扱っています。
#ジャーナルクラブ #抄読会 #Claude #プロンプト #臨床推論 #NEJM #MGH #AIとやってみた

本記事の画像はAdobe Fireflyを用いて生成しました。

はじめに

ジャーナルクラブもそうですが、カンファレンスでのレクチャーを用意するのも時間や労力のリソース投入が多く、自身の診療・研究や管理業務、および家庭との両立が求められる指導医にはなかなか大変です。
これまでジャーナルクラブに活用できるClaude 3を用いたプロンプトを紹介してきました。

今回はリアルタイムのジャーナルを素材とした教育コンテンツの骨格を作成するプロンプトを作成してみました。

医学雑誌の中でもトップジャーナルとして知られているNew England Journal of Medicine、そこで定期的に掲載されているMGH Case Record——初学者には難解と定評がある——の内容を題材に学びを最大化することを目指しています。
この記事は、症例提示、鑑別診断についてのディスカッション、臨床診断、診断確定後の経過と転帰(治療法についてのディスカッションも含まれる事例もあり)、最終診断で構成されています。
症例提示が簡潔に的が絞られた形で進められており、得られる学びが大きいです。米国での鑑別診断の考え方に触れることが出来るのも魅力の一つでしょう(時々意外なヒューリスティックスが出てきて驚くこともありますが)。

https://www.nejm.org/toc/nejm/current

なお、今回はClaude 3 Sonnetでは質の点でやや厳しいものがあり(それでも自己学習目的なら十分得られるものはありますが)、Claude 3 Opusでの活用を推奨します。

プロンプトの前に  ファイルの添付

ファイルの添付はプロンプトを書く前でも後でも良いですが、その際の注意点です。
添付できるファイルにはサイズの上限があり、1個あたり10Mbまで(あるいは20万トークンまで)ですが、余程図の多いものでなければ大丈夫でしょう。ファイル名が長過ぎたり、ファイル名にセミコロン(;)が付いていても添付できないようです。ファイル名をバンクーバー方式(PubMedで記載されている「ジャーナル名.出版年巻(号):ページ」の方式)で保存している方は変更して添付する必要があります。

プロンプト①  症例提示

まずは症例提示です。
(ここから)

#あなたは臨床経験豊富で教育能力にも優れた専門医です。論文査読にも優れています。
#添付したファイルの内容を、教育効果を最大化する目的でプレゼンテーションしてください。
#一つずつ手順に沿って進めてください。まずは以下の指示を実行して下さい。

  1. 症例提示の部分を、以下の要素を含めて、聴き手がワクワクして、次にどんな展開があるのか聞き入ることを目指してプレゼンテーションしてください。

  • 病歴:主訴、現病歴、既往歴、その他病歴(社会歴、家族歴など)。現病歴は患者の病像がリアルにイメージできるよう、症状や身体所見の詳細を時系列に沿って述べる。病歴の途中で医療機関を受診している場合は、そこでの主要な身体所見や検査所見、受けた治療とその後の経過についても簡潔に述べる。

  • 身体所見:バイタルサイン、全身状態。以下、頭頸部所見、胸部所見、腹部所見、四肢所見、皮膚所見、神経所見について、情報が得られる範囲で過不足なくまとめる。

  • 主要な検査所見:血液検査、尿検査、画像検査、その他のより専門的な検査

(ここまで)
プロンプトの構成は、プレゼンテーションに関する定番のテキストの内容を一部修正した程度のものです。
3つ目の指示の「一つずつ手順に沿って」は、これ無しのプロンプトを入力するといきなり最終診断までディスカッションを進めることがあったので、まず「症例提示」までで区切りを持たせるために追加しました。
このプロンプトで、現病歴や事例により他の病歴項目も活用して、400〜600字くらいで良い感じでまとめてくれます。

プロンプト②  鑑別診断とその考え方

MGH Case Recordを用いて学習する時、この部分を最重視することが多いと思います。稀な最終診断となることも多いのですが、そうした稀な疾患に対しても、鑑別診断を系統的に考えてアプローチしていくやり方から学べることが沢山あります。そのエッセンスを抽出することを目指しています。

(ここから)

#続けて、以下の指示も実行してください。

  1. 鑑別診断についても、以下の要素を含めて、聴衆を魅了するプレゼンテーションを行う。

  • まず、症例提示部分のsemantic qualifierを挙げて、その症例の特徴を一文で表現する。

  • 次にそれ基づいた鑑別診断を、症例提示の文脈に依存しない形で箇条書きで列挙する。

  • その鑑別診断に基づいた、診断のためのアプローチを述べる。アルゴリズムを作成できる場合は行う。

  • 続いて、ディスカッションに基づいて考えられる主要な疾患や病態を挙げ、各々について本症例に合致する所見と合致しない所見を列挙し、可能性の高さを検討する。

  • ディスカッションで触れられていないが重要な鑑別診断がある場合は、それについても同様に、本症例に合致する所見と合致しない所見を列挙し、可能性の高さを検討する。

  • 鑑別診断を、疾患名、合致する所見、合致しない所見、本症例での可能性についてまとめて、表形式で提示する。

  • 診断に至った決め手となった所見や検査結果を示す。その所見や検査の特性(感度、特異度、結果を修飾する要因など)について簡潔に要約して示す。

(ここまで)

英語で長い病歴・・・となると、それだけでどこから着手すれば良いか分からなくなりがちです。病歴の中の症状や時間経過などを、普遍的な医学用語(もちろん日本語で)に置き換えてまとめることで見通しが良くなります。この普遍的な医学用語をsemantic qualifierといいます。この言葉に関しては、例えば以下のリンクでも説明されています。

続いて、そのsemantic qualifierに基づいた鑑別診断とそれへのアプローチをまず挙げて、その上で症例のディスカッションに引きつけて検討してもらいます。段階を分けたのは、紙幅の都合なのか時にディスカッションがやや網羅性を欠いた場合があるので、先にある程度の網羅性を持たせた回答を引き出しておく狙いがあります。
この部分は必要に応じてUpToDateなど定評のある情報源も活用していくと良いと思います。

症例でのディスカッションでは鑑別診断毎に合致する所見と合致しない所見がありますが、やはり英語のままだと大変で、これを日本語でまとめます。

最後に、症例提示に基づいて臨床的に疑われた診断をどうやって確定したのかについての要約を示してもらいます。

プロンプト③  診断後の経過と考察

診断後の経過、症例の転帰などについての部分も要約してもらいます。

(ここから)

#続けて、以下の指示も実行してください。

  1. 診断後の経過についても、以下の要素を含めて、聴衆を魅了するプレゼンテーションを行う。

  • 診断に至った後に行われた治療と、治療法の適応について述べる。行われた治療が標準的な内容でない場合は、それを選択した根拠も提示する。

  • 治療後の経過や転帰、フォローアップの要点を簡潔に記載する。

  1. 最終診断に関して、以下の内容について、一般的な内容と症例の文脈に関連した考察をプレゼンテーションする。

  • 疾患概念と疫学

  • 臨床症状と所見:典型的な場合と非典型的な場合を含める。非典型的となりやすい要因があればそれも考察する。

  • 診断法:診断基準やゴールドスタンダードとなる検査所見について。

  • 治療法

(ここまで)

前半が診断が付いた後の経過についてです。治療法については、稀な病態であったり合併症を発症したりする事例もあり、実際その症例に立ち会ったら迷うであろう場面もしばしばあります。そうした事例で時に標準的な治療と異なる選択がなされる場合もあり、その点の考察をまとめてもらいます。

後半はいわゆる「お勉強スライド」的な内容です。Webアクセスが出来ないので細かい点で自分で原典を探しに行く必要がある機会も少なくないと思いますが、骨格を作ってもらえるので全体としては時間短縮が出来ると思います。

プロンプト④ Take Home Messageを得る

(ここから)

#続けて、以下の指示も実行してください。

  1. この症例から学ぶべき重要な臨床的ポイントや示唆を3~4つの箇条書きでまとめてください。

  2. この論文のキーワードを5つ、ハッシュタグをつけて提示してください。

  3. 更に学びたい人へ、引用文献の中でおすすめの論文を3~5個挙げてください。挙げた論文一つひとつに対して、特徴を一文で記載してください。症例報告の発表年から5年以内に出版された比較的新しい論文を少なくとも1つは含めるようにしてください。バンクーバー方式でお願いします。

  4. この論文をデータベースに保存したいです。バンクーバー方式で記載してください。

(ここまで)

これまでと同様の内容です。
ただ、稀な疾患の場合など、新しい引用文献が限られていることもあり、「5年以内の論文を少なくとも1つは含める」と条件を緩和しています。
この出版年はあまり守られないこともありますが、古い文献に重要なものが多いと割り切っています。

この先、プロンプト⑤でスライドショーの雛形が作れればと思いましたが、Claude 3ではハードルが高く断念しました。

終わりに

ここまでのプロンプトを用いることで、ものの数分でMGH Case Recordを題材とした教育資料の骨格が出来上がります。あとは細かい部分の原文との整合性の確認をやったり、必要な図表を用意するなどすれば十分でしょう。Claude 3の言語処理能力は大変優れており添付のPDFファイルの要約という条件なら概ね信頼できるのですが、最後の確認は人間が行う必要があります。その点は忘れないようにしてください。

なお、4つのプロンプトを1つにまとめて一発で要約を作成するのはかなり厳しいです。そのため上記のように①〜④のステップ・バイ・ステップとしました。この方法はチェーンプロンプトと言ってClaudeの公式サイトでも推奨されています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今後とも有益な情報を発信していきますので、応援よろしくお願い致します。
本連載はまだまだ継続する予定です。

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