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【hint.610】「アルケミスト」から受け取ったもの

「アルケミスト」読了しました。

まさかこんなに骨太な物語だとは思わなかったぁ。

全世界でとんでもない数が売れている本ということだから、いろんなところでこの本の内容について議論がなされているのだろうし、きっと、「アルケミスト 感想」と検索してみれば、それこそたくさん、感想や簡単なあらすじなどもすぐに手に入ってしまうのだろうけど。

僕は今回、ただただ自分の興味のアンテナにしたがって、機会を見つけては立ち寄る本屋さんで購入し、それから約3年半の積ん読期間を経て、この度、周辺情報のほぼ無い状態で読むことを選んだ。


* * *

結果的には、その選択が効果的だったのでしょうかね。

僕にとっては、なかなかすんなりとは読み進めていけない本で、おそらく事前に書評などに触れてしまっていたら、「またゆっくり読めるタイミングで読もう」と、手元に引き寄せては本棚へもどす、ということを繰り返してしまっていたかもしれないなぁと、無事に読み終えることができた今は思う。

「面白くなくて読み進めにくい」のではなく、「いつの間にか、想像力をフルに活動させられるほど、物語に惹き込まれてしまっている」と表現したらいいのかな。

たとえば、2分間だけ時間が空いたから、みたいな細切れの時間にはなかなか触れることが難しくて、というか、そういう読み方はしたくない本だな、と感じたんですね。

なので、「読み進めにくさ」としてはそういった類のもの。


「自分」という一人の存在は、世界のあらゆるものと一体の存在なのだよ。だからね、今この瞬間のあらゆるものからの声をしっかりと受け取り、勇気をもってその声を活用していくことで、「自分」のことを待っている宝物をひとり一人が手にすることができるのだよ。

と、そのようなメッセージを、今の僕は、「アルケミスト」から受け取ったのでした。

* * *

ここからは豪快なネタバレを含むのでご注意くださいね。

物語の後半における印象的な箇所を、ここではいくつか挙げてみよう。

「人は誰でも、その人その人の学び方がある」と少年は独り言を言った。「彼のやり方は僕とは同じではなく、僕のやり方は、彼のやり方と同じではない。でも僕たちは二人とも、自分の運命を探究しているのだ。だからそのことで僕は彼を尊敬している」
 人がわしに相談に来る時、わしは未来を読んでいるわけではない。未来を推測しているだけだ。(中略)どうやって未来を推測するのかだって? それは現在現れている前兆をもとに見るのだ。秘密は現在に、ここにある。もしおまえが、現在によく注意していれば、おまえは現在をもっと良くすることができる。そして、おまえが現在を良くしさえすれば、将来起こってくることも良くなるのだ。未来のことなど忘れてしまいなさい。(中略)毎日の中に永遠があるのだ」
「夢を追求してゆくと、おまえが今までに得たものすべて失うかもしれないと、心は恐れているのだ」
「それならば、なぜ、僕の心に耳を傾けなくてはならないのですか?」
「なぜならば、心を黙らせることはできないからだ。たとえおまえが心の言うことを聞かなかった振りをしても、それはおまえの中にいつもいて、おまえが人生や世界をどう考えているか、くり返し言い続けるものだ」
「たとえ、僕に反逆したとしても、聞かねばならないのですか?」
「反逆とは、思いがけずやって来るものだ。もしおまえが自分の心をよく知っていれば、心はおまえに反逆することはできない。なぜならば、おまえは心の夢と望みを知り、それにどう対処すればいいか、知っているからだ。
 おまえは自分の心から、決して逃げることはできない。だから、こころが言わねばならないことを聞いた方がいい。そうすれば、不意の反逆を恐れずにすむ」
「地球上のすべての人にはその人を待っている宝物があります」と彼の心は言った。「私たち人の心は、こうした宝物については、めったに語りません。人はもはや、宝物を探しに行きたがらないからです。私たちは子供たちにだけ、その宝物のことを話します。そのあと、私たちは、人生をそれ自身の方向へ、それ自身の宿命へと、進んでゆかせます。しかし不幸なことに、ごくわずかの人しか、彼らのために用意された道──彼らの運命と幸せへの道を進もうとしません。ほとんどの人は、世界を恐ろしい場所だと思っています。そして、そう思うことによって、世界は本当に恐ろしい場所に変わってしまうのです。
 ですから、私たち人の心は、ますます小声でささやくようになります。私たちは決して沈黙することはありませんが、私たちの言葉が聞こえないように望み始めるのです。自分の心に従わないばかりに、人々が苦しむのを、私たちは見たくないからです」
「なぜ、人の心は夢を追い続けろと言わないのですか?」と少年は錬金術師にたずねた。
「それが心を最も苦しませることだからだ。そして心は苦しみたくないのだ」

そのほかにも、くりかえし出てくる様々なキーワードがあり、

「大いなる魂:すベてのことにあてはまる原則」
「大いなる作業:液体と個体からなっている」
「不老不死の霊薬:液体の部分」
「賢者の石:個体の部分」
「マクトゥーブ(それは書かれている)」
「前兆」
「宇宙のことば」  など

とてもユニークでスピリチュアルな世界観が印象的でした。


僕自身としては、スピリチュアルな語りには馴染みが薄いので、ズドンと腹落ちする感じはけっして強くはないのですが、なんだかじわじわと身に染みてくるような後味です。

* * *

なんだかストーリーを掴めたようで掴めない感覚と、でもまったく掴めないというわけでもない、という不思議な感覚を味わえた「アルケミスト」。

読む人がそれぞれに、いま必要な言葉を拾っては通り過ぎていく、宝箱のような物語であり、

読む人がそれぞれに、自分の想像力をフル活動させて、この物語が言わんとすることを理解しようとするけれど、きっと誰もが同じ答えにはたどり着かないであろう、「余白」「懐の深い」物語


またひとつ面白い時間をありがとう。


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