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Webクリエイターなら電子書籍作れる説・その1

電子書籍の基礎技術

 電子書籍って知ってますか。僕は最近kindle oasisがめちゃくちゃ良いという話を聞いて、乗り換えを検討しています。

 電子書籍といっても、その本体はデータです。実は電子書籍の共通規格というのは定まってなくて、世界には電子書籍の形式が無数に存在しています。何なら、PDFだって電子書籍の一種ですからね。

EPUB形式の話

 そんな電子書籍の形式の中で、おそらく一番有名なのが「epub」形式です。「electronic」「パブリッシュ(正確にはpublications)」から略してepubです。「国際電子出版フォーラム」というそれなりに公共性のある組織が定めたもので、kindleもこれを推奨しています。

 実は電子書籍の形式には大きく二つの種類があって、それは「リフロー」と「フィックス」の二種類です。web関係のお仕事をされている方はなんとなく分かるかもしれませんが、つまり形が決まっているか、決まっていないかです。分かりづらいですね。もう少し詳しく説明します。

 物理書籍と電子書籍の最大の違いは何でしょうか。それは「絶対的なかたち」の有無です。たとえば、教科書を思い浮かべてみましょう。もしも手元にそれが残っているなら、「17ページの天から2㎝、ノドから5㎝の挿絵」と言えば、同じ教科書を使っていたすべての人間が、まったく同じ挿絵を認知できるはずです。

 ところが、電子書籍はまずもって、どんなデバイスで見ているかが大きく違います。PCで見ている。スマホから、タブレットから、kindle端末ですら、バージョンによってその大きさが違います。これに対処する方法が二つ考案されました。それが「リフロー」と「フィックス」です。

 「リフロー」というのは、デバイス幅に応じて文字を折り返し、挿絵の位置を文字の位置と紐づけたりしたものです。ウェブサイトのレスポンシブデザインのようなもので、flexboxの挙動をイメージすると分かりやすいかもしれません。

 対して、「フィックス」というのはコンテンツのサイズ、位置関係を完全に固定したものです。PDFを思い浮かべると分かりやすいかもしれません。旧来の物理書籍と同じ感覚でデザインできますが、スマートフォンなどの小さなデバイスで読むとき、めちゃくちゃ読み辛いのは想像できるかと思います。

 epub形式は前者である「リフロー」にあたり、この挙動を再現するにあたってHTMLならびにXMLやXHTML、CSSなどを利用しています。画像はjpeg、gif、ping、svgなどに対応しており、最終的にはこれらのハイパーテキスト群とアセットを、ディレクトリごとzip圧縮したものが「epub」形式になります(正確に言えば、一部のファイルは圧縮しない)。そう、構造はほとんどwebサイトと一緒なんです。もともと様々な画面で表示することを想定して進化していたwebの技術が、とても扱いやすかったんですね。

webクリエイター、電子書籍の制作ちょろい説

 僕は学生時代、装丁・組版(ブックデザイン)などを主に扱う研究室に所属していたので、本のデザインについてそれなりに知っています。その上で言えるのが、「電子書籍の制作に、紙の書籍制作の知識はほとんど使えない」ということです。

 紙面のデザインというのは、書籍を作るデザイナーが、固定された版面(はんづら)にどう文字や絵を乗せていくか、どう美しく・読みやすくするか、ということを、何百年にもわたって追及してきたものです。「ユーザーの好きな端末と時間と場所で読めばえーやん」という電子書籍の思想と、根本から違うんですね。「書籍」の名前を関していても、少なくともデザイナーの観点からは書籍ではないです。

 逆に言えば、まったくお門違いと思われがちなwebクリエイターこそ、電子書籍においてはかなり有利なポジションに居ることは明白。お金になるジャンルかと聞かれれば私にはよく分からないんですが、なんとかうまいことできませんかね。

 結局そこがボトルネックな側面もあって、出版社の何が強いかと言えばたくさんの作家さんとのコネクションと、マーケティングのためのノウハウにあります。たとえ電子書籍の制作について詳しくなかろうと、それさえあればもう十分ということです。

 Amazonなんかもその辺はわかっていて、kindleで本を出そうとすると、組版とかHTMLとかわからなくても、Wordのデータから勝手に電子書籍を作ってくれるんです。すごい技術ですよね。アクセシビリティとかを考えると、決して最適化されたHTMLになるわけではないんですが、それでもほとんどの読者にとって、正しいタグが使われているかなんてどうでも良いことです。webサイトと違って、SEO対策とかありませんしね。

 でも、思うわけですよ。電子書籍って紙の本と違って「データ」なんです。たとえば紙の本だったら、オーディオブックにするには声優さんを雇って、スタジオ借りて、マスタリングしてもらって……ってしなきゃいけないところ、電子書籍なら音声読み上げソフトがあれば良いわけですよ。もちろん、音声読み上げではオーディオブックみたいな味は出せませんけど、たとえば目の見えない読者にとって、「オーディオブックが出ないようなマイナーな書籍がサクッと読めるようになる」というのは嬉しいことじゃないですか。

 そういう時、epub内部のタグがぐちゃぐちゃで汚くて、読み上げソフトが上手く読めない、とかは勿体ないと思うわけです。そういう「読みやすい書籍を作る」ってことを考えた時、僕はwebクリエイターの力が必要なんじゃないかと常々思っています。

 そんなわけで、webクリエイターなら電子書籍作れる説を提唱します。次回から、具体的な技術解説をしていきますよ。

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