「家なき子特例」細則ににじみ出る国税庁の怒りと哀しみ
私の愛読書の1つである国税庁ホームページ掲載の「タックスアンサー(よくある税の質問)」には数多くのドラマが散りばめられてます。
一例としてタックスアンサー第4124話(正確には単にNo.4124)記載の相続税制に関する「小規模宅地等の特例」を見てみましょう。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
本特例対象は相続財産としての特定事業用宅地、特定貸付事業用宅地、並びに特定居住用宅地の3つに大別できますが、ここでは特居住用宅地、すなわち亡くなられた方の自宅(土地)のケースに焦点を合わせてみます。
結論としていえることは、本特例はとても優しく心が温まるものだということです。
それは難しい話ではありません。
例えば夫を先に亡くした妻が、または両親を亡くした同居の子供等が図らずとも不動産価値の高い場所に住んでいても、遺族として相続税負担にあまり悩まされずに安心して同じ家に住み続けることを可能にするものです。
具体的には相続した自宅土地の財産評価を一定の面積までは80%減額して相続税ができるだけかからないように設計されています。
更には亡くなった方に配偶者や自宅同居親族がいない場合には、それ以外の親族ですら相続発生の3年以内に自分またはその配偶者名の持ち家に住んでいないことを条件にこの特例の対象者になることができます。
これは通称「家なき子特例」と呼ばれているもので、例えば何らかの事情で実家から離れ借家に住んでいる子供が親の死を知らされて「実家を継ごう」と決心した場合にも、その心意気を税制面からサポートする心優しい配慮に見受けられます。
このような特例の「家なき子該当要件」として平成30年に以下の2点が追加されるという「事件」がありました。
① 相続開始前3年以内に日本国内にある取得者、取得者の配偶者、取得者の三親等内の親族または取得者と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除きます。)に居住したことがないこと。
② 相続開始時に、取得者が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと
この2つの追加条件を読む限り、本来の「心温まる」主旨を超えた以下のような特例適用の申請が行われたことが想像できます。
(①のケース)
「よし、今の自宅はオレが所有している会社に渡してしまい、そこから社宅として借りている体裁さえ整えれば家なき子になれて特例が使えるぜ」
(②のケース)
「よし、オレの自宅は子供にくれてやろう。そこでの贈与税なんてたいしたことない。そうすればオレも子供の家に同居する”家なき父さん”として特例が使えるぜ」
税務に関することに限らず社会保障関連の申請に於いても、それを管理運営する関係省庁や自治体は「条文が分かりにくい」「適用要件が厳しい」「提出する書類が多すぎる」「手続きが煩雑だ」「対応スピードが遅い」等々の批判を浴びることがあります。
しかし、そうならざるを得ない、またはそうせざるを得ないことの理由はこの「家なき子特例」への細則追加からも明らかです。
客観的な状況証拠からすれば本来の主旨から逸脱しているとしか思えないような申請を受理せざるを得なかった時、また再発防止策として新たな細則の文案を隙がないように推敲する時、国税庁担当者の方々は一体どのような気持ちでいたのでしょうか。
本改正に対応した関係者のぶつけようのない怒りや哀しみに想いを馳せて、私はタックスアンサー「第4124話」を静かに読み終えたのでした。
追記 :
コロナ禍での持続化給付金詐欺事件の横行は記憶に新しいところです。
持続化給付金は新型コロナウイルス蔓延の影響で経済活動が著しく停滞した中での事業の継続を支えるため、支給までのスピード感を優先させることが政治的にも求められました。
その結果として、緩やかな要件、緩やかな提出書類、更には2019年度確定申告期限の延長という配慮も重なり、多くの不正受給者を出現させました。
申請手続き等に対して多くの書類提出を求め時間を掛けて慎重に審査することは「お役所仕事」と揶揄されることがあります。
しかし性善説的対応が不正受給に利用されてしまうことが最たる「税金の無駄遣い」の1つであることに間違いはなく、申請への審査は慎重であるべきで、違反者には「徹底的に割が合わない厳罰」を課すような法改正が必要と強く思います。
当FP事務所はあくまでも正攻法にて「世の中の仕組みとルールの背景を可能な限り解き明かし、退職前とその後のキャッシュフロー管理、そのユニークな税制を踏まえた金融資産運用、社会保障制度活用、生命保険設計、不動産投資、相続・事業承継設計等の最適化案」を提案致します。