見出し画像

「全部同じ曲じゃん」ブルースを読む#1


みなさんはブルースという音楽を聴いたことがあるだろうか。今どきラジオでもなかなか流れないので、ない方も多いだろう。
聴いたことがあるなら、軽音部の先輩がとりあえず基本だから聴いとけと押し付けてきた、好きなバンドがルーツだと公言していた、などなど理由はさまざまだろうが、何曲か聴いて誰もが同じ疑問を抱くのだ。

これ、全部同じ曲じゃね?と。
いや、ちょっと待って欲しい。ブルースを少しかじった立場から言わせて欲しい。全くその通りです。


なんで同じに聴こえるの?著作権は?

これにはいくつか理由がある。著作権についても詳しく後述するので、まずは〈同じに聴こえる曲〉を比較してみて欲しい。どちらも1分も聴けば十分です。

Magic Sam / Sweet Home Chicago
Robert Jr. Lockwood / Take a Walk with Me

いかがだろうか。
メロディーやコード進行など、あらゆる点で酷似している。ていうか歌詞まで同じじゃない?そう思った方は賢明です。半分くらい同じです。では、理由を一つずつ解説していこう。


理由① コード進行が同じ

ブルースがセッションの登竜門とされるゆえんはほぼここにあると言っていい。
コードとは音の重ね方のことであり、コード進行とはその並べ方である。
なんとセッションで頻繁に演奏されるブルースには、ほぼほぼコード進行が1種類しかない。
ひたすら繰り返される12小節の中に物語を紡いでいく。そんな奥深い世界が広がっているのだが、ぶっちゃけ全部同じに聴こえるのだ。


理由② リズムも同じ

メロディー、リズム、ハーモニー。音楽の三大要素と呼ばれているが、ハーモニーに続いてリズムまで同じであることもある。
この手のブルースをセッションでやる際、大抵は「シャッフルで」と指示するだけで全員理解してしまう。それくらい、ブルースでは一般的なリズムなのである。もちろんスローや2ビートなどバリエーションはたくさんあるが、とにもかくにもシャッフルだったりする。


理由③ そもそも同じ曲

もう禁止カードだろってくらい身もふたもない話なのだが、「同じ曲」を微妙に歌詞を変えて歌っていたり、元曲もパクリ曲も両方普通に有名になってしまうケースがブルースの世界ではままあること。この辺については後ほど著作権と絡めて解説する。
というか先ほど挙げた2曲ももはや同じ曲である。Sweet Home Chicagoという曲は、"悪魔に魂を売って"ギターの腕を手に入れ早逝したとされる Robert Johnsonの作曲とされており、後者のTake a Walk with Meはその義理の息子というRobert Jr. Lockwoodの作である。父の曲を受け継いだと思えば、何ら不思議ではないのだ。
ブルースを何曲か聴いていると何度か直感的にアレと同じだなと思うことがあるが、その場合大抵は勘が当たっていると思っていい。

さて、他にもあるにはあるが以上3つが主に似ていると感じられる理由である。コード進行(ハーモニー)、リズム、そもそも同じ曲(メロディー)と三要素揃っていれば、むしろ違う曲と認識する方が大変というものだ。



ブルースと著作権

さて、そこまで同じ曲ならなんで著作権が火を噴かないのか?というもっともな疑問が浮かんでくるだろう。これには複雑なアフリカ系黒人の歴史を紐解かねばならないほど複雑な理由があるのだが、ざっくりと解説していく。

理由① 黒人を守る法はなかった

1865年の南北戦争終結以降、奴隷の身分から解放されたアフリカ系アメリカ人たちは徐々に人権を取り戻していくが、1960年代の公民権運動までは人権などあってなかったようなものだったという。
レコード会社の著作権管理や印税の支払いなども相当ずさんだったとされ、盗作など訴えても相手にされなかったのではないかと考えられる。
一応60年代後半以降にはLed Zeppelinが無断でブルースを引用してはよく負けている。

理由② 共有の財産

ブルースのルーツとは、古くはアフリカンミュージックまでさかのぼることになるが、直接的なルーツはアフリカ系アメリカ人奴隷が農作業中に歌っていたというフィールド・ハラーワークソングにある。それらの歌は各地の農園に広まり、同じような歌詞とメロディーが広まっていく。そして歌い手の気分や感性によって少しずつ形を変えていき、似たような曲が別の曲として広まっていく。
こうして無意識化で広まった民謡や、共有されていった特定の権利者を持たない楽曲をコモン・ストックと呼ぶらしい。実際にシカゴブルースに至るまで、コモン・ストックを利用して組み立てられた曲は多い。


いかがでしたか?

ネガキャンのような内容になってしまったが、自分はそれでもブルースが大好きだし、同じように聴こえるからこそその理由や細部の違いを楽しめるようになっていく。
ブルースはもはや民族音楽と呼べるほどの歴史をもつジャンルであり、知れば知るほど味が出るものだ。もしもこの記事が読者の好奇心をわずかでも刺激したなら幸いである。

もし次があるなら同じに聴こえないブルースでも特集してみたいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?