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本当に帰りたかった場所

“本当に帰りたかった場所”
それは自身の内側にあって、自分でも気付けないほど奥深くにある。
右も左も上も下も、なにも分からない。
真っ暗なところに身を置いて、まずはじっと目を瞑るように静かに観察する。
すると、少し離れたところから、ちらちらと微かな灯が見えてくる。
その光はそっと近づかないと消てしまうほど弱々しく、目を離すといなくなってしまう。
だから真っ暗な中をその方向へむかい、ゆっくりと確かに一歩ずつ近づいていく。
灯まで辿り着いた途端、辺りは再び真っ暗になる。
そして次の灯が合図を送ってきたとき、わたしはその方へと進んでいく。
ずっとずっとこの繰り返し。
しばらくすると、ぼんやりとなにかが見えてくる。
離れたとこにあったはずの景色が、気付けばわたしを包み込んでいる。
その行き着いた場所こそが、“本当に帰りたかった場所”だと知った。

スキャン 9

わたしにとって、作品をつくることは、“本当に帰りたかった場所”に帰るための手段であり、辿り着くまでの道のりが制作のプロセスである。
その場所は自身の内側にあるが、そこへ導く微かな灯は外界が照らすものである。
風と共に揺らめく湖の水面、堂堂と聳え立つ山々から流れる川の音、長い時の中で変化し続ける石の形状、あらゆる境界を一つに融合させる夜の闇、無数の粒子が交流する星空…
そんなどこにでもある風景や出来事が、微かな灯となりわたしを導いてくれる。
それら目に見えるものだけでなく、目に見えない不確かなモノを感じることが、“本当に帰りたかった場所”への探究心を高め、制作の原動力となっている。

環境が変われば、外界から受けるものも自然と変化する。
大町で体感したことのすべてが、わたしを導く灯となり、この土地でしか辿り着けない“本当に帰りたかった場所”が現れるだろう。

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このテキストとドローイングは、信濃大町 あさひAIR 『生まれたて天国』滞在制作成果発表展にあわせて書いたもの。約1ヶ月、長野県信濃大町市に滞在し、蔵を会場にインスタレーション作品を制作しています。
わたしの作品は今後も残るものであり、レジデンス後も大町に滞在し、来年1〜2月完成を目指し制作中。そのため、今回の展示では公開制作として現時点の作品をご覧いただきました。
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室内は現在こんな状態。
壁や床に直接描き、この場とイメージが融合し新たな現象を起こしたい。
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制作前に描いた作品のイメージドローイング
ビジュアルはすでに違うけれど、行こうとしている方向は変わっていない。

あさひairスケッチs

冒頭のテキストは「なぜ自分が作品をつくっているのか」今まで不明確だったものが、高見島と大町で制作する中で見えた現時点での答え。
上手く言葉にできていないこともあるし、ぜんぶ言葉にしなくていいとも思うけれど、自分にとって大事な文章になったので、ここに公開しました。

高見島の作品《内在するモノたちへ、》が完成し、ガラス戸を開けて真っさらな状態で作品を観たときに、「あぁ、自分はここに帰りたかったんだ。」って思いが沸き起こり、その時すごく心が動いたのを感じた。
たぶん、これがすべてなんだろうと思った。

いま大町での制作は、そうした高見島で感じ得たものを、ひとつひとつ再確認する作業をしています。
みんなと過ごすレジデンス期間は終了し、ここから1〜2ヶ月は一人レジデンス。
大町でしか辿り着けない“本当に帰りたかった場所”にいくぞ。

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