Yくん の小学校のサッカー部

Yくん は小学校でサッカー部の一員だった。
テレビでも小学生時代のキャプテン翼が放送されていた頃だったから、野球部と人気を二分していた。
兄が二人ともサッカーをしていたこともあり、当然のようにサッカーを始めたYくん の小学校は、市内ではそれなりに強かった。

たまには近くの小学校と練習試合をしたこともあったが、ほとんどの場合は練習ばかりだった。
その頃は、水を飲むとバテるから、休憩時間に水を飲むことは認められておらず、水道に並ぶ選手の前に先生が立って見張っていた。それでも練習は楽しかった。

6年生の最後の大会のことだ。田舎だから小学校がそれ程多いわけでもなく、いつも通りの対戦相手と戦って、同じようなスコアで勝利したYくんの小学校は、初めてスポーツ少年団と対戦することになった。
スポーツ少年団とは、小学校とは別に上手い子が集められたチームで、とても強いという噂はYくん達の耳にも入っていた。

試合当日、会場のグラウンドでは、初めての対戦相手であるスポーツ少年団の数名のメンバーと挨拶を交わした。市内のイベントで小学校6年生の希望者を集めてリーダー交歓会なる宿泊研修があり、そこで仲良くなったメンバーがいたからだった。
お互い頑張ろうな、という笑顔の宣戦布告をしたYくんは、練習をしっかり積んできた自負もあり、気力充実、いい試合ができる気がしていた。

試合開始早々、格の違いを見せつけられることになる。ボールをセンターラインより前に前に運ぶことができない。Yくんの元に来たボールを目の前でさらわれる。試合前に挨拶を交わした仲良しメンバーがインターセプトしたのだ。こちらだけが走り回っているように感じられた。当然、相手も走っているのだが、表情は正反対だった。
次々に失点が重なり前半で4対0。

ハーフタイムでベンチに戻ったメンバーは監督の話を聞いた後、水を飲むだけで黙り込んでいる。
Yくんはベンチに座って水筒を抱えて相手チームにもチームメイトにも目を向けることなく、呆然としていた。気づくと涙が流れてきた。感情が高ぶり身体が震える。声を押し殺すことがやっとだった。チームメイトの一人が気づいて肩を組んできた。絶対に止めてやる、やり返してやる、とチームメイトと自分に言い聞かせる。が、涙はハーフタイムが終わるまで止まることがなかった。

後半も一方的な試合だった。歯を食いしばって走り回り、精一杯声を出してて抵抗した。
結果は8対0で試合終了。
試合後の挨拶が終わると、試合前と変わらずにリーダー交歓会仲良しメンバーが挨拶に来た。何の嫌味もなく、お疲れさまと言い、Yくんもお前らやるなー、次がんばれよ、と言って別れた。

Yくんは大人になっても、ハーフタイムの涙を思い出すことがある。その時、小学6年生の時と変わらずに涙がこみ上げてくる。でも、大人になったYくんは、その涙を飲み込むことができるようになった。

ちなみに、Yくんは男ばかり3人兄弟の末っ子である。
写真はほとんど存在しない。

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