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【薬剤師】痩せる薬について

こんにちは。やまぶきです。
今回もnoteをご覧いただきありがとうございます。

2月22日に販売された肥満症治療薬「ウゴービ」、4月8日に販売される国内初の内臓脂肪減少薬「アライ」が話題になっています。

そこで、今回は効果や購入の条件、懸念されることなどについて、まとめたいと思います。


1.ウゴービ

肥満症治療薬「ウゴービ」が2月22日に発売され、保険適用の対象となりました。「ウゴービ」(一般名:セマグルチド)とは、いわゆる「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれる薬の一種で、体内で「インスリン」というホルモンの分泌を促します。

ウゴービは週に1回、自分で皮下に注射するディスポーザブルの注射器を用います。注射器と言っても、先端に針のついた筒状の自動注入器であり、キャップを外して、アルコール綿で消毒したお腹の皮膚に筒を突き立てるだけで自動的に注射されるため、うまく注射できるか心配する必要はありません。

最初は0.25mg製剤で4週間治療し、次は0.5mg→1.0mg→1.7mg→2.4mgと4週おきにステップアップし、最終的に2.4mgで週1回の治療を続けることになります。

同じ成分であるセマグルチドを福myオゼンピックの最大投与量が1.0mgなのに対して、ウゴービは2.4mgとだいぶ多くなっています。その分、ウゴービは体重減少効果も含めて作用は強く、糖尿病のない肥満症の方も治療薬として使用できることになります。

日本を含む東アジアで実施された臨床試験では、治療開始後68週の時点で、体重が11.4kg、率にして13.2%も減少しました。体重以外では、腹囲が11cm細くなり、血圧は11mmHgほど低下し、血糖値も低下しました。

2021年3月に米国の『ニューイングランド医学誌(NEJM)』に掲載された臨床試験では、ウゴービを投与したところ、投与開始から68週の時点で体重を14.9%も減少させました。

ウゴービの処方の対象は以下の通りです。

▼BMIが27以上で、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のうち2つ以上を合併しているもの。
▼BMIが35以上で、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のいずれかを合併しているもの。
▼十分な食事療法、運動療法を行っても減量できなかった人に限られる。

厚生労働省は「肥満症以外での痩身、ダイエットなどを目的に使用することはできず、適応外の使用でも重大な副作用が生じるおそれがあるため注意が必要だ」とし、適正使用を呼びかけています。

ウゴービは消化器に影響するため、吐き気や下痢、便秘などの副作用が出たり、食欲を抑えるのでメンタルに影響を及ぼす可能性もあります。また、肥満の程度が低いと副作用がより強く出る可能性もあります。

2.アライ

4月8日に発売される内臓脂肪を減らす薬「アライ」。内臓脂肪と腹囲を減少させる効果が期待できる薬で、医師の処方箋なしで薬局で購入できます。生活習慣の改善に取り組むことが条件で、対面で薬剤師のチェックを受ける「要指導医薬品」に位置づけられます。

用法・用量は1日3回、1回1カプセル、食事中あるいは食後1時間以内に服用するものです。販売価格は30日分の場合、税込み8800円となります。

大正製薬の担当者によると、1年間服用するとと、内臓脂肪面積は約20%、それから腹囲については約5%、それぞれ減少することが確認されていると言います。

体内に入った脂肪は、小さく分解され小腸に吸収されることで肥満の原因になりますが、「アライ」は体内で脂肪が分解されるのを防ぎ、食べた脂肪の約25%を体外に排出することが期待できるといいます。1カ月あたり体外に排出されるカロリーは、4000キロカロリー。これは20時間、ウォーキングするのと同じ効果があるといいます。

アライの購入の対象は以下の通りです。

▼18歳以上で、腹囲が男性は85センチ以上、女性は90センチ以上。
▼服用の3か月前から生活習慣を改善している人。運動と食事は服用中も継続しなくてはならない。
▼「高血圧」や「2型糖尿病」など、原則、肥満に関する健康障害のない人に限られる。

こういった人に関して、研修を受けた薬剤師が「購入前3カ月以上の生活習慣改善の取組みと、購入前1カ月の生活習慣と腹囲や体重」を記録した上で、チェックシートで確認するなど対面で販売します。チェックシートの「運動はしていますか」「こういう薬を飲んでないですか」など20個ぐらいの設問に答えていく形になります。

すなわち、太り気味を気にしている人が誰でも購入できるかというと、生活習慣改善を取り組んでいる方のための補助的なお薬なので、ダイエット目的のいわゆるやせ薬としては販売していません。

副作用として、便を伴う放屁、油漏れ、脂肪便、便失禁などの消化器症状が挙げられています。

3.まとめ

4.肥満症について

日本でのウゴービの適応症は、
・BMIが27以上で、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のうち2つ以上を合併している
・BMIが35以上で、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のいずれかを合併している

アメリカでの成人におけるウゴービの適応症は、
・BMIが27以上で、少なくとも1つの体重に関連した併存疾患(高血圧、脂質異常症、2型糖尿病など)を有する
・BMIが30以上

EUでのウゴービの適応症は、
・BMIが30以上
・BMIが27以上未満で、少なくとも1つの体重関連合併症(高血圧、脂質異常症、2型糖尿病など)を有する

日本では、欧米に比べて、ウゴービで治療を受けるためのハードルがかなり高いことがご理解いただけます。これはどのような科学的根拠によるのでしょうか?

日本人を含むアジア人は、白人と比較して、肥満による健康障害をより起こしやすい。また、同じ体重で比較した場合、白人よりアジア人は2型糖尿病の頻度が高い、という報告があります。 肥満症として治療を開始する基準も、アジア人は白人よりも低く設定すべきです。ところが、ウゴービの治療適応は人種にかかわらず一定です。人種によってウゴービ治療の恩恵を受けにくいことがEconomist誌でも問題点として指摘されています。人種の特性に応じて、適した治療開始基準を定めるか、基準に柔軟性を持たせるべきです。では、日本のウゴービの治療開始基準が欧米よりタイトなのはなぜでしょうか?

日本では『肥満は自己責任』という考えの人が医療従事者を含めて多いです。太っているのは食欲を抑えられず、運動もしない自己管理の悪さが原因だ、太っているのは意志が弱いからだ、とする論調です。肥満を慢性疾患であり、治療対象とする世界の潮流とは大きく異なります。 特定保健指導のデータからわかるように、食事摂取や運動など行動を変容させて減量することは、ほとんど不可能なのです。今こそ自己責任論から脱却して、肥満を慢性疾患として捉え直し、効果的な減量方法を必要な人が受けられるようにすべきです。

肥満は慢性の病気であり、治療対象とすべき、との認識が医療界の常識です。肥満には遺伝的背景、腸内細菌、また肥満を起こしやすいことが知られている超加工食品の普及や、それに頼らざるを得ない低所得者に肥満が多い経済格差など、個人の責任に帰すことができないさまざまな要素が関連しています。

また、ノボ・ノルディスクが「ウゴービ」のアジアにおける販売を日本から始めた背景には、このようなダイエット大国であることに伴う人々の意識の問題があります。

肥満が病気であるという認識が低く、偏見も強いことが「ウゴービ」を日本で発売した理由のひとつだと、同社日本法人社長のキャスパー・ブッカ・マイルヴァン氏は、説明しました。

日本は肥満の問題を抱えてないように見えますが、実は2020年の調査によると、男性の肥満割合は増えており、20代では過去30年間で倍増しています。厚生労働省の最新データによると、日本では男性の約33%、女性の約22%がBMI25以上となっています。一方で、アメリカでは、男女ともに約43%がBMI30以上です。

世界的には体格指数(BMI)が30以上を肥満と定義しているが、日本人は30未満でも肥満に関連した健康障害を起こしやすいため、日本肥満学会では25という低い基準値を用いています。肥満の定義は異なるが、日本の肥満率はアメリカやヨーロッパとそこまで変わりません。

Science誌が2023年のブレークスルーに選定しているほど、セマグルチドなどのダイエット薬は画期的な治療薬です。ぜひ今年こそ肥満症の人でダイエットに成功する人が増えることを願いたいです。

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