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【薬剤師】ポリファーマシーについて

こんにちは。やまぶきです。
今回もnoteをご覧いただきありがとうございます。

超高齢社会の到来や診療科の細分化により、1人の患者が複数の医療機関を受診する機会も増えるようになりました。そこで、複数の医薬品を服用することで健康被害などを引き起こす「ポリファーマシー」が問題になっています。ポリファーマシーが起こる要因の1つとして、薬による有害事象を新たな病状として誤認してしまう、「処方カスケード」が知られています。ポリファーマシーと呼ばれる多剤併用における重複投薬や薬物間相互作用のリスクを楽観視してはいけません。

厚生労働省も2019年6月14日に『高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)』を公表しました。今後、高齢者に対するポリファーマシーの議論が進むものと思われます。

今回は、ポリファーマシーについてまとめたいと思います。


1.ポリファーマシーとは?

ポリファーマシーとは「poly(複数)」+「pharmacy(調剤)」からなる言葉で、多剤服用や多剤併用により、副作用などの有害事象を引き起こすことを指し、多剤併用の中でも害をもたらすものを表します。単に服用する薬剤の種類や量が多いというだけではポリファーマシーではありません。必要以上の薬剤が投与されている、または不必要な薬剤が処方されていることで、薬物有害事象のリスク増加や服薬過誤をはじめ、服薬アドヒアランス低下などの問題を引き起こす可能性がある状態のことを指します。

何剤以上がポリファーマシーという明確な定義はありませんが、厚生労働省のデータでは6剤以上が有害事象を起こしやすいことがわかっています。そのため、6剤以上の処方箋を受け取った時、どう対応すべきか考えることが必要です。

少子高齢化が深刻な日本では、高齢の患者が多いだけでなく、医薬品を多剤服用する患者さまが多いのが現状です。そのため、重篤な副作用などの有害事象が生じやすい状況(=ポリファーマシーが顕在化している状況)にあります。

ポリファーマシーによって引き起こされる有害事象は様々です。高齢者に多い順で挙げると、意識障害、低血糖、肝機能障害、電解質異常、ふらつき、転倒などといった事象がよく見受けられます。こうした有害事象を引き起こす可能性がある処方箋を受け取った際は、薬剤師として適切な対処が求められます。

2.ポリファーマシーを引き起こす背景について

ポリファーマシーが起きる背景の一つとして考えられるのは、急速な高齢化です。複数の疾患を抱え、様々な診療科を同時に受診することの多い高齢者は、足し算的に服用薬が積み重なる可能性があるのです。認知症を有する方も多く、服薬コンプライアンスの低下により、薬を正しく飲めていないというケースも珍しくありません。医師は薬を正しく服用していることを前提としているため、過剰に薬を処方してしまうことがあるのです。

また、多くの疾患を持つことによる複数の診療科・医療機関受診によって、その後に複数の薬局を利用することで、処方薬の全体を一元的に管理できていないことが考えられます。結果として、薬物有害事象や服薬アドヒアランス低下などの問題まで発生してしまいます。

また、薬の副作用や相互作用を、新たな疾患や症状と医師が勘違いし、新たな薬物の処方をくり返す「処方カスケード」も起こり得ます。さらには医療技術の進歩により使用される薬剤数が増えたことや、国民皆保険制度により医療機関へのアクセスが容易な環境もポリファーマシーの要因と言えるでしょう。最終的に重症化し、救急車で搬送されるということもあり得ない話ではありません。

これらの解消には、かかりつけ医・かかりつけ薬剤師などによる、薬剤処方状況の把握が求められています。薬局の場合、処方薬の一元管理、市販薬の服薬状況、お薬手帳の有効活用…などに積極的に取り組む必要があるでしょう。

3.ポリファーマシーの問題点

ポリファーマシーの最大の問題点は、「有害事象の発生」です。有害事象とは、薬剤との因果関係がはっきりしないものを含め、患者さまに生じたあらゆる症状・兆候・疾病・副作用のことです。意識障害や低血糖、肝機能障害など、重篤なものも少なくありません。ふらつきや転倒が骨折の原因となり、QOL(生活の質)を大きく低下させることもありえます。

また、複数の薬剤が処方されることは、国民医療費の高騰にも繋がると言った問題もあります。2018年度に医療機関に支払われた概算医療費は、前年度より3000億円増えて42兆6000億円となりました。国民医療費のうち大きな割合を占めている調剤医療費は、ポリファーマシーと密接な関係があると考えられています。

4.処方カスケードとは?

処方カスケードは、服用している薬による有害事象が新たな病状として誤認され、それに対して新たな処方が生まれる処方の連鎖をあらわしています。カスケードとは小さな連なる滝を意味しており、1つの薬による副作用が生じ、新たな薬による対処が生まれていくことを図示すると、小さな連なる滝のように描かれることが語源となっています。


5.処方カスケードを引き起こす背景について

処方カスケードが起きる要因には、どのようなものがあるのでしょうか。ここではいくつかの項目に分けて、それぞれ解説していきます。

(1)処方薬が漫然と投与されている

以前に罹った疾患の治療薬で、すでに症状が安定している場合、もしくは治癒している場合では、薬の服用が必要なくなっている場合も少なくありません。

しかし、Do処方により無意味に薬が投与され続けるなど不必要な薬の服用継続により有害事象があらわれ、処方カスケードが引き起こされるケースもあります。

(2)服薬アドヒアランスが低下している

処方された薬を患者さまがきちんと服用しておらず、アドヒアランス低下をきたしている場合にも注意が必要です。医師が状況を把握できておらず、処方薬の効果が出ていないととらえた場合には、現在処方中の治療薬の増量やさらなる薬の追加が行われることもあります。

(3)医療機関と薬局、薬局間の連携が取れていない

処方カスケードは、患者さまが複数の医療機関を受診しており、医師が薬の処方状況を把握できていないケースで起きやすくなります。これはかかりつけ薬局やお薬手帳の活用により解消に向かいますが、それだけでなく医療機関と薬局の連携や、薬局間の連携も今後さらに重要度を増していくでしょう。

6.ポリファーマシーと処方カスケードの関係は?

処方カスケードは、ポリファーマシーが起きる原因の1つです。

ポリファーマシーでは、複数の医療機関受診による足し算的な処方が原因の1つとして考えられていますが、処方カスケードは1つの医療機関、1人の医師の処方によっても起こりうることが特徴です。歳を重ねるほど複数の疾患をかかえやすく、処方される薬剤の数も増える傾向にあります。処方カスケードを防ぐとポリファーマシーの解消にも近づくため、高齢者の薬物療法における安全性を高めるために、近年注目を集めています。

7.ポリファーマシー解決に向けて、薬剤師にできること

(1)処方箋を応需したら

まずは、予防薬のエビデンスが適切か確認しましょう。処方薬の効果が出ているか確認するために、患者さまへヒアリングすることも大切です。「症状が変わらない」といった場合には、薬物療法以外の方法も検討してください。

こうした流れの中で大切なのは、患者さまのご意向をしっかりと確認することです。病態など状況は患者さまによって異なるからこそ、「患者さまにとって有益かどうか」を軸に判断することが必要となっています。そのことを忘れずに取り組みましょう。

ご意向を伺えたら、医師や病院薬剤師に情報提供できる環境を整え、要点をまとめて情報提供を行うようにしてください。

(2)お薬手帳の活用

現場におけるポリファーマシーの解決策は、「お薬手帳」の活用です。お薬手帳とは、患者さまごとに作成される服用薬剤の記録帳で、薬剤師が服薬状況を確認するためのツールです。お薬手帳があれば、他の医療機関で処方された医薬品を確認できますし、多剤併用による重複投与や薬物相互作用を未然に防ぐことができると期待されています。

かかりつけ薬剤師による一元的管理が進められていますが、いまだに複数の薬局を利用する患者さまも少なくありません。だからこそ、お薬手帳の活用が推進されているのです。

(3)高齢者への対策

過去に例のない超高齢社会を迎えた日本では、高齢者に対する薬物療法の需要が高まり続けているのが実情です。高齢者は、加齢に伴う生理的な変化によって、薬物の動態や反応性が一般成人とは異なります。結果として、薬剤同士の相互作用が起こりやすいため、ポリファーマシーの改善が強く求められています。

そのような高齢者に対する薬物療法の指針として、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」が日本老年医学会より提唱されています。高齢者に処方されやすい医薬品について、推奨される医薬品と中止を考慮すべき医薬品の使用方法をまとめたもので、推奨や中止の根拠をはじめ、代替薬の例などが記載されています。薬剤師はこれらの薬物によって引き起こされるリスクを把握し、アドバイスや処方提案をすることが求められています。

(4)減薬

現代の医療では、症状の抑制を優先して薬剤を処方することが多く、症状が悪化した場合は薬剤の種類や量が増える傾向にあります。しかし、服用する薬剤の種類や量に比例して副作用のリスクが高まることがわかり、「減薬」の必要性が認識されるようになりました。

2016年の診療報酬改定にて、「薬剤総合評価調整管理料」や「薬剤総合評価調整加算」が新設。減薬に対する取り組みが評価されるようになりました。6種類以上の薬剤が処方された患者さまに対し、当該処方の内容を総合的に評価および調整し、2種類以上減薬した場合に算定が認められています。2018年には、「服用薬剤調整支援料」が新設されました。薬剤師が文書を用いて提案し、少なくとも1種類が減薬された場合に、評価が行われるようになりました。

(5)残薬管理

ポリファーマシーと同時に、処方された薬剤の飲み残しである「残薬」も大きな問題となっています。2007年に実施された日本薬剤師会の調査では、薬剤師がケアを続ける在宅患者 812人のうち、4割以上に薬剤の飲み残しや飲み忘れがあったことが報告されています。

残薬の発生を防ぐためには、薬剤師による服薬情報の管理が不可欠です。患者さまが服用している薬剤や併用薬、嗜好品、アレルギー歴だけでなく、実際にどのように服用しているのか、コンプライアンスやアドヒアランスについても、患者さまやほかの医療従事者と情報共有することが求められています。

(6)情報提供の流れ

ポリファーマシーの問題を解消するためには、「患者さまとのコミュニケーション」も欠かせません。薬剤師と患者さまとの間に信頼関係を築けなければ、これらの問題を解決するのは困難です。日ごろから患者さまとしっかり向き合い、病態だけでなく治療状況や生活環境まで把握することが求められています。

また、「薬をたくさん処方されないと不安」と感じる患者さまが多いことも多剤併用の一因です。副作用のリスクや減薬の必要性を理解していただくのも薬剤師にとって重要な責務。良好なコミュニケーションにより、服薬の問題点を見つけ出すことが期待されています。

さらに、情報提供ができる環境を整える必要があります。病院や病院薬剤師などの医療関係者に対して、「トレーシングレポートを受け入れてもらえるか」などを伺います。受け入れてもらえるのであれば、いつ誰から得た情報か、具体的にどのような状況か、薬局でどのように対応したかなど患者さまに関する情報を提供しましょう。

ただ患者さまの希望を書くだけではなく、薬剤師の目線を持って情報を提供することが大切です。たとえば、患者さまが減薬を希望していると伝えるだけではいけません。薬剤師の目線で見た時に、なぜ減薬が必要なのかという根拠を添えて、「…だから患者さまのためにも減薬が必要と考えます」と伝えることがポイントです。

情報を提供するだけで医師に丸投げにならないようにしてください。薬剤師による提案も、ポリファーマシーの解決に向けて欠かせないプロセスのひとつです。

8.在宅医療でポリファーマシーは解決できるのか

高齢な患者さまの多くは、病気になっても自宅などの住み慣れた環境で療養を望んでいます。同時に、医療機関や介護保険施設などの受け入れにも限界が生じつつあり、医療提供体制の基盤の一つとして在宅医療には大きな期待が寄せられています。

実際に、在宅医療を基盤とした地域包括ケアシステムの実現を目指す中で、日常的な訪問診療に対応する医療機関の数は増加しつつあります。その中には、無菌調剤室を備えた薬局や、健康サポート機能を備えた薬局もあり、薬局の機能はますます多様化しています。

在宅医療では、薬剤師が患者さまの自宅や施設を訪問し、服薬の状況を把握することで安心・安全な薬物治療の確保が期待されています。また、服薬状況や保管状況を確認することにより、ポリファーマシーの解決にも繋がります。さらに、1週間分の薬剤を服用タイミングごとに小分けしポケットに入れる吊り下げ型・ケース型の「お薬カレンダー」や、服用時間ごとに小分けしケースにセットしておいた薬剤が自動で出てくる「服薬ロボット」などを活用した取り組みも増えており、これまで以上に充実した服薬ケアが進められています。

9.まとめ

ポリファーマシーは多剤服用や多剤併用により、副作用などの有害事象を引き起こします。その結果、医療費の増大のみならず、副作用の発現により健康被害が起きる可能性があります。この解決に向けて、薬剤師の積極的な取り組みが求められています。

処方カスケードやポリファーマシーの問題を解決するためには、ただ単に医薬品の数を減らせばよいというだけでなく、処方医やかかりつけ薬剤師、コメディカルなどの複数の医療スタッフがそれぞれの立場から得られた情報を共有し、医薬品の適正使用をすすめることが重要です。

また、安心・安全な薬物療法をするためには、医薬品の専門家である薬剤師が患者ごとの服用薬剤を把握し、適切な投与設計を行うことが求められています。医師や病院薬剤師と連携するのはもちろん、患者との良好なコミュニケーションを心がけましょう。患者から信頼される薬剤師になることが、ポリファーマシー解決への近道となるはずです。

患者さまからのヒアリングや、医師や病院薬剤師に対する情報提供以外にも、医療機関ごとに点在する患者さまの病気に関する情報を収集することも欠かせません。だからこそ、薬剤師は地域の医療機関との関係強化も大切な仕事と言えるでしょう。

処方箋を応需したら、ふと立ち止まって自分の仕事の進め方について振り返ってみてください。その処方箋は、患者にとって有益な内容になっているでしょうか。それを確かめるためにも、患者や地域の医療機関との関係強化を目指していきましょう。

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